オーストラリアンシェパードの尻尾はなぜ短いの?
オーストラリアンシェパードのルーツは、フランスとスペイン両国にまたがるピレネー山脈のふもとのバスク地方にあります。
かつてバスク地方原産の犬が、1800年代にこの地方の羊飼いによって、牧羊犬としてオーストラリアに持ち込まれました。羊飼いはその後、再び犬と共にアメリカに移住することになります。
羊飼いと共にアメリカに移住した牧羊犬は、オーストラリアから直接連れて来られたと考えられていたため、オーストラリア原産の犬種と誤解されたようで、オージーシープドッグと呼ばれていました。
シープドッグ(羊の世話をする犬)という名前からわかるように、当初は牧羊犬として使われているだけでしたが、第二次世界大戦後、牧畜業がより盛んになると広く世間に知られるようになり、しだいに一般の人の間でも人気を博することとなりました。
その後1993年、アメリカン・ケネル・クラブ(AKC)に「オーストラリアンシェパード」の名で135番目の犬種として公認されました。
ちなみに、オーストラリアンシェパードの愛称は「オージー」で、「オーストラリアの」という意味です。
現在では、その優れた状況判断能力や高い運動能力から世界中で人気が高く、牧羊犬としてだけでなく聴導犬などの介助犬や救助犬、麻薬探知犬、セラピードッグ、ドッグスポーツ用の犬など、幅広い分野で活躍しています。
日本でもオーストラリアンシェパードは人気のある犬種で、ジャパン・ケネル・クラブ(JKC)において100頭(2021年度63位)の登録があり、国内でもブリーディングが行なわれています。
オーストラリアンシェパードの容姿と体型
ジャパン・ケネル・クラブでは、オーストラリアンシェパードのスタンダードを「体高・オス:51~58cm、メス:46~53cm」と定め、サイズを犬質(クオリティー)よりサイズを重んじてはならないとしています。
オーストラリアンシェパードは、脚が長く、マズルはやや短め、耳は垂れ耳で、目の色は茶色です。
しかし、マール遺伝子を持つ個体は、両目がブルーの「ブルーアイ」、片目だけがブルーの「オッドアイ」になることもあり、この神秘的な色の瞳は「ゴースト・アイ」とも呼ばれています。
マール遺伝子は鼻や目(虹彩)の色素を薄くする遺伝子で、この遺伝子を持つ個体は大理石のようなマーブル模様をした毛色や、色が薄くなり青く見えるような目をしています。
被毛の色は、「ブラック」「レッド」「ブルーマール」「レッドマール」の4色が基本とされ、模様の入り方、毛色の組み合わせはバラエティ豊富で、同じ模様を持つ個体は2頭といないといわれています。
オーストラリアンシェパードは、中型に分類される牧羊犬で、よく似た犬種にボーダー・コリーがいます。
ボーダーコリーが小柄で軽快な印象があるのに対し、オーストラリアンシェパードは、骨が太く筋肉質でがっしりとした体型をしています。
さらに、よく似た両者には決定的な違いがあります。それは、尻尾の長さです。
ボーダーコリーには、ふさふさとした長い尻尾がありますが、オーストラリアンシェパードは、短い尻尾の個体がとても多いのです。
生まれつき短いか生後すぐに断尾されることが多い
オーストラリアンシェパードの尻尾は、生後1週間程度でブリーダーが断尾するのが一般的です。断尾とは、尻尾を根元や中間部から切ってしまうことをいいます。
中には生まれつき尻尾が短い個体もいますが、これらは「ナチュラル・ボブ・テイル」とよばれています。
ナチュラル・ボブ・テイルには、多くの場合「突然変異遺伝子(T gene:C189G)」が関わっているといわれており、この遺伝子を持つ犬種は、オーストラリアンシェパードの他にジャック・ラッセル・テリア、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク、スキッパーキなどがいます。
ナチュラル・ボブ・テイルの犬に健康的な問題はないといわれていますが、ナチュラル・ボブ・テイル同士の交配は、子犬にとって致命的な障害が発生するリスクが高いとされています。
ナチュラル・ボブ・テイル、断尾した尻尾、どちらの場合もスタンダードでは「10cmを超えないこと」と規定されています。
断尾せずに尻尾が長いままの場合もある
かつては、牧羊犬・牧畜犬として使われるだけのオーストラリアンシェパードでしたが、現在では、ペットとして飼われることが多くなりました。
そのため、ペットとして飼われる場合は、断尾せず生まれたままの長い尻尾の状態でいるオーストラリアンシェパードも多く見られるようになっています。
さらに、動物福祉の観点から、ヨーロッパの多くの国で、「整形目的」の不要な断耳や断尾を禁止することが法律で決められていることも、断尾しない理由のひとつとなっています。
しかし、ドイツのように猟犬(犬種でなく、実際に働く犬)は例外としている国や、イギリスのように獣医による特定の犬種のみ断尾が認められている国もあります。
さらに、アメリカでは「犬種を定義し特徴を守り健康を保つためにも認めるべき行為」とアメリカン・ケネル・クラブが定めています。
日本では、断耳や断尾を禁止する法律がありませんので、現在のところ、断尾するか否かの判断は飼い主に委ねられています。
オーストラリアンシェパードの尻尾を断尾する理由
多くの国で断尾を禁止する気運が高まる中で、一見、残酷にも思える断尾という行為が、オーストラリアンシェパードに対して、なぜ行なわれているのでしょうか?
