イヌのゲノムの新しい解読情報
2004年アメリカ国立ヒトゲノム研究所がイヌのゲノムを解読し、その後ヒトゲノムとの比較なども発表されました。
そして2021年、スウェーデンのウプサラ大学とスウェーデン農業科学大学の研究者が新しい方法を使って、より完全なイヌのリファレンスゲノムを構築したという発表がありました。
ゲノムとは簡単に言えば全遺伝情報、生物が持っている全ての遺伝情報のことです。この度発表されたリファレンスゲノムというのは、DNAの塩基配列の決定や再構築が完了した全遺伝情報のことです。
遺伝情報の改良版とはどういうこと?
研究者はゲノム(全遺伝情報)という言葉を説明するのにとても解りやすく、ゲノムを本に喩えています。
ある生物のゲノムはその生物の全遺伝情報が記された本だと考えることができるというものです。
従来のイヌゲノムという本には、多くの単語や文章が抜け落ちていたり、間違った順序で書かれている箇所がたくさんありました。新しい技術のツールを使うことで間違った順序になっていた配置を訂正し、抜け落ちていた部分も埋めることができたというわけです。
具体的には従来のイヌゲノムでは、欠落していた部分が23,000カ所を超えていたのがこの度の研究では585カ所にまで減少しました。今までは不明だった箇所が明らかになったために、犬の遺伝情報を調べる際に判ることが増えたということです。
新しい遺伝情報があるとどんなメリットがある?
ゲノムや遺伝情報と言っても日常生活の中ではピンと来ないし、何の役に立つの?と思われるかもしれません。
イヌのリファレンスゲノム改良版が役に立つ日常生活に関連する事柄と言えば、犬の病気の研究です。
獣医学の発達に伴って、数十年前に比べると犬の平均寿命は大きく延びました。しかし犬の老年期が長くなることで、かつてはあまり見られなかった難治性の病気も増えています。犬のガンの増加などもその一例です。
イヌゲノムの従来欠落していた部分には病気に関する領域が多く含まれていました。改良版で明らかになった遺伝情報を研究することで、病気の原因や治療方法が解明されることも期待されます。
具体的には、犬の骨肉腫、全身性エリテマトーデス(SLE)筋萎縮性側索硬化症(ALS)が現在研究の対象となっているそうです。
犬は人間と同じ環境で暮らしているため罹る病気も人間と共通するものが多く、犬の病気の遺伝学を研究することは人間の同じ病気の原因や治療の手がかりになると言われています。
まとめ
イヌのリファレンスゲノム改良版が構築され、従来は不明だったり間違いだったりした部分が訂正された、より完全に近い遺伝情報が発表されたというニュースをご紹介しました。
遺伝性の疾患や、犬種特有の疾患、特定の毛色や目の色に多い疾患など、犬を飼っていると遺伝と健康の関係に敏感になる機会が多いと思います。
自家繁殖をするつもりはない、愛犬は雑種だから関係ないと考える方もいるかもしれませんが、遺伝に関係のない生き物はいません。
難解でとっつきにくい遺伝子やゲノムといった世界ですが、ニュースや解説をこまめに目に留めておくことで、いざという時に獣医師に相談する選択肢が増える、先生の説明が理解しやすいなどがあるかもしれませんね。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s42003-021-01698-x