生理学的な犬のストレスの評価
イタリア・パルマ大学の神経科学の研究者らは、シェルターで長期的に暮らす97頭の犬のストレス状態について調べました。2歳〜7歳の雑種犬で、シェルターに2〜3年暮らす健康な犬が対象となりました。
研究者らは、犬の行動を5時間に渡って録画し、ストレスと関連のある行動を観察しました。観察では、強いストレスを示す行動(体を震わせる、円を描いて歩き回る、鼻先を舐める、犬舎の柵を齧る、自虐行為など)と、弱いストレスを示す行動(尾尻を振る、他の犬との肉体的接触を求めてウロウロするなど)を観察しました。
これと並行して、採血を行い、ストレスに関係するホルモンであるコルチゾールのレベルと、ストレスの指標となる白血球数と抗酸化物質の濃度についても調べました。ストレスホルモンとして有名なコルチゾールは、短期ストレス要因によって急速に変化する可能性があります。
一方で、長期間のストレスに晒されることで増加するのが白血球です。慢性的なストレスでは、最終的には致死するほどの組織の損傷を引き起こすことが知られています。人も同じく犬の体は、ストレス要因に応答して白血球を増やします。また、ストレスによる損傷に対抗するために抗酸化物質の濃度を高めます。
研究者らは、ストレスと関係のある行動と、血液中のコルチゾールや白血球、抗酸化物質との間に関連が観られるかを調べました。その結果、より濃度の高い抗酸化物質を持つ犬は、ストレスと関係のある行動(不安や破壊など)を取ることが少ないことが判明しました。さらに、これらの犬は、抗酸化物質の濃度が低い犬よりも、リラックスしており、他の犬に対しても友好的で社会的行動を見せる頻度が高いことも判りました。
環境要因と犬のストレスの関連性
続いて研究者らは、こうした血液の成分と、犬の生活環境、犬の性格との関連性を解析しました。その結果、性別、犬舎のサイズ、犬舎にて一頭で暮らしているか否か、去勢されているか否かなどの要因は、血中のストレスマーカー(コルチゾール、白血球、抗酸化物質)には重要な関連性は見られませんでした。
犬のストレスのレベルを下げたのは唯一の要因だった
こうした血液マーカーで唯一、ストレスのレベルを下げたことがあります。それが散歩です。定期的に散歩に行っている犬は、ストレスによって引き起こされる行動が少なく、より友好的でリラックスしていたことから、ストレスや不安が少ないことが示唆されたのです。つまり、シェルターのボランティアによって毎日の散歩が行われる機会があるかどうかの違いが、犬の血中ストレスマーカーに差異をもたらしたとも言えるでしょう。
こうした結果は、この論文の研究者だけではなく、心理学者も驚いたようです。以前より、ドッグビヘイビアリストや心理学者、行動学者は、「犬は犬種を問わず毎日の散歩が必要不可欠」だとしてきましたが、それを裏付ける明確な根拠がありませんでした。しかし、今回の神経科学の研究によって数値化されたデータは、こうした主張の裏付けにもなることでしょう。
こうした結果から、散歩がストレスを下げるメカニズムの解明が今後も進んでいくことでしょう。
まとめ
私のクライアントの中で散歩を少なくしていた理由は、ペットショップで店員に「小型犬なので散歩は少しでも良い」と言われたからだと言います。ペットショップの店員もこうした研究に目を通し、間違ったことは言わないようにするべきです。こうした間違ったアドバイスが犬のストレスを高め、問題行動や精神疾患を生みます。
今回のこの研究は、シェルターの犬たちの福祉向上のために行われたものです。毎日の散歩・運動がいかに大切かを知らせてくれます。また、家庭犬にはもう少し複雑なストレス要因がある可能性があります。こうした事も今後の研究に期待したいところです。
《参考》
Stanley Coren Ph.D(2015), A Simple Way of Reducing Long-Term Stress in Dogs?, Psychology Today.
S. Cafazzo, L. Maragliano, R. Bonanni, F. Scholl, M. Guarducci, R. Scarcella, M. Di Paolo, D. Pontier, O. Lai, F. Carlevaro, E. Bucci, N. Cerini, L. Carlevaro, L. Alfieri, C. Fantini, E. Natoli, (2014). Behavioural and physiological indicators of shelter dogs' welfare: Reflections on the no-kill policy on free-ranging dogs in Italy revisited on the basis of 15 years of implementation. Physiology & Behavior.
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