犬が職場環境に及ぼす影響を調査
「犬と暮らすと病気のリスクが下がる」など、犬を飼うことのメリットについて多くの研究が発表されています。同様に職場に犬が居ることについても人間関係の改善や従業員のストレス軽減に効果があるなど、犬が居ることのメリットに注目した報告が目につきます。
しかし普通に考えて、犬が業務に差し支える場合もあれば犬が苦手な人やアレルギーのある人もいるため、デメリットや実現不可能な例もたくさんあるでしょう。
ポルトガルのヌエバ・デ・リスボン大学の経済学の研究者が、犬が職場環境にどのように影響し、どのような状況下であれば職場に犬が居ることの利益を得ることができるかについて調査検証した結果を発表しました。
職場に犬が居ることのメリットとデメリット
調査のためのデータは、定期的に犬をオフィスに連れて行っている人とその管理職の人へのインタビューによって集められました。インタビューを行った企業は5社で、いずれも同じ地域のよく似た業種の小規模な会社でした。メリットもデメリットも容易に想像がつくものが多いのですが、以下にリストアップします。
職場に犬が居ることのメリット
- 犬はその場にいる人間の社会的相互作用にプラスの影響を与える
- 人間関係が良くなることで、従業員の仕事への満足度が高くなる
- ペットに優しいポリシーは企業イメージを良くする
- 企業イメージが良くなることで求人市場で良い人材が集まりやすくなる
- 犬を見たり触れたりすることで気分転換やストレスの軽減に役立つ
職場に犬が居ることのデメリット
- 犬アレルギー、犬恐怖症の人にとって身体的および精神的な健康を損なう
- 職場に犬が居ることで、求人市場で避けられるリスクがある
- 犬に関連する怪我のリスク(咬傷は非常に少なく、犬用おもちゃやリードで躓く等)
- 犬の世話に手を取られるため生産性が低下する
職場の犬の存在がメリットとなる企業の条件とは?
インタビューや分析の結果から、職場に犬が居ることがメリットとなる企業にはいくつかの共通する特徴があると報告されています。
柔軟な企業文化
日常の業務、問題への対処方法がフレキシブルで柔軟性がある企業では、犬に関することにも柔軟に対応し、それがうまく機能している傾向がありました。オフィス全体で迎える犬の数、犬種などに対しても規則や制限を設けるのではなく、柔軟に対応する姿勢がメリットにつながっているようでした。
オープンなコミュニケーション
組織内の問題に対して従業員同士または従業員と管理職がオープンかつ直接的に対処する文化がある、従業員と管理職が定期的に会議などで問題を共有しているなど、業務上のコミュニケーションがオープンな企業では犬の存在が問題になりにくいようでした。
犬が何らかの問題を引き起こしたときにも、解決の過程がオープンであれば飼い主や周囲のストレスも軽減されます。
業務に関して自律性がある
職場に犬を連れて来た場合、トイレや散歩など犬のために時間を取らなくてはなりません。業務の時間や内容を自律的に調整できる職場ではそれは問題ではないということでした。反対に柔軟性のない作業スケジュールの業務では、犬が居ることが飼い主へのプレッシャーやストレスにつながりデメリットとなります。
研究チームは、基本的に職場に犬が居ることは職場環境にプラスになると考えているということですが、そのメリットを享受するには上記のように前提条件があることを強調しています。
犬の飼い主が仕事にも動物にも責任を持って対処するには、企業に柔軟な時間と自律性が必要です。企業文化や経営者がこれらを準備できない場合、職場に犬を連れて来ることは飼い主にも周囲の人間にも、そしてもちろん犬にとっても悪影響となる可能性が高くなります。
今回の調査では対象となった企業が限定的だったため、将来の研究では従業員の年齢、企業の規模、企業内の人口統計などの各組織の特徴と職場のペットとの関連を調査することが言及されています。
まとめ
ポルトガルの経済学の研究者が実施した調査から、職場に犬が居ることがプラスとなるためには企業側の柔軟性や自律性が必要であるという結論をご紹介しました。
日本ではまだ犬を職場に連れて行くことはほとんどが不可能ですが、この調査から導き出された結果は単にペットとして犬を迎える場合にも十分に当てはまることです。
犬が家庭内で家族の人間関係を改善しストレス軽減の助けとなるためには、家族間のオープンなコミュニケーション、家族それぞれの役割の柔軟性と自律性を確保することが必要です。
犬と生活することのメリットは声高く叫ばれがちですが、この研究のようにメリットを享受するには条件があること、もちろんデメリットもあることなどが発信される必要があります。
《参考URL》
https://www.mdpi.com/2076-2615/11/1/89/htm