新しい幹細胞治療が犬の関節炎の治療に効果を発揮【研究結果】

新しい幹細胞治療が犬の関節炎の治療に効果を発揮【研究結果】

人間にも犬にも起こる、とても一般的な疾患である関節炎。その治療に従来よりも効率の良い幹細胞治療が研究開発されています。どのようなものなのか研究結果をご紹介します。

お気に入り登録
SupervisorImage

記事の監修

  • 獣医師
  • 平松育子
  • (AEAJ認定アロマテラピーインストラクター・ペットライター )

獣医師・AEAJ認定アロマテラピーインストラクター・ペットライター
山口大学農学部獣医学科(現:共同獣医学部)卒業。2006年3月~2023年3月 有限会社ふくふく動物病院 取締役・院長。ジェネラリストですが、得意分野は皮膚疾患です。
獣医師歴26年(2023年4月現在)の経験を活かし、ペットの病気やペットと楽しむアロマに関する情報をお届けします。

変形性関節症に対する最新のアプローチ

犬と関節炎と書いた黒板を持つ獣医師

愛犬の変形性関節症に悩んでいる方は多いですね。
変形性関節症と言うと、「それは何?」と馴染みのない感じがしますが、一般的に関節炎と呼ばれるものです。加齢や肥満などがきっかけで、ヒザの軟骨や半月板がすり減って変形し、炎症を起こして痛み伴ったり、運動能力を妨げたりする病気です。

犬の関節炎の治療は、痛み止めや抗炎症剤の投与、サプリメントやハーブなどの代替療法、運動などの理学療法、外科手術などがありますが、大多数の患者に効果があるというスタンダードな治療法は、これまではありませんでした。

しかし、再生医療のひとつで、効果的な幹細胞治療が研究開発されており、このたび、その結果が発表されました。

幹細胞治療とは、身体の様々な組織になる未分化な細胞=幹細胞を利用して、怪我や病気で損傷した組織の再生や、根本的な治癒を目指す治療法です。

注射を打つだけのシンプルで簡単な治療法

新しい治療法を開発し、発表したのは、イタリアのサン・ミシェル獣医学病院の研究チームです。

研究チームが注目したのは、幹細胞治療の中でも、今まで治療が困難とされてきた怪我や病気の治療に期待されている、「間葉系幹細胞」です。

従来の「間葉系幹細胞」は、骨髄から採取して培養〜増殖するのですが、これは採取できる量に限りがあり、培養には、施設も時間も必要になります。

今回、研究チームが行った治療は、脂肪組織に由来する「間葉系幹細胞」治療です。

骨髄から採取するのに比べ、安全かつ容易に、大量の細胞が得られます。

研究は2014年から2017年までの間に、ヨーロッパの7つの獣医学病院で、変形性関節症の治療を受けた130匹の家庭犬が対象となりました。

それぞれの犬から、自己の脂肪組織を採取して、間葉系幹細胞を取り出し、関節炎の患部に注射するというシンプルな手順の治療法です。

入院などの必要がないため、犬への負担も最小限に抑えられます。

幹細胞治療の効果は?

獣医師とチワワのバイオ医学のイメージ画像

犬たちの臨床結果は、治療後の整形外科検査と飼い主からの査定で検証されました。

78%の犬が、治療の1か月後から整形外科検査の数値が改善を見せ始め、6か月後には88%の犬の検査結果が改善していました。11%の犬で変化が見られず、1%は悪化していましたが、重大な悪影響はありませんでした。

飼い主からの査定では、92%が大幅に改善、6%がわずかに改善、2%が悪化したという結果でした。ここでも重大な悪影響は認められませんでした。

研究者はこれらの結果から、犬の変形性関節症の治療として、脂肪組織由来の幹細胞注射が安全で有効であると結論付けました。

従来の幹細胞治療に比べて、複雑で時間のかかる細胞培養処理を省くことができるので、時間、費用ともに効率が良く、治療の手順も簡便です。

この犬の治療研究が、人間の変形性関節症にも利用されることが、期待されているとのことです。

まとめ

ボールをくわえたシニア犬

再生医療の一種である、幹細胞治療の簡便な方法が研究開発され、犬の関節炎治療に効果があったという結果をご紹介しました。

犬の関節炎というと、「年齢的に仕方がない」と考える飼い主さんも多く、それ自体が命に関わる病気ではないので、あまり重大視されない傾向があるように思います。

また、「再生医療」とか「幹細胞治療」と聞くと、大仰な治療や高額な費用が連想されて、尻込みしてしまうこともあるかと思います。

注射一本という、犬に負担のかからない治療法が、従来よりもずっと安価に提供されるなら、犬にも飼い主さんにも嬉しいことですね。

痛みがなくなり、若い頃のように運動ができるようになれば、犬のQOLが上がることはもちろん、体全体の健康レベルが改善することも期待できます。

「脂肪由来の幹細胞治療」このキーワードを、ぜひ覚えておいてくださいね。

《参考》
https://stemcellsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/sctm.18-0020

はてな
Pocket
この記事を読んだあなたにおすすめ
合わせて読みたい

あなたが知っている情報をぜひ教えてください!

※他の飼い主さんの参考になるよう、この記事のテーマに沿った書き込みをお願いいたします。

年齢を選択
性別を選択
写真を付ける
書き込みに関する注意点
この書き込み機能は「他の犬の飼い主さんの為にもなる情報や体験談等をみんなで共有し、犬と人の生活をより豊かにしていく」ために作られた機能です。従って、下記の内容にあたる悪質と捉えられる文章を投稿した際は、投稿の削除や該当する箇所の削除、又はブロック処理をさせていただきます。予めご了承の上、節度ある書き込みをお願い致します。

・過度と捉えられる批判的な書き込み
・誹謗中傷にあたる過度な書き込み
・ライター個人を誹謗中傷するような書き込み
・荒らし行為
・宣伝行為
・その他悪質と捉えられる全ての行為

※android版アプリは画像の投稿に対応しておりません。