ペットが生きる環境をFear Freeに
ペットと暮らしていると日々感じることですが、犬や猫には怖いものがたくさんあります。
たとえ大型犬でも人間よりも体が小さい上に、私たちの日常生活は自然の世界には存在しない、動物には理解不可能なものが溢れているのですから無理もないことですね。
ペットが怖いと感じるものをそのままにしておくことは、ペットの生活の質を低くし、精神的にも悪い影響を与えます。場合によっては攻撃性につながってしまったり、脱走して迷子になってしまったりということもあります。
そういうペットが感じている恐怖、ストレス、不安にきちんと対処すること、ペットが恐怖を感じなくて済むように工夫することを、獣医療関係者やペットの専門家のコミュニティおよび、一般の飼い主向けにオンラインやセミナーを通じて、教育していこうと立ち上げられたのが『Fear Free』のプログラムです。
『Fear Free』が目指す目標と活動
Fear Freeは2016年に、アメリカのマーティ・ベッカー獣医師によって立ち上げられました。
ベッカー獣医師は、病院での業務の他、書籍や雑誌への執筆、動物保護団体へのサポートなどを精力的にこなし、様々な形で犬や猫と触れ合う中で、「人間はもっとペットの恐怖を理解して正しく向き合わなくてはならない」という思いを強くしたことが、Fear Free立ち上げにつながりました。
Fear Freeの活動
Fear Freeは、ペットの恐怖や不安、生活のエンリッチメントに関するリサーチのサポート、獣医師や専門家によるセミナーや講演などイベントの運営、SNSやブログを通じての情報発信などを通じて、ペットの生活を恐怖から解放するための活動を行っています。
中でも、同団体が実施している試験に合格した獣医師やトリマー、トレーナーなど専門家を「Fear Free認定」として、認定証を授与することで、教育啓蒙活動と団体の地名を高める活動の両方を一気に進めているのは画期的な方法です。
一例を挙げると、動物病院での恐怖への対応はこんな感じ
Fear Freeの具体的な活動の一つで、同団体がとりわけ力を入れている動物病院でのペットの恐怖への対処を例に挙げて見てみましょう。
動物病院での処置を怖がったり、強いストレスを感じたりする犬や猫は多いものです。Fear Freeでは獣医師や病院スタッフ向け、一般の飼い主向けに様々な提案をしています。
病院への提案
- 診察室や処置室で、動物の気持ちを落ち着ける擬似フェロモンの匂いを利用する
- 犬と猫の待合室を分ける
- 待合室にパーティションなどを多用して動物が互いを見えないよう工夫する
- 待合室に動物の心を落ち着ける音楽を流す
- 待合室にやせせらぎなど、気を紛らす音を流す
- 床材は犬や猫がしっかりと踏ん張れる素材にする
- 動物がいるときにはゆっくりと動き、落ち着いた低音で話をする
- 動物が心地よいと感じる体への触れ方
- 最初は痛くない部分から触れていき、痛みのある箇所に対処する
飼い主への提案
- 病院でのご褒美を効果的にするためお腹が空いた状態で連れて行く
- 用のないときにも病院に立ち寄り、スタッフから犬にトリーツを与えてもらう
- 病院へ行くときに使うキャリーケースはふだんから中でオヤツやおもちゃを入れて慣れさせておく
- ペットが病院でパニックを起こしたとき、飼い主が強く動揺すると恐怖や不安を強化してしまう
- 特に怖がりの猫や小型犬にはトップ部分とボトム部分が分離できるキャリーケースが理想。動物を中に入れたまま、トップ部分だけを外して診察ができる
- 診察が終わったとき、病院を出るとき、トリーツを与えて良い経験で締めくくる
このような内容をより詳しく、専門家と飼い主それぞれに向けて、教育プログラムを実施しています。
まとめ
アメリカで立ち上げられ、その活動を拡げつつあるペットを恐怖や不安から解放するためのプログラム『Fear Free』をご紹介しました。
動物保護団体でもトレーニング施設でもない、動物のために人間を教育するプログラムは、今までにありそうでなかなかないものでした。
犬や猫が何かを怖がるのも長い間「仕方のないこと」で済まされてきた面がありましたが、近年は動物行動学や心理学、高度なテクノロジーなどを駆使して、対応が考えられるようになってきました。
Fear FreeのSNSやブログでは、一般の飼い主にも参考になる情報がたくさん発信されています。このような活動のおかげで知識を持った飼い主が増えて、ペットの福祉向上につながっていくことが期待できそうですね。