犬の表情と人間の注目の関係
イギリスのポーツマス大学の研究チームが、犬と人間の関係についての興味深いリサーチ結果を発表しました。サイエンティフィックリポート誌に掲載された、そのタイトルは「人間が犬に注目することが、犬の顔の表情に影響を与える」というものです。
犬への思いがますます深くなりそうなこのリサーチ結果、どのようなものだったのかをご紹介いたします。
リサーチはどんな風に行われた?
リサーチに参加したのは24匹の家庭犬。オスが13匹、メスが11匹で犬種や年齢は様々でした。
犬から1mくらい離れたところに人間が立ち、その時の犬の様子が撮影されました。
人間が犬の前に立つ時、次のような4種類の違った状態で行います。
- 食べ物を手に持ち、犬に注目した状態
- 手ぶらで、犬に注目した状態
- 食べ物を手に持ち、犬に背中を向けた状態
- 手ぶらで、犬に背中を向けた状態
人間の注目はもちろんなのですが、もうひとつ気になるのは食べ物が犬の表情にどんな影響を与えたかという点ですね。
さて、どんな結果が出たでしょうか。
犬の表情に影響を与えたのは人間か?食べ物か?
撮影された犬の表情を観察し解析した結果、犬の表情に強く影響を与えたのは「人間に注目されているかどうか」ということでした。
人間が犬に背中を向けていた時よりも、犬の方を見ていた時に犬はより多くの表情を見せたのだそうです。とりわけ眉のあたりをクイッと上げたり、目を大きくしたり、舌を出すという表情が多かったそうです。犬好きな人なら間違いなくキューンとなる子犬っぽいあの表情ですね。
そして、食べ物が見えているかどうかは表情には影響を与えなかったのだそうです。私たちが可愛らしいと感じる犬の表情は、人間が犬に注目している時に作られ、食べ物だけでは引き出せないようです。
犬が自分を可愛らしく見せようと思って表情を作っているのか、人間の心を操るためにやっているのか、研究者もそれはまだわからないと言っています。けれども人間に見られている時、たとえ食べ物がなくても表情を見せることから、犬は必ずしも食べ物を得るために人間を利用しているのではない、としています。
「もしかして、うちの子は私のことをごはんをくれるからという理由だけで好きなんじゃないかしら?」と心配していた飼い主さんには嬉しいニュースですよね!
以前の研究では、動物の表情はその時々の感情が反射的に顔に表れているもので、コミュニケーションの手段として表情を作っているのではないとされていたのですが、このリサーチの結果は「犬は人間とのコミュニケーションの手段として顔の表情を使っていると考えられる」ことを示しています。
オランウータンなどの類人猿も、人間が注目している時により表情が豊かに『観客効果』というものが確認されており、犬にも同様のことが言えるのではないかとも言われています。
ただ、今回のリサーチの結果からは犬が表情を使って何を人間に伝えようとしているのかまでは明らかにできなかったので、犬の表情についての研究は今後もさらに続けられるようです。
まとめ
犬は人間に注目されている時に、より多くの表情を見せるというリサーチの結果が科学誌に発表されました。しかし当の研究チームの研究者自身が「犬と暮らしている人や犬好きの人には今さら驚くようなことではないですよね」とも言っています。
けれども犬の表情はその可愛らしさや豊かさのせいで、時にはまちがった擬人化で受け止められ、人間に都合の良い解釈をされてしまうことも多々あります。科学的に観察や統計を取って研究をし結論を出すことは、感覚や感情とは別の部分で犬を理解するために重要なことです。
それにしても、人間が注目していると豊かな表情を見せるなんて、やっぱり犬はかわいいなあと思わずにはいられませんね。
当然ながらネグレクトされている犬は表情も乏しくなってしまいますし、保護施設などでも表情の豊かな犬は早くもらわれていくという統計もあるそうです。
自分が犬を見つめることが彼らにも意味のあることなのだなあと思うと、視線にもいっそう愛情が込められそうですね。