権勢症候群(アルファシンドローム)とは
権勢症候群(アルファシンドローム)と聞くと医学的なことかと思いそうですが、日本警察犬協会のホームページには、権勢症候群とは、一歳前後から始まる犬の問題行動の一つであり、病名ではなく、症状のことを指す言葉だとあります。つまり、犬が飼い主より権力を持とうとしてとる問題行動が発生している状況です。
例として、飼い主の言う事を聞かない、散歩のとき犬が自分の行きたい方へ行く、飼い主を噛む、飼い主にマウンティングするなど、人間を困らせるさまざまな行動のことを言います。このような状態の犬は場合によっては、飼い主に対して猛獣のような対応をし一緒に暮らすことが困難だと感じさせるような絶望的な状況に陥らせる場合もあります。
ただ、そのような症状を見せるのには何か理由や意味があるというのがほとんどで、その原因を解決すれば治る可能性が高い場合がほとんどなのです。
権勢症候群(アルファシンドローム)は嘘?
権勢症候群(アルファシンドローム)とは、強いリーダーシップを持った犬が群れの頂点にたつという性質を利用してしつけを厳しく行うことが、犬との関係をより良いものにするという考えです。
犬に言うことを聞かせるためには、犬よりも権威を持って置かなければいけないと思い、犬にツラく当たってしまったり、どれだけ可愛いと思っていても厳しくしつけを行っている人もいるでしょう。しかし、最近ではそのしつけの考えが間違いであるというのが正式に学会で発表されたのをご存知でしょうか?
アルファシンドロームによって唱えられていたリーダー論は実は間違いだったと否定されたということです。そもそも、犬は権威を持ったものに服従するとされていましたが、これは犬の祖先である狼が元となっています。
犬と狼、確かに姿は似ていますが全く別の生き物ですよね。犬からすれば「猿もゴリラもチンパンジーも人間も同じ動物でしょう?」なんて言われている感覚に近いのかもしれません。
確かに狼が祖先ではありますが、狼と犬は違う進化の過程を辿っているため、やはり違う動物となっているのです。さらにいうと、リーダーに服従をして群れを形成しているという考えも嘘だったと判明しています。群れのリーダーに従う感覚は、実は親子関係に似ていると言われています。
人間でいうところの、子供が親の意見に従うのと同じだというのです。今まで人間を困らせるような行動をして、権勢症候群だと診断されていた犬達はそのような症状ではなく、何らかの理由で人間に対して反抗期を起こしていただけだというのです。
権勢症候群のような行動の原因
権勢症候群は嘘だったと学会で発表されてはいても、人間を困らせるような行動を見せる犬がいるのは事実です。まだワガママをいうだけならば可愛いものですが、時には噛んだり吠えたりする、人間に反抗的かつ凶暴な対応をすることもありますよね。
そんな犬達は、もしかしたら人間の行動や対応によって、心が傷つきこちらに反抗的な態度をとっているのかもしれません。
例えば、手術や怪我によって痛い思いをしたことがトラウマとなって誰かに近づかれることに怯えている可能性もあります。またしつけと称して殴られたり、ひどい仕打ちをされたことに恐怖を感じて防衛のためにそのような行動をとっている可能性もあります。
さらに、満足に餌を与えてもらえなかったり、気分によって散歩に行ったりいかなかったり、遊んだり構ってあげたりするのも時々か気まぐれ。
可愛がってもらうのもひどい仕打ちをされるのも、飼い主の気まぐれだったら、犬からしてもどうすればいいのかわからなくなりますよね。しつけは大切なことですし、人を傷つけるような行為をしてはいけない、困らせるようなことはしてはいけない、という人間社会で生きていくルールを教えることは大切です。
しかし、人間が犬を支配し、自分の思い通りに動かないなら体罰を与えるようなしつけは時代遅れであり、その行動こそ権勢症候群のような症状を引き起こす原因となります。
時代遅れな、犬をただ恐怖でねじ伏せるようなしつけはやめて、人間の子供のように愛情を持って接してあげることが大切です。
ただし、甘えさせすぎると、ワガママな困った犬になってしまいますので、ダメなものはダメという毅然とした態度も忘れないようにしましょう。優しくも厳しく、そして愛情を持ったしつけを行う、それが犬と信頼関係を結ぶコツでもあります。
権勢症候群のような行動の対処法
権勢症候群のような症状が見られたら去勢をしてあげると良い。なんていう話が昔はありましたが、現在はそのようなことはありません。むしろ、去勢手術を行うことで、犬は痛い思いをして傷つけられたことに恐怖を感じてさらに困った行動やこちらに心を開かない行動を取る場合もあります。
もちろん、去勢手術を行うことは大切ですし、望まぬ命を生み出さないためにも手術を行っていただきたいとは思いますが、権勢症候群のような症状の治し方として去勢を選択するのはやめておきましょう。