それには、それなりの理由があるようです。
牧羊犬の仕事中に起きやすい尻尾のケガを防ぐ
オーストラリアンシェパードは、もとはオーストラリアで羊を管理する牧羊犬として働いていました。
しかし、アメリカに渡ってからは、家畜、主に牛を管理する牧畜犬としても働くようになります。
自分の体よりはるかに大きく体重の重い牛を追うのが仕事のオーストラリアンシェパードには、作業中に牛に尻尾を踏まれてケガをすることや、尻尾を踏みつけられて逃げられずに牛に押しつ潰されるなどの危険が常についてまわります。
それらの危険を防止するために、作業の邪魔になる可能性のある尻尾は切断する方が安全という考え方から、現在も断尾の習慣が続いているのです。
尻尾に汚れが付着して不衛生にならないようにする
尻尾が長い場合のデメリットは、ケガや事故以外にもあります。
たとえば、泥や牛の汚物などが尻尾に付着することにより、尻尾や体全体が重くなり、犬の作業効率が低下することが挙げられます。
そのうえ、不衛生になり犬の健康状態に悪影響が及ぶことも考えられます。
これらの理由から、牧羊犬・牧畜犬として働く犬は、断尾することが必要だとされているのです。
尻尾があるオーストラリアンシェパードを迎え入れる方法
日本国内では、オーストラリアンシェパードをペットショップで見かけることはほぼありません。
よって、オーストラリアンシェパードを飼う場合は、ブリーダーから直接購入する、もしくは海外から個人輸入するどちらかの方法をとることになります。
ペットとしてオーストラリアンシェパードを飼育する場合は、お手入れが必要になりますが、断尾せずにそのままの尻尾であってもとくに問題はありません。
うれしいと尻尾を振る、怖いと尻尾が下がるなど、犬の尻尾はそのときどきの犬の感情をよく表しています。
人間と共に暮らすペットとしてオーストラリアンシェパードを飼う場合は、むしろ長い尻尾がある方が犬の感情を読み取りやすくなるので、犬とのコミュニケーションを取るのに役立つというメリットがあるといえます。
ブリーダーに直接依頼して自然なままの尻尾にしてもらう
日本国内でオーストラリアンシェパードを飼うには、ブリーダーから直接購入するというのが一般的ですが、前述したように、オーストラリアンシェパードは、生後1週間程度で断尾するのが普通です。
尻尾が長いオーストラリアンシェパードを迎えたい場合は、予めその旨をブリーダーに伝えて相談してみるとよいでしょう。
オーストラリアンシェパードを国内のブリーダーから購入する場合、2022年現在、価格は30万円~が相場です。
オーストラリアンシェパードの価格は、尻尾の有無で差がつくことはありません。
価格の差は、親犬の血統により決まることが多いようです。
さらに、オスに比べてメスの価格が高い傾向があり、被毛の色によっても多少の差があることを覚えておくとよいでしょう。
尻尾のある子犬を海外から個人輸入する
オーストラリアンシェパードを購入するもうひとつの方法は、海外から輸入するというものです。
個人で海外から犬を輸入するには、まず、信頼できるブリーダーを探して、価格の交渉から各種手続きをする必要があり、なかなか困難な場合が多いようです。
オーストラリアンシェパードの場合も例外ではありません。
価格的にも、運輸費用や手続き費用など、犬の生体価格も含めてトータルするとかなり高額になることを覚悟しておかなければなりません。
そのうえ、仲買業者を通さずに直接取引をすることになりますので、何の保証もありません。
仕事などで海外との取引に慣れている場合を除いて、一般の方は国内のブリーダーにまず相談して、情報を集めてみることをおすすめします。
オーストラリアンシェパードを飼う時のポイント
オーストラリアンシェパードは、状況判断能力に富み、一度訓練を受けると人間の指示がなくても自らの務めを果たすことができる牧羊犬・牧畜犬としての優れた資質を持つ犬種です。
