犬が表現している『言葉』を大人はどれくらい理解しているか?
フェイスブックなどSNSやビデオ投稿番組に溢れている、小さい子供と犬が一緒にいる写真や動画。かわいくて微笑ましいですよね。けれど中には撮影者は全然気づいていないけれど見ているこっちは冷やっとするような危険と紙一重のシーンもたくさんあります。
犬と子供が一緒にいる時に大人がそばで監督していても、犬が体や表情で発しているシグナルを無視したり誤解したりしていては、いざという時の事故を防ぐことができません。
実際のところ、人間はどれくらい犬のボディランゲージを理解しているのかという調査が、トルコのアンカラ大学獣医学部の研究チームによって行われました。
調査の概要
調査はオンラインのアンケート形式で行われました。回答者は「犬と子供の両方と暮らしている人」「犬と暮らしているが子供はいない人」「子供と暮らしているが犬はいない人」「犬とも子供とも暮らしていない人」の4つのグループに分けられています。
回答者は、小さい子供と犬が一緒に過ごしている3種類のビデオを見せられます。ビデオに登場している犬はどれも全部「怖がっている」「不安を感じている」「自信を失くしている」と専門家が判定したボデイランゲージを示しています。ビデオを見終わった回答者には犬がどのような感情の状態であったかを選択肢の中から選んでもらいます。
回答を集計した結果はなかなか興味深いものでした。
多くの人が犬のボディランゲージを誤解している
犬が恐怖や不安を感じ自信を持てずにいるストレス状態のビデオを見た回答者たちが答えた内容は興味深いと共に、背筋が寒くなるものでした。
回答者の約7割が、本来の犬の状態とは反対の意味を読み取っていました。
最も多かった回答が「犬はリラックスしている」68.4%、続いて「犬は自信を感じている」65.1%.。
「犬は子供と遊んでいる」「友好的」という回答も目立ちました。どこからその状態を読み取ったのかという問いには44%の人が「全体的な雰囲気から」と答えています。
本当は犬がストレスを感じている状態なのに、そばで見ている大人は「リラックスして楽しそうね」と判断しているというのは本当に危険なことです。
専門家が判断した犬のストレス状態は「耳が倒れている」「しきりに唇や鼻を舐める」「白目の部分が見えている」など具体的な体の変化として現れていたと思われますが、誤った理解をしている人の多くが「全体的な雰囲気」という曖昧なもので判断しているのも怖いことです。
また興味深いことに、犬と暮らしていない人のグループの方が犬の飼い主グループよりも正答率が高かったという結果が出ています。犬と暮らしている人のグループの回答では「犬はリラックスしている」というものが目立ち、犬の状態に対してネガティブなラベル付けをすることを避ける傾向が見られました。
これは犬と暮らしているというだけでは、子供と犬の間に発せられる危険なサインを読み取れるようにはならないということを示しています。犬のボディランゲージについて理論的な知識を持っていない飼い主は、犬に好意的な判断をするため(たとえ本当はそうでなくても)犬が友好的だと思う傾向が見られます。
反対に、犬と暮らしていない人が犬を観察する時(とりわけ子供といっしょにいる時には)より慎重になる可能性があり、犬が危険になり得ることを受け入れやすいのかもしれないとしています。
まとめ
子供と一緒にいる犬のボディランゲージを人はどれだけ読み取れるかという調査の結果、7割以上の人が誤った判断をしていたという結果が発表されました。
「子供と犬」という微笑ましい組み合わせによって、判断が甘くなってしまうということもあるのかもしれません。
犬と暮らしている人の方が正答率が低かったという結果も、犬への愛のせいで判断の目が曇ってしまうのかもしれないですね。
けれど安全のためには、そんなことは言っていられません。子供は犬の尻尾や耳を引っ張ったり、突然大きな声を出したりという犬の嫌がることをしがちです。
そんな時に犬が出している恐怖や不快のボディランゲージを読み取ることができれば、危険を回避できる可能性が高くなります。
そのためにも大人は犬の発するシグナルをしっかりと勉強し、子供にもわかりやすく伝えることが重要です。
犬のボディランゲージは「カーミングシグナル」をはじめ、くわしく説明されている書籍がたくさん出版されています。本や講習会などできちんと勉強する飼い主さんが増えていってほしいと切に思います。
《参考》
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/08927936.2016.1228750