ではどのように対処をすれば良いのか。正しい対処法とは、犬の気持ちに寄り添って愛情を持ってしつけを行うことです。どのようなお困り行動に悩んでいるのかは人それぞれでしょうが、しつけを行う時に気をつけなければいけないのが犬に恐怖心を植え付けないことです。
もしかしたら、権勢症候群のような症状を見せているのは、飼い主に恐怖心を抱かせているからかもしれません。しつけをしなければと、ガミガミ怒ったり体罰を与えたりするのは絶対にやってはいけないことです。
しつけを行う時のコツは、ダメなことは短くわかる言葉でハッキリと伝えること。そして、ちゃんとできたらたくさん抱きしめて褒めてあげることです。犬は大切な家族であり、飼い主にとって子供でありパートナーです。そんな大切な家族を、恐怖で支配するのはよくありませんよね。
権勢症候群にならないように、厳しくしつけを行っている方もいらっしゃるでしょうが、その恐怖と痛みで行動を制限しようとする対処法こそが、犬にストレスを与えて反抗的な行動をさせているのかもしれませんよ。
権勢症候群のような状態になりやすい犬種
権勢症候群のような症状とは、自我が強く、気の強い犬がなりやすいのです。どのような犬がなりやすいかは、その犬の生まれ持った性格が大きく関係をしていますが、主に以下のような犬になりやすいと言われています。
- 柴犬
- トイプードル
- ポメラニアン
- チワワ
これらの犬に共通して言えることは、飼い主には忠実だけれども警戒心が強く、頭が良い犬種であるという点です。大変頭が良い犬であるため、人に対して警戒心も強くなりますし、自分が何をされているのか、相手がどのような感情を自分に抱いているのかというのも敏感に察知できる感受性の強い犬種だからこそ、権勢症候群のような行動をするのです。
飼い主であっても、自分を支配しようとする相手や、自分に痛みや恐怖を与えようとする相手には威嚇をするのは当たり前ですよね。逆に何を言っても甘やかしてくれる飼い主にも、言いたい放題、ワガママ放題の犬となってしまいます。
困った犬にならないようにするためには、子犬の頃からしつけを行うのと同時に信頼関係も築けるようにしておくのが大切です。犬を自分の支配下におくのではなく、自分の子供を育てるように社会のルールを学ばせるという感覚でしつけを行うとうまく行きやすいですよ。
まとめ
権勢症候群というものはないというのが、現在の常識であり、犬に対してしつけを厳しく行い、マウントを取り、完全に服従をさせるしつけは行うべきではないというのが正しい見解です。とは言っても、実際に犬のしつけを行っていると、どうしても困った行動に悩まされることもありますよね。
そんな時「自分は犬になめられているから?」「犬が自分を下に見ているから?」と、いう気持ちが芽生えきつく当たってしまったり、恐怖や痛みで犬を服従させようという気持ちになってしまうこともあります。
しかし、それでは犬と良い関係を築けたとは言えません。犬と人間の間に必要なのは「信頼関係」です。犬が権勢症候群のような困った行動を見せたならば、そこには言葉を喋れない犬の必死の訴えがあります。言葉のわからない犬にとって、人間社会のルールを学ぶのは大変なこと。
しかし、それを愛情を持って教えてあげるのが親代わりである飼い主の仕事です。そこに、犬を服従させることは必要ありません。犬を信頼し、愛情を持って根気よく教えてあげれば犬も必ず答えてくれます。
それでも難しいならば、信頼できるドッグトレーナーを探してしつけについて学んでみましょう。ただし、ドッグトレーナーの中には古い知識である権勢症候群を信じて実行している方もいます。
様々な考えを持っている人がいるでしょうが、学会ではそのようなしつけは犬に悪影響を与えると発表されていますのでやはりおすすめはできません。できるならば、犬と信頼関係を築くことを大切にしているトレーナーを探す方が良いでしょう。
犬を家族に迎えた以上、犬にとって幸せな生活、幸せな一生を送らせてあげるためにはどうすればいいのか、そのことをしっかりと考えて、たくさんの楽しくて心温まる思い出を築けるようにしましょう。
ユーザーのコメント
女性 シュナ
40代 女性 rose
かわいい子犬に対して、当時は本気で怒っているつもりでもまだまだ甘かったんだな、と今となっては反省することばかりです。元気いっぱい、何でも楽しいお年頃の子犬には、飼い主の怒りでさえゲームになってしまっていました。愛犬にこの怒りがどうやったら伝わるんだろう、と試行錯誤した思い出があります。
楽しく遊ぶときと、厳しくするとき、メリハリを大げさなくらいつけないと犬はわかってくれないもののようで、愛犬が3才くらいまでは犬のしつけならぬ、まずは飼い主のしつけのような時間を過ごしました。
30代 女性 モカ
30代 男性 かずま
30代 女性 匿名
40代 女性 WOOF
女性 カモノハシ
50代以上 女性 菜の花
いまだネットでみかける狼の群れを参考にしたリーダー論やアルファ論に関しては、
