犬が乳腺腫瘍になる原因とは?症状や治療法含め詳しく解説

犬が乳腺腫瘍になる原因とは?症状や治療法含め詳しく解説

犬の乳腺腫瘍とはどういった病気なのか知っていますか? 乳腺腫瘍の原因と症状にはどういったものがあって、どういう犬種がかかりやすいのか、犬の乳腺腫瘍について詳しくご紹介します。

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記事の監修

  • 獣医師
  • 平松育子
  • (AEAJ認定アロマテラピーインストラクター・ペットライター )

獣医師・AEAJ認定アロマテラピーインストラクター・ペットライター
山口大学農学部獣医学科(現:共同獣医学部)卒業。2006年3月~2023年3月 有限会社ふくふく動物病院 取締役・院長。ジェネラリストですが、得意分野は皮膚疾患です。
獣医師歴26年(2023年4月現在)の経験を活かし、ペットの病気やペットと楽しむアロマに関する情報をお届けします。

犬の乳腺腫瘍とは?

エリザベスカラーをつけた犬

犬は一度に何頭もの仔犬を生む多胎動物である為に、人とは違って乳腺が腹部に5~7対あります。そしてその乳腺に腫瘍ができた状態が「乳腺腫瘍」です。

腫瘍には良性と悪性の2つのタイプがありますが、一般的にガンと呼ばれるものは悪性腫瘍で、転移をする場合が多くあります。

同一の乳腺組織内に複数の異なった種類の腫瘍が発生したり、それぞれの乳腺組織に違う種類の腫瘍が同時期あるいは時期をずらして発生したりする事があります。

犬の乳腺腫瘍は、犬の腫瘍の中でも皮膚腫瘍に次いで2番目に発生が多い腫瘍です。

乳腺腫瘍の50%以上が良性で、悪性の乳腺腫瘍の50%は転移をするといわれていますが、乳腺腫瘍の75%は乳腺を摘出する事で完治が望める病気と言われています。

乳腺腫瘍はオスには関係ないように思われる方もいらっしゃると思いますが、メスよりも発生率は格段と低いものの、その確率はゼロではありません。

オスを飼育している場合は、そこまで気にする必要はない病気ですが、発生する可能性があるというぐらいは頭に入れておきましょう。

犬が乳腺腫瘍となる原因

女の子の衣装を着た子犬

乳腺腫瘍のはっきりとした原因は不明ですが、その発生にはエストロゲンやプロゲステロン等の女性ホルモンとの関係が示唆されています。

エストロゲンは成熟した卵胞から産生・分泌されて、発情の際に認められる様々な徴候を直接司ると共に、黄体形成ホルモンの大量放出を誘起して間接的に排卵を促す役割を持っています。

プロゲステロンは、成熟した卵胞と黄体から産生・分泌され、受精卵の子宮粘膜着床を助けると共に性腺刺激ホルモンの分泌を抑制する事によって妊娠を維持する役割を持っています。

その他の内分泌系として成長ホルモンや黄体ホルモンなどの影響も推測され、体質、環境、食物、生活環境などが考えられていますが、乳腺腫瘍の発生の原因を特定する事はできていませんが、悪性の乳腺腫瘍についてだけは遺伝子の異常によって引き起こされる事が分かっています。

犬の乳腺腫瘍にみられる特徴

エリザベスカラーをつけたゴールデンレトリバー

乳腺腫瘍は8~10歳齢の老齢期になって発生しますが、若齢でも認められます。

エストロゲンとの密接な関係が示唆されている為に初回発情前に避妊手術を行うと乳腺腫瘍の発生率を低下する事ができるといわれています。

避妊手術は卵巣と子宮の摘出を行う手術の事で、乳腺腫瘍の他にも子宮蓄膿症、子宮内膜炎、子宮捻転、子宮破裂などの病気を予防する事ができます。

乳腺腫瘍の発生率は避妊手術をしている場合としていない場合とでは約7倍違い、初回発情前に避妊手術を行った場合の発生率は0.05%まで下がります。

犬の乳腺腫瘍によって引き起こされる症状

犬

乳腺腫瘍は乳腺組織にしこりが認められる事が特徴的な症状で、しこりの大きさや硬さは様々で胸、脇の下、下腹部、内股にしこりができます。

良性の乳腺腫瘍の場合はしこりが小さく境界明瞭で硬いしこりで、しこりの大きさが1cm以下であれば問題ありませんが、大きくなればなるほど悪性や転移の可能性が高くなり、摘出が困難になります。

良性の乳腺腫瘍の場合はしこり以外の特徴的な症状はなく、痛みもありませんが、乳腺孔から血様の分泌物や膿を出す場合があります。

悪性の乳腺腫瘍の場合は、しこりに熱があったり、皮膚表面が壊死もしくは自壊したり、自壊した部分から出血したり、リンパ節や肺、肝臓、その他の胸や腹部の臓器に転移する等の臨床症状を示します。

