「保定」とは?ただ押さえつけるのではない、その目的と原則
動物病院における「保定(ほてい)」とは、診察、検査、処置、治療などを安全かつスムーズに行うために、動物の動きを制限し、適切な体勢を維持させることです。
しかし、この「保定」は、単に動物を力ずくで押さえつけることとは全く異なります。その目的は、動物、獣医師、動物看護師、そして飼い主さんの安全を確保し、動物に過度なストレスを与えず、必要な医療行為を迅速に行うことにあります。
具体的には、「イメージとして、関節技のような形」と表現されるように、犬の体の関節や筋肉の仕組みを熟知し、ごくわずかな力で特定のポイントを抑えることで、犬が自ら身動きを取りにくくなるように誘導する技術です。
例えば、首の付け根や肘、膝の関節などを適切に支えることで、犬は自然と抵抗しにくくなります。これにより、犬に痛みを与えることなく、体勢を維持することができます。
また、保定は単なる身体的な技術だけでなく、動物の心理状態を読み取るスキルも重要です。犬が今、何に対して不安を感じているのか、どの程度興奮しているのかを察知し、声かけや撫で方、視線の送り方など、様々な要素を組み合わせて犬を安心させながら行います。
熟練の技「保定」の裏側
動物病院のスタッフが当たり前のように行っている「保定」の技術は、実は非常に高度であり、一朝一夕で身につくものではありません。
獣医師や動物看護師を目指す学生たちは、大学や専門学校で動物の行動学や解剖学を学ぶとともに、実習を通じてこの保定技術を日々練習します。動物の動きを予測しながら、最小限の力で最大限の効果を発揮する「プロフェッショナル」なのです。
彼らが日々行っている保定は、長年の経験と訓練によって培われた、まさに職人技と言えるでしょう。
プロフェッショナルに任せる安心感
愛する我が子が、慣れない場所で、見知らぬ人に体を抑えられる姿を見るのは、飼い主さんにとって胸が締め付けられるほど不安な気持ちになることでしょう。
しかし、動物病院のスタッフは、その不安な気持ちを痛いほど理解しています。そして、その上で、”動物病院スタッフがプロフェッショナルであることを信じて欲しい”と願っています。
獣医師や動物看護師は、何よりも動物たちの安全と健康を第一に考えています。保定は、動物に嫌な思いをさせるためではなく、彼らの命を守り、痛みを和らげ、適切な診断と治療を行うために必要不可欠な行為です。忘れないでいただきたいことは、動物病院スタッフは、常に動物への愛情と敬意を持って接しています。
診察中、スタッフから「少し離れてください」「〇〇してください」といった指示があった場合は、それに従うことが大切です。飼い主さんが近くにいると、犬が飼い主さんに甘えてしまい、かえって保定が難しくなるケースや、スタッフの動きの妨げになることもあります。
また、普段の性格、苦手なこと、過去に暴れてしまった経験など、愛犬に関する情報を詳しく伝えることで、スタッフもより適切な保定方法を検討できます。
まとめ
動物病院での「保定」は、単なる押さえつけではなく、動物の安全と適切な医療のために必要な高度な専門技術です。獣医師や動物看護師は、長年の訓練で体勢ごとの的確なポイントを抑える熟練の技を習得しています。愛犬のため、プロフェッショナルである私たちを信頼し、安心して任せてください。