カタツムリやナメクジが寄生虫を媒介
夏本番前のジメジメとした時期は、カタツムリやナメクジをよく見かけますね。見た目が苦手という方も多いかと思いますが、カタツムリやナメクジは植物を食い荒らす害虫です(じつはどちらも虫ではなく、貝の仲間ですが)。しかも、犬にとって危険な存在でもあります。
なぜかというと、犬がカタツムリやナメクジを口にしてしまうと、寄生虫に感染する恐れがあるからです。蚊がフィラリア(犬糸状虫)を媒介するように、カタツムリやナメクジも寄生虫を媒介するのです。カタツムリやナメクジが媒介するのは、「広東住血線虫(カントンじゅうけつせんちゅう)」という寄生虫です。では、広東住血線虫とはどのような寄生虫なのでしょうか?
広東住血線虫とは
カタツムリやナメクジを中間宿主に
広東住血線虫は、ドブネズミやクマネズミなどを終宿主(成虫が寄生する宿主)、カタツムリやナメクジを中間宿主(幼虫が寄生する宿主)とする寄生虫です。中でも、アフリカマイマイという東アフリカ原産の大型のカタツムリが重要な中間宿主になりやすく、日本でも沖縄、小笠原諸島、奄美群島などに生息しています。
広東住血線虫の成虫のオスの長さは20~24㎜、メスは25~33㎜で、ネズミの肺動脈で成虫となります。広東住血線虫に感染したネズミが糞と一緒に幼虫を排出し、その糞をナメクジやカタツムリが食べて中間宿主となり、それをまたネズミが食べて成虫になるというサイクルです。
人に感染すると?
中間宿主を触った手を口に入れたり、キャベツやレタスに中間宿主が付着していることに気づかずに食べる、ナメクジやヒキガエルの肝を生食する民間療法を行うなどして、人が広東住血線虫に感染した場合、脳や脊髄の血管や髄液に幼虫が寄生し、髄膜脳炎の症状を引き起こします。重症化すると、死に至ることもあります。
ナメクジを食べて広東住血線虫に感染したオーストラリアの男性が8年間の闘病の末、2018年11月に死亡したニュースが記憶に新しいところです。日本においても、2000年に沖縄で7歳の女児が広東住血線虫による髄膜脳炎で死亡しています。日本国内の広東住血線虫の感染例は沖縄で多く見られますが、本土にも増加しつつあるようです。
犬に感染すると?
犬が中間宿主を口にした場合も、広東住血線虫に感染することが分かっており、犬が感染した場合も人と同様に脳炎を起こし、麻痺や尿失禁といった症状が見られ、やはり死に至ることもあるといいます。
愛犬がカタツムリやナメクジを口にしないように、用心するに越したことはないでしょう。
駆除剤にも注意を!
庭やベランダの植物を食い荒らし、愛犬の健康まで脅かすともなれば、カタツムリやナメクジを駆除したくなりますね。しかし、カタツムリ・ナメクジ駆除剤にも注意が必要です。
カタツムリ・ナメクジ駆除剤には「メタアルデヒド」という物質が含まれたものがあり、このメタアルデヒドを犬が摂取すると、中毒を起こすことが分かっています。メタアルデヒド中毒の症状は
- けいれん
- よだれ
- 震え
- 嘔吐
- 下痢
- 発熱
- 運動失調
などで、大量に摂取した場合は死に至ることもあります。メタアルデヒドを含有する駆除剤を使用する際は、愛犬が誤食しないように十分注意しましょう。もし誤食してしまった場合は、中毒症状が出ていなくてもすぐに動物病院へ。
有効成分が天然由来で、万が一犬が口にしても害のない駆除剤もあるので、そちらを使用するほうが安心です。
【駆除剤についての補足】
リン酸第二鉄を成分とした駆除剤は、犬を含む動物への毒性が低く幼児やペットがいる場合でも安全に使えるとされています。リン酸第二鉄は自然の土壌中に含まれる成分です。
まとめ
カタツムリやナメクジが寄生虫を媒介するなんて想像しにくいですが、カタツムリやナメクジは広東住血線虫という寄生虫の中間宿主となる生物です。この寄生虫は人にも犬にも寄生し、最悪の場合死に至ることもあるので注意が必要です。庭や散歩途中の草むらなどで、愛犬がカタツムリやナメクジをパクッと口にしないように気をつけましょう。
また、メタアルデヒドを含有するカタツムリ・ナメクジ駆除剤の使用にも要注意です。愛犬が誤食して、メタアルデヒド中毒を起こすことがないようにしましょう。犬がいる家庭では、天然由来の駆除剤の使用がおすすめです。
【補足】
カタツムリとナメクジ以外の陸貝、水棲の巻貝も広東住血線虫の中間宿主であり、また、エビ、カニ、カエル、トカゲ、ヒル、魚などは待機宿主(幼虫の発育も成熟もしないが、幼虫が生存し続ける)となり、いずれも犬や人への広東住血線虫の感染源となり得ます。
普段からわんちゃんがカタツムリやナメクジを食べたり口に入れることがないようにするのも大事ですが、アフリカマイマイが生息している地域へ旅行に行った際には特に気を付けた方が良いですね。アフリカマイマイは非常に大きくなる種類で、普段はカタツムリに見向きもしないわんちゃんでも興味を持つことがあるかもしれません。
犬における広東住血線虫感染の報告はオーストラリアでのものが多くありますが、それらの報告によると子犬では死亡する例も多く見られたそうです。
≪参考≫
日本獣医師会雑誌 第66巻 第11号 [Vol.66 No.11 (2013)] ―面白い寄生虫の臨床(XI)― ~寄生虫の小径~ 身近な人獣共通寄生虫症 ―広東住血線虫症
ユーザーのコメント
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女性 匿名
カタツムリやナメクジはそんなに危険な寄生虫を運んでくるんですね。
私のうちは、時期になるとカタツムリやナメクジがほぼ日常的に出現するので気をつけたいです……。恐ろしや!
【日本国内の広東住血線虫の分布についての補足】
ラットやドブネズミの広東住血線虫の保有は、上位地域以外にも、北海道から東北、関東、本州中部、関西、北陸、中国地方、九州まで、日本のあらゆる地域で認められています。