犬のエイジングについての研究プログラム
アメリカで獣医学の科学者が中心となって活動している『ドッグ・エイジング・プロジェクト』という研究プログラムがあります。研究のための資金は国立衛生研究所と一般からの寄附によって賄われており、研究のためのデータ収集には獣医療機関の過去のデータや、一般から協力を募集した家庭犬のデータが利用されています。
犬の加齢に伴う病気の進行や治療、生活環境や身体的な条件が老化や寿命に及ぼす影響などが広範囲に研究されています。家庭で飼われている犬は人間と同じ環境で生活しており、人間と同じ病気を患うことも多いため、犬の加齢と寿命の研究は人間の健康や病気治療に応用されることも多々あります。この研究プログラムは、犬と人間両方の健康と福祉のために進められています。
そのドッグ・エイジング・プロジェクトの研究者から、アメリカの家庭犬の寿命に影響すると考えられる様々な条件についての統計結果が報告されました。
民間の動物病院のデータから犬の寿命を分析
このたびのリサーチはプロジェクトに参加しているワシントン大学医学部の病理学者のチームによって実施されました。リサーチのためのデータはアメリカの民間の動物病院3件の協力によって収集されました。企業や大学病院以外の民間の診療での犬の寿命に関する研究では初めての大規模なものです。
リサーチに使われたのは1年分、20,970匹の犬のデータで、うち1,535匹(7.3%)がその年に死亡しています。亡くなった犬の、年齢、犬種、体重、性別、避妊去勢処置の状態、分かる場合は死因についての情報を得て、これらの要因が犬の寿命にどのよう影響するかが調査されました。
いくつかの要因と犬の寿命との関連
データの分析から得られた統計結果には次のようなものがありました。
大型犬は小型犬よりも平均寿命が短い
これは既に広く知られている通りです。この統計から分かるのは、このデータ全体が既知の事実から乖離しておらず、信頼性があるということです。
避妊去勢処置済みの犬の方が寿命が長い
避妊去勢手術によって性腺切除済みの犬の方が、そうでない犬に比べて寿命が長いことが分かりました。また手術の有無による寿命の違いは、オス犬よりもメス犬の方が大きいことも分かりました。ここでは避妊処置無しのメス犬の出産経験の有無については言及されていません。
純血種と雑種の犬の寿命の差は見つからなかった
俗に雑種犬は長生きすると言われることがありますが、純血種と混合種の犬の間で寿命に有意な差は見られませんでした。ただし、同系血統や近親血統との交配が多く行われている犬種では、やや寿命が短い傾向が見られました。反対に遺伝的多様性の高い犬種は長生きの傾向がありました。
遺伝子グループがマウンテン系の犬種は寿命が短い
ドッグショーや一般的な犬種分類で使われる犬種のグループとは別に、遺伝的なパターンによって犬種を分類したグループがあります。この分類では主に5つの遺伝的グループがあり「古代系」「モロッサー系」「サイトハウンドと牧畜犬」「猟犬とトイドッグ」「マウンテン系」に分けられます。
この中でマウンテン系の犬種は有意に寿命が短い傾向が見られました。マウンテン系の犬種は大型〜超大型犬種が多いのですが、その点を補正してもなお短命であることがわかりました。
まとめ
アメリカで民間の動物病院での診療データからリサーチされた犬の寿命に関する統計をご紹介しました。この研究を含むプロジェクトは、犬の遺伝子、ライフスタイル、環境が老化や寿命にどのように影響するかを理解し、犬と人間が病気のない健康な期間をできるだけ長く生きられるよう役立てることを目標にしています。
今回のリサーチは統計の結果ですので、なぜそうなるのかという因果関係には言及していません。避妊去勢処置の有無、マウンテン系グループの犬種の寿命については今後さらに研究が必要だとしています。
犬についての科学は日々進歩しており、知っていると思っていたことが実はもう古い知識であるということも少なくありません。愛犬の生活の向上のためにも新しい情報にアンテナを張っておきたいですね。
《参考URL》
https://cgejournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40575-020-00086-8
https://dogagingproject.org
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3559126/