食事中に手を出してフードガードだと判定するテスト
アニマルシェルターなどの犬の保護施設で、犬の気性や行動を査定する方法のひとつとして、フードの入ったボウルを与えて食べている最中に手の模型などでボウルと犬に触って反応を見るというテストがあります。
テストの結果、人に対して唸ったり怒ったりした犬はいわゆる『フードガード』と呼ばれる「食に対する執着が強く、食べ物周りでは攻撃性が見られる」という判定が下されます。
近年ではこのテストの正確性には疑問があるという声もあがっていたのですが、この度アメリカ動物虐待防止協会の動物行動学者やリサーチ部門によって「このテストをしても安全性を高めたり咬傷事故を予防することにはつながらない」というリサーチ結果が発表されました。
フードガードと判定された犬を待つもの
リサーチは9箇所の保護施設で4ヶ月間に渡って行われました。最初の2ヶ月は、従来の方法でフードガードがあるかどうかをテストし、その結果をもとにして犬たちの行動の観察や進路の統計を取りました。
この観察期間のうちに、フードガードであると判定された犬たちには次のような結果が待っていました。
- 新しい家庭に引き取られる割合が低い
- 保護施設に滞在する期間が長い
- 殺処分される割合が高い
また、この最初の2ヶ月間の保護施設全体での咬傷事故(スタッフ、ボランティア、譲渡希望者に対するもの)は、犬14,180匹に対して104件、発生率にして0.73%という低いものでした。
次の2ヶ月にはフードガードに関するテストを行わずに、最初の2ヶ月と同様の観察と統計が取られ、結果は次のようなものでした。
- 咬傷事故の件数や発生率にはほとんど変化がなかった
- 重度のフードガードと見受けられる例は全体の17%の犬に見られた。これらの例はテストをしなくても、スタッフたちによって簡単に見分けられた
わざわざ時間をかけてテストをしても、メリットが見られなかったことがわかります。
一回きりのテストよりも大切なこと
リサーチを行った動物行動学者は保護施設向けに次のようなアドバイスをしています。
- テストの場を設定して行うような正式なフードガードの査定は廃止すること
- 犬が持ち込まれた時に元の飼い主から、犬に関する情報をできる限り多く聞き出すこと
- 保護施設のスタッフは犬を観察して情報を得るようにし、共有すること
- フードガードの行動を見せた犬に対して、スタッフが取るべき行動を全員が理解すること
- 保護施設でのフードガード行動が、家庭でも必ず出るとは限らないと認識すること
- フードガードの行動がある犬を譲渡する場合、その情報をきちんと開示し指導すること
保護施設というのは犬にとっては非日常的でストレスの多い場所です。そのような状況で、自分が与えられた食べ物を誰かに取られそうになったら、犬が怒るのも当たり前のことです。これは本来のフードガード行動ではない犬にまで、そういう判定を下してしまうことにもつながります。
誤った判定に基づいて、新しい家族ができるチャンスを奪われたり、最悪の場合殺処分の対象になってしまうことは犬に対しても、社会に対しても不公平で利益のないことです。
犬の行動は一回きりのテストで決定されるものではなく、過去と現在の行動を基にして犬が見せる変化も絶えず観察しながら判断しなくてはなりません。
実際に、従来のテストでフードガードが見られると言われた犬のうちの半数は、譲渡された先の家庭ではフードガードの行動を見せなかったという過去の統計もあります。
まとめ
保護施設で行われる、犬の食事中に故意に邪魔をして反応を見るというフードガードのテストにはメリットがなく、かえって犬の正しい観察の邪魔になったり、殺処分率を高くする可能性さえあるというリサーチ結果を紹介しました。
従来からこのテストには批判がありましたが、動物行動学者による長期の観察と統計によって結論が出た形です。
この「食事中の犬を邪魔しても従順でいることを強いる」というのは、家庭犬のしつけの場面でも時々見受けられます。これは古いタイプのスタイルで、科学的な考察に基づいて開発された訓練方法では見られないことです。
何か必要があって、犬にとって不快なことをしなくてはならない時に犬が攻撃をしないのは、普段から信頼関係が築かれていてこそです。
「うちの犬が従順かどうか、食事を邪魔して判定してみよう」とか「食事の邪魔をされても怒らないようになるまで繰り返しやってみましょう」というような行動やしつけ方法は、信頼関係を傷つけるだけで、意味のないことです。
今回紹介したリサーチ結果は保護施設での犬の観察に関することですが、家庭においても共通する部分が多くあります。
ひとりひとりの飼い主さんが、犬の行動を観察して正しく判定できるように知識をつけていくことが大切ですね。
《参考》
http://www.mdpi.com/2076-2615/8/2/27/htm