CIAの爆発物探知犬たち
CIAと聞くと「スパイ?」と連想したり、映画やドラマの世界のように感じますよね。
CIAは日本語にすると中央情報局。アメリカ国家の安全のための様々な活動を行う機関で、軍隊とも警察とも違うものです。
あまり知られていないのですが、そのCIAで爆発物探知犬として任務についている犬たちがいます。
犬たちの訓練の様子はツイッターや当局サイトで時々紹介されるのですが、先日発表された「ルル」という犬のことが話題になっています。
立派な爆発物探知犬になるための道のり
国家レベルの機密事項を扱う機関であるCIAは、その建物周辺や内部の警備も最高レベルに厳しいものです。爆発物が仕掛けられていないか探知するために犬たちも警備に一役買っており、CIA内の専任トレーナーによって訓練されます。
この秋卒業予定の探知犬養成クラスのために選抜されたのは6頭のラブラドールでした。全頭がメスで、年齢は1歳半〜2歳。
ラブラドールはエネルギッシュでフレンドリー、そして食べ物でモチベーションが上がりやすい点が探知犬に適しているのだそうです。
面白いことに、この6頭のラブたちは元々は介助犬になるべく、パピーウォーカーの手で育てられた後に介助犬訓練センターに居た犬たちでした。
介助犬というのは静かで落ち着いたエネルギーが必要とされます。我慢強く黙々と、人のために働くことが好きな犬でなくてはなりません。
CIAのトレーナーにスカウトされた犬たちは、元気なエネルギーに溢れ過ぎて介助犬として不適格とされた犬たちでした。
ある職務に不適格だというのは決して劣っていることではなく、犬にとっても適材適所が大切だということがよくわかりますね。
爆発物探知犬の候補たちは入念な健康診断を受けた後に、まず6週間の基本訓練を受けた後、さらに10週間の高等訓練を受けた後に卒業となります。
犬にとっての「できる」と「楽しむ」
さて、この6頭の探知犬候補生の中にルルという1歳半の黒ラブがいました。
訓練を進めていく中で、残念ながらルルは爆発物探知犬として不適格とされ、訓練から外されました。
ルルは決して訓練についていけなかったとか、能力が劣っていたというわけではありませんでした。
コマンドに従って匂いを嗅いだり、目標物を探し出すテストも出来ていたそうです。
けれども、トレーナーチームの目にはルルが自分のしていることを楽しんでいるようには見えなかったのだそうです。
犬のトレーナーやハンドラーたちは、人間の安全のために命をかけて働いてくれる探知犬が体も心も健康であることを何よりも重視するため、楽しいと思えない仕事を続けさせることは健全ではないとしてルルの訓練を止めると決定しました。
能力があるからその仕事をさせるのではなく、犬自身が楽しめることに重きを置く。素敵な姿勢ですね。
ドロップアウト犬や引退犬のその後
CIAでは訓練を途中で降りてしまったり、任務を終えて引退した犬たちはペアを組んでいたハンドラーに引き取りを打診するのだそうです。
ほとんどの場合ハンドラーは相棒だった犬を家族として引き取ります。ルルもいっしょに訓練を受けていたハンドラーに引き取られ、現在は家庭犬として幸せに暮らしているそうです。
警察犬の場合も引退後はペアを組んでいたハンドラーの家庭に引き取られる場合が多く、事情があって引き取れない場合は警察犬ハンドラーOBなど関係者に引き取られます。
軍用犬も襲撃訓練などを受けていた犬は引退後にハンドラーに引き取られますが、そうでない犬は厳しい審査を受けた一般家庭への譲渡が行われています(常に順番待ちの高競争率だそうです。)
まとめ
CIAの爆発物探知犬というエリートコースの訓練を受けたものの、仕事に興味を持てず楽しんでいないとして訓練から外された黒ラブのルル。「クビになった」とか「落第生」とおもしろおかしく書いているメディアもあるのですが、CIAのサイトで伝えられている情報はとても真摯なものです。
人間の利益だけでなく、働く犬の福祉も考えての結果、ルルは探知犬から家庭犬へとシフトチェンジしました。人間のために働いてくれる犬の待遇はこんな風であって欲しいと思います。
政府機関で働くというようなたいそうなことでなくても、一般の飼い主と愛犬の関係の中でも心に留めておきたいことですね。ドッグスポーツでもトレーニングでも、結果だけでなく犬が楽しんでいるかどうかに目を配りたいものです。
ルルと訓練チームの人々のストーリーにはとても大切なことが含まれていると感じました。
《参考》
https://www.cia.gov/news-information/blog/2017/pupdate-a-pup-leaves-the-class.html