犬のカーミングシグナルを科学的に検証するという試み
世界中のドッグトレーナーや動物行動学の専門家が参考にし、信頼している犬のカーミングシグナルという概念。実はつい最近までその内容が科学的に検証されたことはなかったそうです。
先ごろ、イタリアのピサ大学獣医科学科の研究チームにより、犬の行動パターンとその機能を調査し、どの行動をカーミングシグナルと分類するべきかという予備研究の結果が発表されました。
犬のカーミングシグナルについて
犬と暮らし、しつけや訓練に興味のある方なら『カーミングシグナル』について理解している方も多いと思います。詳しくはわからないが、名前くらいは聞いたことがあるという方も多いでしょう。
この言葉が広まったのは2006年ノルウェーのドッグトレーナーであるトゥーリッド・ルガース氏が著した『カーミングシグナル』という本が始まりです。
という考えに基づいて書かれています。
例えば相手から視線を外すことで「あなたに敵意はありませんよ」と伝える、あくびをして見せることで興奮している相手に「ちょっと落ち着いて」というメッセージを送るなどのコミュニケーション手段として、不安やストレスを感じている時に自分の鼻やくちびるを舐めたり、地面の匂いを嗅いで自分自身を落ち着かせるための手段として使われます。
ネット上でもカーミングシグナルに書かれているものは見つけられますが、犬と暮らしている方ならネットの断片的な情報だけでなく、ぜひこの本を手元に置いて参考書として活用して欲しいと思います。薄くて写真の多い本なので、とっつきやすく犬語の理解に役立ちます。
なぜ科学的な検証が必要か?
ルガース氏が提唱するカーミングシグナルは世界中のドッグトレーナーや動物行動学者が賛同し、実際に活用されています。
しかし学問的に犬の行動を統計を取って系統立ててシグナルを検証した研究は行われていませんでした。
科学的なバックアップ無しに漠然とした概念だけが広まってしまうことは、犬の仕草や行動の意味を理解しないまま形だけで「こういう仕草をしたらカーミングシグナル」と先入観だけで犬を判断することにもつながります。それでは正しい対応は期待できません。
この度初めて前述のピサ大学研究チームによって、『犬同士における視覚コミュニケーションの分析〜カーミングシグナルについての予備的研究』というレポートが発表されました。
カーミングシグナルの研究概要
研究観察に協力したのは24匹の犬たち。オスメスそれぞれ12匹ずつです。一度に2匹ずつの観察が行われ、それぞれに「なじみのある同性の犬たち」「面識のない同性の犬たち」「なじみのある異性の犬たち」「面識のない異性の犬たち」の4パターンで統計が取られます。こうして全部で2130パターンのカーミングシグナルが観察されました。
もっともよく見られたシグナルは「顔を背ける」「鼻を舐める」「その場で固まる」「立ち去る」でした。
犬たちは、全く接触が無かった時に比べ互いに接触があった時により多くのカーミングシグナルを見せました。また犬同士の距離が近いほどシグナルの数が増えました。さらに面識のない犬との接触は、なじみのある犬との接触の時よりも多くのシグナルが観察されました。つまり元来から言われているカーミングシグナルは犬がストレスを感じている表現だということが統計として現れたということです。
研究観察の中で、109例の攻撃的な行動が見られました。それらの攻撃行動の前にはカーミングシグナルは出されていませんでした。一方で攻撃行動の後には、67%の犬が相手の犬に対してカーミングシグナルを発しました。攻撃行動に対してカーミングシグナルが出された場合、そのうちの79%において攻撃行動は収まりました。このデータからカーミングシグナルは確かに相手を落ち着かせる働きをしていることを示すと考えられます。
今回発表されたのは予備研究の結果であり、明確な結論を出すにはまだまだ多くのデータと統計が必要であるとされていますが、ドッグトレーナーであるルガース氏の経験に基づく『カーミングシグナル』が、科学的にも裏付けが取れそうだという道標になりそうです。
まとめ
犬がストレスを感じている時、自分自身やストレスの原因である相手を落ち着かせるために出されるカーミングシグナルが、科学的に研究観察されて従来から言われていたことの裏付けが取れそうな予備研究が発表されました。これを機会により多くの飼い主が『カーミングシグナル』の本を手に取って、その意味を読み取ることを身につけてくれたらと思います。
カーミングシグナルは飼い主がよく理解していないと、犬が発しているストレスのサインやメッセージを見過ごしてしまい、犬に我慢を強いたりトラブルを招くことにもつながります。例えば知らない犬に無理やりアプローチされたり、愛情表現のつもりでハグをした時、多くの犬はカーミングシグナルを出しています。それを無視すると犬同士のケンカや咬傷事故にもなりかねません。
科学的にも確かな裏付けが取れそうなカーミングシグナル、しっかりと正しく広まって欲しいと願います。
《参考》
http://www.journalvetbehavior.com/article/S1558-7878(16)30246-5/abstract
http://thebark.com/content/should-we-call-these-canine-behaviors-calming-signals
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20代 女性 ミーコ