腫瘍の進行は2~3か月の間に急速に大きくなるものや数年かかって大きくなるものまで様々あります。

乳腺腫瘍の治療

手術台の上に居る犬

治療は外科的に腫瘍のできた乳腺を摘出する方法がありますが、その他にも放射線治療、抗がん剤治療、免疫療法などがあります。

外科手術をしないで抗がん剤治療だけを行うことは、ほとんどありません。

その理由は乳腺腫瘍は抗がん剤が効きにくい腫瘍といわれているからです。

外科的治療のみが治療目的で行われ、それ以外の治療法は治療する事が目的ではなく、痛みなどを緩和する事が目的です。

完治が困難となった場合はQOLを重視します。

QOLとは生命や生きていく事の質の事で命の尊厳だけでなく、動物の治療後におけるさわやかな生活を過ごす事を目的とする事です。

乳腺腫瘍を発生した後に再発防止、治療や延命目的の避妊手術は行っても効果はありません。

乳腺の摘出手術

診察を受ける犬

乳腺の摘出手術には以下3つの方法があります。

単純乳腺摘出手術

発生した腫瘍を含む乳腺のみを摘出する手術で、手術時間は比較的短く、入院も数日程度です。悪性の乳腺腫瘍の場合、後日経過次第では再手術が必要となり、再発する事が多い傾向があります。

部分乳腺摘出手術

一側性乳腺摘出手術とも呼ばれる方法で、発生した腫瘍を支配するリンパ系の流れを考慮して、上の3つや下の2つもしくは3つの乳腺を摘出します。

再発率が低いですが、手術時間と費用がかかり、2~4日程度の入院が必要となります。

両側性乳腺摘出手術

複数の乳腺に腫瘍が発生した場合に行う方法で、両側の乳腺の全てを摘出します。

手術時間と費用がかかり、入院も7~10日程度必要ですが、乳腺を全摘出するので再発する事はありません。
両側の摘出は負担が大きくなるので、体格や犬種によっては日を変えて行います。

乳腺腫瘍に対する対策

犬のお腹を触る人

しこりの存在を確認した場合は、しこりの数は何個あるのか、しこりの場所が片側性なのか両側性なのかを確認しましょう。

乳腺腫瘍の種類、発生部位、発生時期は様々ですが、乳腺にしこりを確認した場合はなるべく早く動物病院へ連れて行き、獣医師の診察を受ける必要があります。

摘出した腫瘍組織の病理検査によって良性の乳腺腫瘍か悪性の乳腺腫瘍かの確定診断を下します。

犬の乳腺腫瘍が発生しやすい品種

犬

避妊手術をしていない年を取った8~10歳齢程の雌に多く発生して、全ての犬種に発生の可能性がありますが、特にマルチーズ、シー・ズー、プードル、ヨークシャー・テリアに多いとされています。

犬が乳腺腫瘍にかからないためには

足元で寝る犬

乳腺腫瘍は8~10歳例と年を取ってからなりやすい病気ですが、その最大の予防は仔犬の頃に行う必要があると言えます。

乳腺腫瘍にならないようにする為には初回発情前に避妊手術を受ける事ですが、初回発情は生後6か月頃に迎えるので、この時期を目途に避妊手術を行いましょう。

愛犬とのコミュニケーションを取る際にできるだけ体中を触るようにします、特に胸、脇の下、下腹部、内股に乳腺腫瘍はできるので入念に触り、しこりがないかどうかを毎日チェックしましょう。

まとめ

犬

乳腺腫瘍はしっかりと治療を行えば完治の可能性がある病気であり、見つける事もそれほど難しいわけではありません。

乳腺腫瘍はしこりができるので、毎日体を触るようにしてしこりができないかどうかをチェックしましょう。

オスを飼育している場合でも発生率がゼロではないので念のために毎日触り、しこりが無いかどうかはチェックします。

避妊手術は行うかどうかは賛否両論ありますが、ブリーディングを行う予定が無いのであれば行った方が乳腺腫瘍などの病気を予防する意味では行う必要性はあるといえます。

避妊手術は乳腺腫瘍など病気の予防以外でも望まない仔犬を生み出さない為にも必要です。

避妊手術は3~5万円ほどかかりますが、乳腺腫瘍などにかかればそれ以上の費用がかかる事になるので、それを考慮すれば行った方がいいと言えます。

予防できる病気であれば、できる限り予防をして愛犬に無駄な負担がかからないようにする事は飼い主の責務です。

病気になってしまったら、飼い主としてできる事は限られてしまいます。

大事な家族である愛犬の為が乳腺腫瘍を含めた病気にならないようにする為の手段があるのであれば、愛犬の為にもその手段を行ってあげてください。

▼犬の病気を症状や病名から調べる▼
犬の病気大辞典!知っておきたい基礎知識

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ユーザーのコメント

  • 投稿者

    20代 女性 こなつ

    乳腺腫瘍を予防するには避妊手術…避妊手術はしないといけないものなのですかね…
    初回発情前となると早めに手術しなくてはいけないですね!
    発病しやすい年齢は8〜10歳そのくらいになるといろんな病気になりやすいのでいろんな病気に気をつけないといけないですね…
  • 投稿者

