『犬がものごとを認識する傾向と利き足の関係』という研究
イギリスのクイーンズ大学ベルファストの研究チームが、犬が身の回りで起きるものごとを認識する傾向についての興味深い研究を発表しました。
犬が右利きか左利きかを調べ、その後食べ物を探す実験を通じて、その犬がものごとを見る傾向が楽観的か悲観的かを測定し、利き足との関係をリサーチしました。
その結果、そこには相関関係があることが判ったというものです。研究の概要をご紹介いたします。
楽観的な犬、悲観的な犬
犬にも、ものごとを楽観的に捉え希望的な観測で生きる傾向の個体と、反対に悲観的にものごとを捉えてネガティブな出来事をより強く記憶して生きる傾向の個体があり、すべての犬はこの楽観的〜悲観的の傾向スケールの中のどこかに位置しています。
犬は一度に数匹の単位で生まれてくるので、兄弟の中で楽観的にどんどん前に進むタイプと、ネガティブな出来事をしっかり記憶して用心深く生きるタイプが両方いることで群れ全体が生き残るチャンスが高くなります。
悲観的と言うと、良くない性格のように捉えられがちですが、生き物としての生き残り戦略のひとつでもあるんですね。
とは言え、現代の家庭犬は生まれた時の群れではなくて、一匹一匹人間の家庭で生きていますから、ものごとを悲観的に捉えネガティブな記憶や見通しを強く持ちすぎることは、必要のない不安やストレスが犬に悪影響を与えてしまいます。
悲観的な傾向の強い犬を見極められれば、早めに適切な対応をすることでトラブルを回避することができます。
今まで、犬の悲観的な傾向を測定するには長時間の観察が必要だとされていたのですが、今回のクイーンズ大学の研究によって見極めを簡単にすることが期待できます。
なぜ利き足で性格の傾向がわかる?
研究チームが、犬の利き足とものごとの認知傾向の関係の可能性に注目したことにはきちんとした理由があります。
動物の脳は右半球と左半球に分かれており、右半球は目新しい刺激を避けて、恐ろしいと感じる情報を調査するような役割があります。左半球には恐怖を抑制し、新しい経験や刺激を探求するような役割があります。行動の傾向はどちら側の働きが強いかによって左右されます。
身体の運動機能は脳の半球と反対側、つまり身体の右側は脳の左側に、身体の左側は脳の右側によってコントロールされているので、左利きの犬は脳の右側をより多く使い、右利きの犬は脳の左側を使用する頻度が高くなります。
つまり左利きの犬は、身の回りの状況がネガティブな状態の時に、ストレスや不安に苦しむ傾向が強くなるのではないかと考えられました。
どんな実験が行われた?そして結果は?
実験には30匹の家庭犬がボランティアとして参加しました。
皆さんもおなじみのコング(ゴム製のコルネ型タイプ)にペースト状のフードをたっぷり詰めて犬の前に置き、犬が中身を食べるためにどちらの前足を使ってコングを固定したり押さえたりしたかを記録していきます。
まずは前足がコングにかかった回数が100に達するまでカウントして、右と左のどちらを多く使ったかで右利き/左利き/両足利きの判定をします。
30匹の犬たちは、一定の条件で食べ物を探すための訓練も受けました。
ある地点で食べ物を見せて、次に決められた場所まで行くと食べ物がもらえるというもので、2つの地点の距離は近距離と、少し離れた距離のパターンがありました。
食べ物がもらえる地点まで、どのくらい素早く移動するかなどを観察して、楽観的または悲観的傾向を測定しました。
先に判定した利き足と楽観/悲観傾向の関連は、右利きの犬は左利きまたは両足利きの犬に比べて楽観的な傾向が強いことが見て取れたそうです。また左利き度が高い犬ほど、食べ物をもらうために移動するスピードが遅かったのだそうです。
まとめ
犬が身の回りのものごとに対して楽観的か悲観的かの傾向と、犬が右利きか左利きかとの関連があることがクイーンズ大学の研究によって確認されました。傾向として右利きの犬は楽観的、左利きの犬は悲観的だと観察されたそうです。
もちろん、これは傾向であって、実際の生活では様々な環境によって条件が左右されるのでスッパリと割り切れるものではありません。けれども新しい経験を避けたがったり、ストレスを感じやすいであろう犬の見当がつきやすくなれば、保護施設、医療施設、訓練施設などでアシストが必要な犬が判りやすくなり、動物福祉の向上に役立ちます。
うちの愛犬は右利き、左利きどちらなのか、じっくり観察してみたくなりますよね。
《参考》
https://pure.qub.ac.uk/portal/files/128953852/Pure_Paper_Cognitive_Bias.pdf