PTSDと介助犬
災害や事故など強烈なショックを受ける体験をした後に、その精神的なストレスが心のダメージとなって、体験から時間が経った後も強い恐怖を感じたり身体的な症状が出て社会生活に支障をきたす『心的外傷後ストレス障害(PTSD)』、日常生活の中でも時折耳にする言葉として定着してきました。
アメリカでは特に戦地での経験からPTSDを患う退役軍人が社会問題となっています。一方、そのような退役軍人をサポートするPTSD介助犬を育成して、犬を必要とする人のもとに送り届ける活動をしているNPO団体もあります。
PTSD介助犬が人々に与える影響は多くの人が認識しているのですが、今まで介助犬がいることで具体的にどのくらい症状が改善されたのかという科学的な証明はされたことがありませんでした。
アメリカのパデュー大学やカリフォルニア大学アーバイン校などの研究者が、PTSD介助犬と暮らす退役軍人の唾液を調査して「PTSD介助犬がもたらす生理学的な効果」について初の発表をしました。同じ研究者による以前の研究で、介助犬によってPTSDの症状が改善し患者のQOL(生活の質)があがることが示されており、今回の研究では介助犬がストレスに対しても生理学的な良い影響を与えるかどうかを調べたかった、とのことです。PTSDに苦しむ退役軍人に介助犬がもたらす効果についての研究の中では初めての、生理学的なマーカーを用いた研究です。
PTSDを抱える人たちの唾液を調査
今回の研究では「PTSDを患っており介助犬と暮らしている人たちのグループ」と「PTSDを患っており介助犬の申請をして順番待ち中の人たちのグループ」を比較しました。
PTSD介助犬の存在が、様々な症状を和らげ生活の質を向上させることは体感的にも報告されています。今回はそれぞれのグループの人たちの、朝起きた時直後とその30分後の唾液中に含まれるコルチゾール濃度を測定することで、介助犬は生理学的にも良い効果をもたらすのかどうかを調べました。
測定の結果、PTSD介助犬と暮らす人々は犬をの順番待ちの人々に比べて、コルチゾールが唾液中に多く含まれていたことがわかりました。介助犬と暮らす人は、コルチゾールの増減分泌パターンがPTSDを持たない人のパターンに近かったのです。
さらに、介助犬と暮らす人は怒りや不安の感情が介助犬を待っている人より少なく、より良質な睡眠がとれていました。
PTSD介助犬の意味が科学的に裏付けされる意味
このようにPTSDを抱えた人が介助犬と暮らすことで得られる効果は、体感的にだけではなく生理学的な数値の変化によっても示されました。
介助犬が与える影響が数値として示されたことは大きな進歩と思います。科学的な根拠があるということで、社会からの関心がより高くなり協力を得やすくなるからです。
今回の研究では、コルチゾール濃度とPTSD症状の程度の直接的な関連は示されていないので、さらなる研究が必要であること、そして介助犬と暮らすことがPTSDの治療になるとは言えなそうである、と研究者は述べていますが、より大規模で長期間にわたる研究がすでに始まっているそうだということです。
まとめ
PTSD介助犬が果たす役割が、体感的なものだけでなく生理学的な数値の変化として測定できたという話題をご紹介しました。
日本ではPTSD介助犬というのはまだあまり馴染みのない存在ですが、様々な理由でPTSDに苦しんでいる方々はたくさんいます。
アメリカではアニマルシェルターなどで保護されている犬の中から適性のある犬を訓練してPTSD介助犬に育成するプログラムもたくさん実施されています。
今回紹介したような研究が進むことで、日本でもPTSD介助犬が育成されて、人間にも犬にも救済となるような事態が広がっていけばいいなと心から思います。
ユーザーのコメント
50代以上 女性 CANIS
戦地でのトラウマから、家から出れない、打ち上げ花火でフラッシュバック、人の集まる場所が苦手、背後から人が近づくことの恐怖心など。症状はそれぞれですので、犬の任務トレーニング内容も個々の必要性に応じてオーダーメイドしていきます。息のピッタリあった犬と出会ったパートナーの回復力には毎回驚きとともに涙が出るほど感動します。ブログでPTSD介助犬の紹介をしていますので、ご興味のある方は覗きに来てください。
☆カリフォルニアの空の下で☆ https://ameblo.jp/canis-dog