研究の背景:犬にだって腸内フローラがある
今回は、アメリカのネスレピュリナペットケア社が行った、腸内フローラと食事の関係について調査した研究についてお話します。
アメリカでも犬の肥満問題は深刻で、日本と同じように飼育されている犬の半数以上が太り気味か肥満とされています。
最近、腸内フローラという言葉をよく耳にしますよね。なんとなく健康に関わる大事なものというイメージがあるかと思いますが、腸内フローラとは、腸内に住むさまざまな種類の細菌群のこと。腸内フローラのバランスが崩れると、肥満や代謝障害に関わるとされていて、注目を集めているのです。犬には犬の腸内フローラがあり、フィルミクテスというグループの細菌が最も多く、次いでバクテロイデスというグループの細菌が多いことが特徴です(人も猫も同じですが比率が少し違います)。このフローラの変化がどんな食事によってもたらされ、肥満とどのような関係にあるかを突き止めれば、肥満を解決する糸口が見つかるのではないか、というのが研究の意図です。
研究内容
今回の研究では、まずは腸内フローラに変化をもたらすとされる食事に着目し、その違いがフローラにどのように影響するかを調べました。特に人でダイエットに良いとされてきた高タンパク質低炭水化物の食事と、その反対である低タンパク質項炭水化物の食事とを比較しました。
調査方法
参加した犬
合計63頭のラブラドールレトリーバーとビーグルが参加し、両犬種とも痩せている犬と太っている犬が同数含まれます。
食事の与え方
【フェーズII】次の4週間、半分の犬には高タンパク低炭水化物(HPLC)の食事を与え、もう半分の犬には低たんぱく高炭水化物(LPHC)の食事を与える。
腸内フローラの測定
フェーズIの後と、フェーズIIの後とでそれぞれ腸内フローラを調べ、食事の違いと犬種、体重の違いによって腸内フローラがどのように変わるかを確かめました。
研究結果
フェーズIの後の測定では、犬の腸内フローラに違いはあまり見られませんでした。
しかし、フェーズIIの後の測定では、犬の腸内フローラは、HPLCの食事を与えた犬とLPHCの食事を与えた犬とでは大きな違いが見られ、食事のタンパク質-炭水化物比が腸内フローラの構成比に大きく影響することがわかりました。興味深いのは、フィルミクテスというグループの菌の種類を細かく観察したら、食事にタンパク質が多ければタンパク質・脂肪の消費に関わる菌が増加し、炭水化物が多いと炭水化物の消費が多い菌が増えたことです。
また、HPLCを与えられた犬は、体重調整に関係する微生物の遺伝子ネットワークが豊かになることがわかり、HPLCの食事が体重減少を促進する可能性を示すことができました。そしてこのような腸内フローラの変化は、犬種には関係なく、太っている犬で顕著であったそうです。太っている犬は、痩せている犬よりもずっと腸内フローラの構成が食事内容に左右されてしまうということなのでしょう。
研究の意義
今回の研究はサンプル数が少ないですし、また残念ながら「肥満解消には、こんなタンパク質の比率の食事にして、こんな腸内細菌の構成比にするとよい」というすぐにダイエットに役立つ結果は得られていないようです。しかし今後、このような研究が増えて腸内細菌と肥満の関係が詳しくわかってくれば、プロバイオティクス、プレバイオティクスを利用してペットフードを改善し、肥満犬の増加を食い止めることができるようになるでしょう。
《参考》
Qinghong Li他(2017)Effects of the Dietary Protein and Carbohydrate Ratio on Gut Microbiomes in Dogs of Different Body Conditions. doi: 10.1128/mBio.01703-1624 January 2017 mBio vol. 8no. 1 e01703-16
http://mbio.asm.org/content/8/1/e01703-16.full