現実に起こっている犬の咬傷事故の数はどれくらい?
犬が人間や他の動物に咬みつく咬傷事故は日本でも諸外国でも重大な問題です。日本では犬による咬傷事故が、2009年以降毎年4000件以上起こっています。環境省が発表した統計では、2016年には4341件の咬傷事故が起こり、そのうち5人の方が亡くなっています。
これらの数字は、咬まれた人が病院で診察を受けた数を基に統計が取られているので、病院に行っていない咬傷事故も含めた現実の数字はもっと大きくなります。
身近な例として日本の数字を挙げましたが、今回ご紹介するのは2017年にイギリスのリバプール大学の研究チームが行ったリサーチです。研究チームでは「現実に起こった咬傷事故の数」を調査して、その内容を分析しました。先ごろ発表されたリサーチの内容をご紹介します。
リサーチの方法と質問項目
リバプール大学によるリサーチは、大学近郊の地域の1280世帯への聞き取り調査という形で行われました。そして767人の住民から回答を得ることができました。
質問には、犬の咬傷事故の他に性別や年齢などの基本的な情報の他に、ビッグファイブの性格特性と呼ばれる性格を測定する短いテストも含まれていました。ビッグファイブの性格特性とは下記の項目です。
- 経験への開放性
- 勤勉性
- 外向性
- 協調性
- 神経症的傾向
犬の咬傷事故は思っているより一般的
聞き取り調査の結果からわかったのは次のようなことでした。
- 回答者の25%が犬に咬まれた経験がある
- 被害者のうち病院で治療を受けたのは3人に1人
- 生涯で犬に咬まれた経験の男女比は、男性が女性の1.8倍
- 犬の多頭飼いをしている人が犬に咬まれた率は犬を飼っていない人の3.3倍
- 犬に咬まれた時の年齢が16歳未満だったという人は全体の44%
- 事故のうち55%が被害者と面識のない犬によって起きている
こうして見ると、犬の咬傷事故は思っているよりも一般的であることがわかります。
犬に咬まれた人の性格特性とは?
そして特筆すべきは性格特性との関連でした。
ビッグファイブの性格特性テストで「勤勉性」「協調性」など感情的に安定した特性が高いという結果が出た人は、「神経症的傾向」の特性が高い人に比べて、犬に咬まれた率が22%低かったのだそうです。「神経症的傾向」は不安、恐怖、ストレス、衝動性などに関連しており、この性格特性の人はより多く咬傷事故の被害者になっています。
研究者はこの関連の可能性として、神経症的傾向の感情的に不安定な行動のパターンが犬の咬みつきを起こしやすくしているのかもしれないとしています。もしくは、犬に咬まれた結果として感情的に不安定になったという可能性も考えられます。
このリサーチは犬の咬傷事故と被害者の性格特性を関連付けた初めてのものなので、結論を出すには今後さらに研究が必要だと思われます。
まとめ
愛犬家にとって、犬が人や動物を咬んだ事故というのは耳にするだけでも悲しいものです。被害者の心と身体の傷のことを思うとさらに心が痛みますし、どうにかして咬傷事故を減らしていきたいものですよね。そのためには、客観的な事実を積み上げて統計を取る今回紹介したようなリサーチも重要な役割を果たします。病院での診察数だけではわからなかった咬傷事故の意外な多さは重要な警鐘でもあります。
また被害者の性格特性に傾向があったという発見は、今後の事故を防ぐための人間の行動パターンを明らかにしていく手がかりになったと言えるでしょう。
咬傷事故を1件でも減らしていくために今後も期待できそうですね。
《参考》
http://jech.bmj.com/content/early/2018/01/08/jech-2017-209330
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/h29_3_3_1.pdf