不公平な扱いに対する反応は犬種によって違う?
犬をはじめとしてサル、カラスなど多くの動物は、他の仲間と比べて不公平な扱いを受けたときにそのことを理解し、不満や嫌悪を表現することが分かっています。中でも犬は様々な作業に携わることで人間の生活を助けてきたことから、人間からの扱いに対する反応について研究が多く行われています。
そのような研究の中で立てられた仮説に「飼育されている人間からの報酬や愛情が不公平だと感じたときに、そのことに対して強い反応を示したいくつかの犬種が、公平さを求めてより人間に協力的になるよう進化した」というものがあります。
例えば、牧羊犬の代表的な犬種であるボーダーコリーは不公平さに対して強い嫌悪を示すため、人間と共同で行う牧畜のような作業について大きく進化したが、シベリアンハスキーは不公平な扱いに対してあまり気にしないので独立気質が強い、というのがこの仮説です。
しかし、オーストリアのウィーン獣医科大学の研究チームが発表した新しい研究では、この仮説を裏付ける証拠がほとんどなかったとしています。
共同作業の犬種と独立作業の犬種で比較
この研究では、24匹の犬が不公平な扱いに対する反応を調べる実験に参加しました。12匹は人間とのコンタクトを取りながら共同作業をする犬種(オーストラリアンシェパード、ボーダーコリー、ラブラドールレトリーバー、ラフコリーなど)でした。別の12匹は自立した気質で、独自に作業をすることが多い犬種(秋田犬、柴犬、シベリアンハスキー、バセンジー)でした。
犬たちは実験者から「お手」の合図を受け取り、反応が観察されました。実験者は2匹の犬に交互に「お手」をするように合図を出しましたが、常に1匹の犬にのみ報酬のトリーツが与えられました(ひどいですね!)
以前の仮設では、共同作業犬種の犬たちはこの扱いに強い不満を示し、独立作業犬種の犬たちはあまり気にしないとされているのですが、この実験の結果はどちらのグループの犬も不公平に対して嫌悪感を示しました。不公平に対する否定的な反応において、グループ間の有意な違いはなかったということです。
2つのグループ間で見られた違いは?
不公平な扱いに対して不満を持つことはどちらのグループの犬たちも同様でしたが、いくつかの違う点もありました。
独立作業の犬種の犬は、報酬がもらえないと知った時点で「お手」をする回数が少なくなりました。共同作業の犬種の犬は、報酬をもらえなかった後でも独立作業の犬よりも長い時間、合図に対して「お手」を返していました。
また実験以外の自由時間では、共同作業の犬種の犬たちは実験のパートナーの近くで過ごす時間が独立作業の犬たちよりも長かったことも分かりました。これは、共同作業の犬種では人間に対してより協力的な個体を選択して繁殖してきた歴史が反映されている可能性があると研究者は述べています。
まとめ
人間からの不公平な扱いに対する嫌悪や不満には犬種による違いはないという実験の結果をご紹介しました。このリサーチはサンプル数は少ないものの、不公平への嫌悪と人間への協力という反応はセットで進化してきたという仮説について「違うのでは?」という結果を示すものです。研究チームは、このリサーチが犬種の違いに関する将来の研究のベースになることを期待しているとのことです。
私たち一般の犬の飼い主が心に留めておきたいことは「犬は不公平な扱いを認識して、不満を感じる」という点ですね。「今更そんなことを言わなくても当たり前じゃない?」という方が多いかと思います。
けれど、不満を感じるとすぐにお手を止める犬であれば分かりやすいですが、不満を感じつつも人間の要求に応えてくれる犬では気づかない人もいるものです。生き物に対して尊重する気持ちを忘れずにいたいものだと感じさせられる研究結果でした。
《参考URL》
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0233067