その元になった狼の研究者であるDavid Mech本人が狼の群れ内アルファ説は間違いであったと後々発表しています。それが、たしか1999年頃だったと思います。
その後、2008年に米国獣医動物行動研究会(AVSAB)がアルファ論を支持しない声明を発表し、犬の飼い主に注意を呼びかけています。
30代 女性 匿名
犬は可愛い可愛い、と盲信する方は多くいますが そういう方は 見ていますと 脚側行進も犬に教える事もせず 犬が苦手な方を 怖がらせている状態であるのは よく見ます
技術もないのに 犬をフラフラ散歩させ、飼い主同士は ダラダラ話ながら 他の飼い主の事は 鬼の首をとった様に注意してくる方々がいますが 非常に不快です
キチンとした躾がなされないまま、自分は犬愛護だ、動物愛護だ、というのは 見苦しいですね
意見出来る資格を持つのは 実際に 危険動物並みになった分離不安や権勢症候群を治してきた方々だと思います
女性 匿名
犬を預かった時は 肉球が全て裂けるか剥がれるかして血塗れ、糞尿まみれで 我が家にきました
犬は自分が一番上の存在であり 人は下僕、奴隷、といった感じでした
犬の意に少しでもそぐわない事は何であろうと攻撃対象です
散歩は 散歩をしている自分(犬)とお供(人)以外は 全部、目障りな敵…といったところでしょうか、道ですれ違う人、犬、猫等に唸る、吠える、牙を剥く、襲い掛かろうとする…そんなイベントが散歩、という状態です
飼い主が愛情を間違った形でかけ続けてきたのが 最もな原因でした
ただひたすら犬の思うままに、我が儘勝手をさせ 傍若無人な暴君にさせていきました
そうすることが愛情だと思っていました
これらを 散歩は他者を襲うイベントではない、唸るのもダメ、噛みつくのもダメ、襲い掛かるのもダメ…と一つ一つ 認識を改めさせルールを教えて行きました
その結果、約半年で リードを引っ張る事などあり得ない認識での散歩は 脚側行進を当たり前にでき、信号では座って待つ、マテは20~30分は普通に出来る、人の命令には素直に従う(得意げに従う)までになり、獣医師さんからは 訓練所に預けたのと同等程度に改善されている、とお墨付きを頂きました
この様な状態に一度なった犬は 基本的には 子供のいる家庭には 幼児にとっても危険ですし、犬にとっても優位に立とうとするので 向かないでしょう
ですが、我が家には 幼児も問題犬もいる…
実際、この犬を処分できたら どれ程楽か…と思った事もあります
しかし、大切な命あるものです
人のいる環境で暮らす以上、人と犬とがよい関係を築いていかなくてはなりません
権勢症候群、アルファシンドロームは 間違っていたもの、俗説、と書かれている方々がいらっしゃる様ですが…この方々は 糞尿にまみれ、血塗れ、おおよそ攻撃性と甘えしかないような犬に向き合った事が どれ程あるんでしょうか
知識のみを振りかざし 経験も結果も出していないのであれば…必死に耐え、犬と共に頑張っている人に対する暴力であり、暴言に等しいです
現に私は 傷つきましたから
権勢症候群、というのは単なる言葉に過ぎないのかもしれません
しかし、自分が一番で 人や他の生き物に襲い掛かろうとする状態の犬はいます
今は、人の子育てや犬の躾でも “叱らない” というのが主流とされ、ほんの少しでも手をあげれば“虐待”と罵られる風潮ですが…裏をかえせば、叩けば瞬時に崩れる程の希薄な信用しか築けない方々の言葉に思えます
これは 預かった犬との生活で『自分の子供の指がいつ噛み千切られても何の不思議もない切迫した状態』を 味わってきたから言える事でもあります
私とて 暴力や虐待は絶対にあってはならない と思います
ですが…躾、教育していく上で 取り押さえたり 叩いたりすることは 必要な事もあります
人も俗説だとのたまうよりも、正しい知識を 身に付け 犬と愛情と信頼で繋がるような良い関係を築いて欲しいと思います
今、一時期預かって飼い主に帰したトイプーが また我が家に来ています(飼い主さん負傷の為入院になりました…)
まだ、分離不安の症状はありますね…
でも、かつての攻撃性ばかりだった姿は 今はありません
隣で穏やかに寝ています
30代 男性 匿名
個人的には本能はさておき権勢症候群と言われる問題行動は嘘でも何でもありませんし、人と犬の関係を犬の家族関係基準で語るのは少し違う気がします。
うちの犬もそうでしたが、リーダーウォークの様なトレーニングを契機として解決に至るケースが多くあるのも事実です。当世風に犬と人の関係構築を図るアプローチとして考えても、既存のアプローチを頭ごなしに否定はできないかと。もちろん一生面倒を見るという愛情と覚悟あってのしつけ・教育であるべきですが。
一概に支配欲が問題行動の原因だと言えないのは同意なんですが、人間同士でもいじめっ子がいたりするぐらいですから…人との関係をこじらせるパターンの1つとして支配欲旺盛な個体もいるということも否定されているのでしょうか?