病院が怖い犬についてのオーストラリアでの大規模調査

【獣医師監修】病院が怖い犬についてのオーストラリアでの大規模調査

動物病院が嫌い、怖いという犬は少なくありませんね。オーストラリアの研究者が、病院を怖がる犬の割合やその内容について行った大規模な調査の結果をご紹介します。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

動物病院が怖い犬のファクターについての調査

診察を受けるジャックラッセルテリア

動物病院は犬や猫にとっては楽しい場所ではありません。たまに病院大好き!獣医さん大好き!というワンちゃんもいますが、それはとてもラッキーなケースです。

最近は犬や猫が感じる「怖い」という感情を従来よりもきちんと考えようという傾向が強くなり、動物を扱う専門家に対して動物の恐怖やストレスのマネージメントを指導する団体なども活動しています。しかし犬の「怖い、嫌い」に対応するためには、まずはそれ自体をよく知ることが大切です。

この度オーストラリアのアデレード大学獣医学科の研究チームによって、動物病院での検査や診察時に恐怖を感じる犬が持つファクターを調査する大規模な研究が行われました。

Edwards PT, Hazel SJ, Browne M, Serpell JA, McArthur ML, Smith BP (2019) Investigating risk factors that predict a dog’s fear during veterinary consultations. PLoS ONE 14(7): e0215416. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0215416

調査はC-BARQ(犬の行動評価と調査の質問票)を使用したオンラインアンケートでデータ収集をして行われました。

C-BARQについて監修獣医師による補足

C-BARQ(Canine Behavioral Assessment and Research Questionnaire)とは、2003年に米国ペンシルベニア大学の研究者によって開発されて以降、犬の問題行動の発生率と程度を計測するために世界中で使用されているシステムです。

獣医師:木下 明紀子

病院での犬の「怖い」に関する様々なファクター

診察台で伏せてしまったビーグル

このアンケートでは、2015年から2016年にかけて6ヶ月齢以上の26,555匹の犬のデータが集められました。このアンケートの最も重要な項目である「病院での診察や検査中に犬が示す恐怖のレベル」については、犬がどのような動作や行動を示したかが具体的な例として提示されました。

重度〜極度の恐怖を示す行動として示された例は

  • アイコンタクトを避ける
  • 怖いと感じる物体を避ける
  • うずくまったり体を縮こませる、又は尻尾が下がったり足の間に入れてしまう
  • キュンキュン鳴く
  • 震えて動かなくなる

軽度〜中程度の恐怖を示す行動として示された例は

  • 極端な萎縮
  • 怖いと感じる物や人または状況から激しく逃れたり隠れようとすること

結果は、41%の犬が軽度〜中度の、14%の犬が重度〜極度の恐怖を示したというものでした。

それらの恐怖を示した犬が持つファクターを解析した結果、犬種グループ別に見るとでは、恐怖心を示す割合が最も高かったのはトイグループの犬で、次にミックスとハウンドグループが続きました。(犬種グループは、ANKC:オーストラリアン・ナショナル・ケンネル・カウンシルの分類に基づいています。)

恐怖を示す割合が最も低かったのはユーティリティグループ(ドーベルマンやボクサーなど番犬、シベリアンハスキーやバーニーズマウンテンドッグなど作業犬を含む。主にJKCの第2グループと第5グループに相当。)とガンドッグ(レトリーバーやスパニエルなどの鳥猟犬。

JKCの第7グループと第8グループに相当。)でした。

またブリーダーの下で繁殖に使用されている犬、ショードッグ、その他実際に仕事を持つ犬では恐怖を示した犬が低少なく、仕事を持たないコンパニオンドッグは動物病院で恐怖を示す犬が多かったこともわかりました。

他には次のようなこともわかりました。

  • ブリーダー出身や家で繁殖されてそのまま飼われているの犬では恐怖を示す犬が少なく、ペットショップ出身の犬は恐怖を示す犬が多かった
  • 大きい犬(体重22kg以上)は小さい犬(体重22kg以下)よりも恐怖を示す犬が少なかった
  • 多頭飼いの犬では恐怖を示す犬が、一匹だけで飼われている犬より少なかった(同居犬の年齢によっても、恐怖を示した犬の割合に差があった)
  • 経験豊富な飼い主の犬では恐怖を示した犬が少なく、初めて犬を飼った飼い主の犬では恐怖を示した犬の数がそれより多かった

病院での犬の恐怖を和らげるのに大切なこと

注射を受ける不安げなシェルティ

上で述べたような犬種や犬の出自などは変えることのできないファクターです。研究者はこれらの変えられないファクターだけが、病院での犬の恐怖を考える時の大きな要素ではないと述べています。犬の恐怖を左右するの大きいファクターは、病院の環境、病院での過去の経験、犬と人間との関係(犬と飼い主の関係、療動物病院スタッフの犬の扱い方など)であるということです。

研究者は、個々の犬の背景や動物病院の環境、それらが犬の恐怖ファクターとどのように組み合わされているかをさらに調査する必要があると述べています。

この研究チームではありませんが、動物を恐怖から解放するための工夫を提唱する団体では、動物病院の待合室はパーテーションなどを使って他の動物との対面を避ける、動物が落ち着く匂いや音楽を流すなどの環境設定を推奨しています。また動物ができるだけ恐怖を感じない触り方、声や話し方の指導も行われています。

様々な動物病院や獣医師がいますが、愛犬のために最良の選択をするには飼い主にも知識が必要ですね。

まとめ

ドクターの顔を舐めるシェパード

オーストラリアの研究者がリサーチした、動物病院で恐怖を感じる犬が持つファクターについてご紹介しました。犬が病院をあまりにも嫌がると、検査などもついつい疎遠になりがちで、それが病気の治療を左右することにもなりかねません。そのようなことが起こらないためにも、犬の恐怖や精神的苦痛をできるだけ取り除く取り組みをすることが、動物病院でのスタンダードになることを心から願います。

《参考URL》 https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0215416

監修獣医師による補足

本記事で紹介されている論文は、統計学の専門知識がないとなかなか理解しづらいものですが、どんな犬が①動物病院で、②不慣れな場所で、③シャンプーやトリミング、爪切りなどの際に、④大きな音や車、慣れない状況で恐怖を感じるのかを解析したものです。

動物病院で恐怖を感じる犬にどんな犬が多かったかは、本記事で説明されている通りですが、他にも動物病院で恐怖を示した犬は②~④の場面では恐怖を示したか、また複数のファクター同士の相関を解析したり、今回の研究結果と過去の研究結果を比較したりして、動物病院での犬の行動をより理解し、犬の福祉に役立てようとしています。

今回の研究では、どんな犬が動物病院で恐怖を示すかに関しては犬種が最も大きくかかわってくる、という結果が出ました。それを受けて研究者たちは、恐怖を示す確率が高い犬種の飼い主に行う指導も大事だけれども、犬種にかかわらず初めて動物病院に来た犬にネガティブな記憶を植え付けないような予防措置をとることが非常に重要だと述べています。

また、基本的なマナーを犬にしつけることと適切な社会化に加え、動物病院やトリミング施設での良いハンドリングやトリミング技術も犬が感じる恐怖を減らすために有効だろうとも述べています。

日本では、JAHA(日本動物病院協会、https://www.jaha.or.jp/)という団体がHAB(ヒューマン・アニマル・ボンド、人間と動物の絆)を尊重するという理念のもと、様々な講座や認定制度を通じて犬と人間双方の福祉の向上を目指しています。

獣医師:木下 明紀子
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