報酬ベースのトレーニングと嫌悪刺激ベースのトレーニング
犬のトレーニング方法にもいろいろなタイプがありますが、近頃は犬が望ましい行動をしたときにトリーツなどの報酬を与えて、行動と良い経験を結びつけて固定化していく報酬ベースのトレーニング方法が主流です。
一方で、今も根強く支持されている嫌悪刺激ベースのトレーニング方法があります。これは犬が望ましくない行動をしたときに罰を与える方法です。チョークチェーンを使ったり、大きな声で叱ったりすることで、この行動をすると嫌なことが起きると学習することで、望ましくない行動を消していく方法です。
後者の嫌悪刺激ベースのトレーニング方法は、犬が人間に対して持つ愛着の気持ちにマイナスの影響を与える可能性が指摘されてきましたが、従来の研究では科学的な証拠が弱く曖昧な部分がありました。
そこでこのたび、ポルトガルのポルト大学の研究者のチームが、トレーニング方法の違いによる犬と飼い主の愛着関係を客観的にリサーチした結果を発表しました。
トレーニング方法別に、犬と飼い主が受けたテスト
研究チームは『奇妙な状況テスト』と呼ばれるテストを実施しました。元々は子供とその保護者の間の愛着関係を観察するために考案されたテストなのですが、犬と飼い主用にアレンジしたものが使われました。
テストに参加したのは、6つの訓練所から募集した34匹の犬と飼い主です。6つの訓練所のうち3つは報酬ベースのトレーニング方法を採用しており、残りの3つは嫌悪刺激ベースのトレーニング方法を採用しています。
テストは家具などのない実験用の部屋に二脚の椅子と床にたくさんの犬用おもちゃを置いて準備されました。最初に飼い主と犬が部屋に入り、飼い主が椅子に座り、犬はオフリードで自由にされます。しばらくして犬にとって知らない人が部屋に入ってきます。その後飼い主は部屋を出て行き、あまり時間を置かずに見知らぬ人も部屋を出て、犬だけが部屋に残されます。その後飼い主はまた部屋に戻ってきます。
この間の犬の行動やボディランゲージが観察され、犬と飼い主の愛着関係が分析されました。
訓練方法の違いが犬の行動に現れていた
このテストでは、犬と飼い主の間に良好な愛着関係がある場合、犬は飼い主のそばを「安全な場所」だと認識しリラックスします。
報酬ベースのトレーニングを受けている犬と嫌悪刺激ベースのトレーニングを受けている犬の行動を観察分析した結果、報酬ベースのグループの犬たちは嫌悪刺激ベースのグループよりも、飼い主との間に良好な愛着関係があるように見えました。
具体的には、報酬グループの犬は嫌悪刺激グループに比べて、見知らぬ人がいるときよりも飼い主がそばにいるときの方が長い時間おもちゃで遊んでいました。また報酬グループの方が、飼い主が部屋を出ようとするときの後追い行動、部屋に戻ったときの歓迎行動がはっきりと観察されました。
飼い主が部屋にいるときのコンタクト行動や、飼い主が部屋を出た後の分離苦痛行動については、2つのグループ間に大きな差はありませんでした。
2つの訓練方法のどちらも、犬の行動に対して起こる刺激で行動を条件付けていくものですが、報酬ベースでは「飼い主〜トリーツという刺激〜嬉しい感情」が繰り返されるのに対し、嫌悪刺激ベースでは「飼い主〜罰という刺激〜不快感」が繰り返されるわけですから、飼い主に対する犬の愛着に違いが出るのは無理もないと言えるでしょう。
まとめ
ポルトガルの研究者が、報酬ベースと嫌悪刺激ベースの2種類の違うトレーニング方法を受けた犬たちを比較して、飼い主との愛着関係を調査した研究結果をご紹介しました。
従来から嫌悪刺激ベースのトレーニングは飼い主への愛着を弱める可能性が示唆されていたのですが、トレーニング方法と愛着の関係を包括的かつ客観的な方法で検証した研究はこれが初めてのものです。
犬のトレーニング方法は様々なやり方があり、犬の個性や状況によって何か1つだけが唯一絶対に正しいと言えるものではありません。
けれどもトレーニングの方法によって犬が自分に感じる愛着度が左右される可能性というのは、知っておきたいものです。
そもそもトレーニングというのは犬も人間もハッピーで互いに良好な関係を築くためのものです。そう考えると自ずと答えが出てくるのではないでしょうか。
《参考URL》
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0168159119300127
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20代 男性 匿名