橇を引く犬の起源と進化を調査
北極圏など極寒の地で橇(そり)を引く犬は「そり犬」と呼ばれ、古くから人間のために働いてきた犬種グループの犬です。現代のそり犬は、アラスカンマラミュート、シベリアンハスキー、グリーンランドドッグですが、他の犬種グループに比べてその起源と進化があまりよく知られていません。
このたびデンマークのコペンハーゲン大学の研究者チームが、DNAの分析結果から現代のそり犬の起源は今まで考えられていたよりもずっと古く、また考えられていたよりもずっと北極圏の人間や気候に順応していたことが分かったと発表しました。
9,500年前のそり犬のゲノム解析
研究チームは古代のそり犬、10匹の現代のそり犬、古代のオオカミのゲノム配列を決定し、他の現代の犬との遺伝的関係を分析しました。
研究者が最初に行ったことはシベリアで発見された9,500年前の犬からDNAを抽出することでした。そのDNAに基づいてゲノム配列を決定しました。これは現在のところ最古の犬のゲノム配列です。
今回の研究以前は、この9,500年前の犬は古代犬のような犬だと考えられていました。古代犬は初期の飼いならされた犬で、全ての犬の共通の起源です。しかし、この研究で、9,500年前のそり犬はシベリアンハスキー、アラスカンマラミュート、グリーンランドスレッドドッグとゲノムの大部分が共通していました。
これは古代のそり犬と現代のそり犬が9,500年以上前に同じ共通の起源を持っていたことを意味します。これまで現代のそり犬は2,000〜3,000前に出現したと考えられていました。
研究者たちはさらに、33,000年前のシベリアオオカミと10匹の現代のグリーンランドスレッドドッグのゲノム配列を決定し、9,500年前のそり犬のものと比較しました。現代のそり犬はゲノムの多くが古代のそり犬と共通していることがわかりました。現代のそり犬は現代の他の犬種とも共通するところが多いのですが、グリーンランドスレッドドッグは他の犬種との重複が最も少なく、古代の犬に最も近いと考えられます。
古代のオオカミとの比較でも、9,500年前の犬に共通する部分がありました。33,000年前のオオカミと共通する点があることは古代オオカミとの交雑を示しています。
北極圏での生活に古代そり犬が馴染んでいた痕跡
そり犬の起源が少なくとも9,500年前にまで遡るということに加えて、そり犬と他の犬種との違いについても理解が深まりました。シベリアンハスキーやアラスカンマラミュートなどのそり犬は、他の犬種の犬が持っているデンプンや糖質を多く含む食事に対する遺伝的適応を持っていません。つまり他の犬種よりもデンプンを消化することが苦手です。
一方、古代そり犬も現代のそり犬も高脂肪の食事には遺伝的に適応しています。これはホッキョクグマや北極圏に住む人間(イヌイット)と同様のメカニズムだと考えられます。
これはそり犬と北極圏の人々が9,500年以上に渡って一緒に働き、犬が環境に順応していたことを示しています。
まとめ
現代のそり犬の起源について、古代のそり犬や古代のシベリアオオカミとゲノム配列の比較をしたところ、今まで考えられていたよりもずっと以前からそり犬は人間とともに働き生活に順応していたという研究結果をご紹介しました。
遺伝子を解析することで、従来の常識が覆ることが増えています。そして、現代の犬のルーツが明らかになり、古代の犬たちの生活も分かるようになっていくことは犬好きのロマンが刺激されますね。
《参考URL》
https://science.sciencemag.org/content/368/6498/1495