    30代 女性 Chappy

    避妊手術をしているかしていないかで7倍もの病気の発生率が違うなんて、かなりの倍率ですよね。
    しかも避妊手術をしていれば、乳腺腫瘍の発生率が0.05%にまで下がるというのにも驚きました。
    最近、人間でも乳癌が増えているなか、ワンちゃんもそんな苦しみを感じてほしくはないですね。。
  • 投稿者

    女性 YY

    人の乳がんチェックが叫ばれて久しいが、犬にも猫にも乳腺腫瘍は起こりうる。動物はセルフチェックができないので未然に防げる方がいいと思う。対策は初回発情前の避妊手術。これは賛否両論あるが、私は賛成!生理のストレスや子宮蓄膿症も予防できる。ただ、生後6ヶ月以内で手術しなきゃってことを知ってから飼い始めないと意外とすぐに月日は経ってしまうので注意しないといけない。こういう記事を読んでおくのは大切だなと感じた。
  • 投稿者

    40代 女性 ぱん

    避妊手術の重要さをとても感じます。
    愛犬のなり得る病気の知識がないと、「うちの犬は小さいし、外に出さないから必要はない」「可哀そうだから」「健康な体に傷をつけたくない」などの理由で、手術を行わない飼い主さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
    元気なうちに子宮摘出する手術より病気になってしまってからの手術は、愛犬にとっても辛いものだと思います。
    避妊のメリットとデメリット、そして将来のことを考えたうえで、決めてくださいね。

    犬を飼うことを決めたのですから、愛犬には健康で出来るだけ長生きしてもらいたいものです。また病気の早期発見はとても大事ですので、日頃から愛犬のケアをしてあげるのと同時に、体を触ってみて確認してあげてくださいね。
  • 投稿者

    20代 女性 パウンドケーキ

    元動物看護師です。
    以前動物病院に勤めていたころ避妊手術をしていない犬で乳腺腫瘍を患ってしまった子をよく診てきました。
    悪性の乳腺腫瘍は最終的に肺に転移し、咳や呼吸の苦しさがみられるようになります。
    中には悪性の乳腺腫瘍でも、転移をすることなく寿命を全うする子もいます。

    乳腺腫瘍になりやすい犬種には載っていませんが、経験上ミニチュアダックスフンド、コーギーもなりやすいように感じました。
    当院に通院していたあるコーギーは、ソフトボールくらいの大きさの乳腺腫瘍が出来ていました。飼い主さん曰くあっという間に大きくなったそうです。
    その子は15歳と高齢で持病があり麻酔が大変危険であること、そしてあまりの腫瘍の大きさから手術が困難なため飼い主さんの希望もあり手術は行いませんでした。
    元々大きくなりすぎた腫瘍は自壊しており、出血等で痛々しい様子でした。
    そしてそこまで大きいと歩いただけで地面に腫瘍が擦れてしまい、ますます酷くなってしまっていました。
    悪性の腫瘍は自壊してしまうことがとても多いです。
    治療が出来なく自壊してしまった腫瘍には、ペットシーツをあてて、体液が漏れないようにしつつ擦れないように配慮してあげて下さい。
    夏場だと不衛生のままではウジがわいてしまうこともあります。

    悪性の腫瘍ほど、成長スピードがとても早いです。逆に何年も前からあってサイズが変わらないのは良性のことが多いです。
    気になって触ってしまうと、その刺激で大きくなってしまいますので、なるべく触らないように気を付けましょう。
    定期的に愛犬の身体を触り腫瘍がないかチェックし、もし腫瘍を見付けたらすぐ動物病院へ連れて行きましょう。

    このような乳腺腫瘍にならないために、避妊手術はとても大切です。
    こんな思いさせてしまうなら避妊手術すれば良かったと、どの飼い主さんも後悔されています。
    これから犬を飼われる方は、将来を考えて避妊手術を検討することをおすすめします。
  • 投稿者

    40代 女性 てとめる

    避妊をすることは自然に反している、身体にメスを入れるなんて虐待していると考えている方もいると聞きますが私は避妊については賛成です。避妊していないと病気のリスクが高まる上に、もし妊娠してしまったら…というリスクもあるのでそのリスクを避けるには仕方ないことだと思います。人間でも病気のリスクを下げるために避妊手術を行うことは普通に行われているので、基本的に素人の繁殖は難しいことから避妊はしておくべきです。私の愛犬を譲ってくれたブリーダーさんも年を取り、交配させない犬には避妊手術をして病気のリスクを下げるようにしていると言っていました。病気になってからだと犬にとっても辛いことだと思うので、ぜひ避妊手術はしてあげてほしいですね。
  • 投稿者

    30代 女性 kanako

    避妊、去勢手術に対しては、どこも悪くないのに手術をするなんて、、と反対する方も多いですよね。しかし、繁殖を望んでいないのならば、私はするべきだという意見です。

    確かに手術は犬の体に負担をかけることになりますが、行うことによって予防できる病気が沢山あります。
    病気になってから、何倍も辛い思いをすることになったとき、やっぱり手術しておけばよかったと後悔したくありません。
    判断は飼い主さんに託されることですが、愛犬の現在だけではなく、将来のことも含めて考えていただきたいと思います。
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