音読の苦手な子供を犬が助けるプログラム、初めての科学的検証が行われた
人前で本を読むことが苦手な子供が、苦手意識を克服して自信が持てるようにと、犬に向かって本を読む練習をするプログラムのことをご存知の方も多いのではないでしょうか。
犬は人間と違って、途中で読むことにつかえたり間違ったりしても責めたり笑ったりせずに聴いてくれるので、子供ものびのびと本を読む練習ができます。犬はセラピードッグとして訓練されテストに合格した者たちです。
このプログラム、世界のあちこちで実行されているのですが、子供たちにとって具体的にどれくらいの効果があるのか、きちんと数値で示された報告がありませんでした。このたびオーストリアで発表されたプログラムの効果のリサーチについてご紹介いたします。
子供の音読練習に犬が与えるポジティブ効果の測定方法
本を音読することが苦手な子供が、訓練された犬のそばで本を読むことで良い効果があることはかなり以前から言われており、そのようなプログラムを実践する学校や図書館なども増えています。そしてこのたびオーストリアのウィーン大学の行動生物学の研究チームが、犬が作り出すポジティブな効果を数値として測定し発表しました。
リサーチの方法は次のようなものです。
リサーチの方法
参加したのは9~10歳で、音読の能力が平均よりも低いとされている子供たち。子供たちはそれぞれ2回の音読を行い、その様子がビデオ録画されます。2回のうち1回は犬のそばで、もう1回は犬抜きで本を読み上げます。
参加した犬たちは全員が学校訪問犬として訓練されて資格を持っており、普段から子供と過ごすことに慣れています。
本を読んでいる間、子供たちの興奮の度合いやストレスレベルを計測するために、心拍数や唾液中のコルチゾールの値を複数回記録します。(ストレスを感じるとコルチゾールの値が高くなる。)
さて、結果はどうなったでしょうか。
犬あり犬なし、子供たちのテストの結果はどう変わった?
犬あり、犬なし、2回の音読を行った子供たちは、読んだ文章の理解度を確認するためのテストを受けました。結果は犬ありでも犬なしでも大差はなかったのだそうです。
いっぽう、音読の際につかえたり読みにくかった言葉を反復練習するテストでは、犬がそばにいることでポジティブな結果が出たそうです。
このテストでは、子供たちはできるだけ速く正確に文章を読むようにと指示を受けて1回目の音読をします。そして読みにくかったり、つっかえてしまった言葉の反復練習を行った上で2回目の音読をします。1回目の音読が「犬あり」だった子供たちは、1回目が「犬なし」だった子供たちに比べて2回目の音読がうまくできるようになったのだそうです。犬がそばにいることで、本を読むというパフォーマンスが向上したことが読み取れます。
また子供たちの生理的な変化では「犬なし」の状態の時には唾液中のコルチゾールの値が高くなり、「犬あり」の時には心拍数が多くなる傾向が見られたそうです。
録画されたビデオの観察結果では「犬あり」の時には、身体を掻く、咳払いをする、足をブラブラさせるなどの動きが減ったことが確認されました。つまり犬がそばにいることでストレスが少なくなり(コルチゾールの数値)、やや興奮状態で(心拍数の増加)、緊張は解けている(動作の観察結果)という状態になったということですね。
まとめ
以前から、子供が犬に本を読み聞かせることで音読に対する苦手意識を克服できることは指摘されていましたが、今回のウィーン大学の研究チームのリサーチで、その結果が数値としてはっきりと示されました。
子供たちの学習意欲やパフォーマンスの向上にプラスになることがわかれば、犬が参加する学習プログラムに取り組む学校や施設が増えるかもしれないですね。
また、そんな風に犬の協力を得て学習するようになった子供たちは、犬に対して良いイメージを持ち優しく接するようになるかもという、嬉しい副産物もありそうな気がします。
この研究では、人間の子供への影響を調査していますが、人間が犬に本を読み聞かせることで犬の神経や行動が落ち着くというリサーチ結果もあります。
研究チームでは、今後さらにリサーチを重ねていきたいと意欲を示していますが、犬にも人にもプラスになるような素敵な関係を築く助けになって欲しいと思います。