性格は、温厚で陽気、優しく愛情深く、飼い主に対してはたいへん忠実です。
さらに「飼い主の望みを第六感で察することができる犬」ともいわれ、しつけの飲み込みも早いので家庭犬としても最適な犬種です。
コミュニケーションをとりながらしつけ・訓練を行う
オーストラリアンシェパードは、さまざまな優れた点を持ち、家庭犬としても最適な犬種ですが、牧羊犬にルーツを持つ犬であることを忘れてはいけません。
高い知性を持つ賢い犬ですので、飲み込みも早くしつけや訓練はそれほど難しくないといえます。
しかし、頭が良い分、飼い主が信頼できるリーダーでないと判断すると、自らの判断で行動し、問題行動を起こすことに繋がりかねません。
とはいえ、一度信頼した飼い主に対してはたいへん忠実ですので、子犬の頃から十分なコミュニケーションをとり、信頼関係を築きながらしっかりとしたしつけや訓練をしておくことが必要です。
牧羊犬の運動量に見合った散歩や遊びを行う
牧羊犬として活躍していたオーストラリアンシェパードは、スタミナが旺盛で運動欲求の高い犬種です。
散歩は1日2回、1回につき1時間以上、駆け足なども取り入れてるのが重要。
飼い主と過ごすことを好み、遊ぶことが大好きで活発な犬種ですので、アジリティやドッグダンスなど、人間と一緒に楽しめるスポーツも大変喜びます。
それ以外にも、ドッグランなどの広い場所で思い切り走らせたり、海や野山でのアウトドアスポーツもおすすめです。
満足する運動ができていないと、欲求不満やストレスから、吠えるなどの問題行動を起こすこともありますので、毎日しっかり運動させることを心がけましょう。
毛量が豊富な長毛犬種のためお手入れをこまめに行う
オーストラリアンシェパードの被毛は、気候の変化に強いダブルコートで、ふさふさとした豪華な飾り毛が首の周りを覆っています。
短毛が密集した下毛(アンダーコート)には、湿気がたまりやすく臭いの原因になりますので注意が必要です。
春と夏の換毛期には、かなり多くの抜け毛がありますので、毎日欠かさずブラッシングをする必要があります。
さらに、被毛が多く汚れやすいのでシャンプーは月に1~2回程度は行いましょう。
シャンプー後、生乾きのまま放置すると蒸れて皮膚病の原因になることも。必ずドライヤーでしっかりと乾かすことが大切です。
首周りの飾り毛部分はもつれやすいので、ドライヤーで乾かしながらクシなどで丁寧に少しずつほぐしていきましょう。
オーストラリアンシェパードがかかりやすい病気
- 股関節形成不全
- コリーアイ
- 白内障
- てんかん
オーストラリアンシェパードの平均的な寿命は、12~15歳と比較的長いですが、犬種特有のかかりやすい病気として、上記のものが挙げられています。
これらの病気を防ぐためにも、日頃から愛犬をよく観察しながら、少なくとも年1回は健康診断を受けましょう。
また、毛色が真っ白の個体は、生まれつき耳が聞こえなかったり難聴である可能性が高いといわれています。
血統によっては、かつての乱繁殖の影響で盲目が起こりやすい遺伝性もあるので、オーストラリアンシェパードを迎え入れる際には、繁殖状況や血統などをしっかりと確認しておくことも大切です。
まとめ
オーストラリアンシェパードは、愛情深い性格で、遊ぶことが大好き、活発で身体能力がたいへん優れている犬種です。
また、アイコンタクトだけで飼い主の考えを理解できる賢い犬種で、飼い主と過ごすことを好みますので、ボール投げをしたり、ドッグスポーツに挑戦するなど、愛犬と一緒に体を動かしたいという人には、ぴったりの犬種です。
しかし、牧羊犬にルーツを持つ犬種ですので、小型犬とは違って飼育するにあたって幾つか注意しなければならない点があります。
犬種の特徴などをしっかりと理解した上で、愛犬と信頼関係を築くことができれば、尻尾の有る無しに関わらず、飼い主さんにとって最高のパートナーになってくれることでしょう。