犬の遊びと飼い主の注目度
愛犬が遊ぶ姿を見るのは犬と暮らす楽しみのひとつですね。とりわけ複数の犬たちが戯れ合う姿は、ついつい無意識に頬が緩む光景です。そんな犬たちが遊ぶ様子についての研究結果が発表されました。
アメリカのモンマス大学の心理学者が発表した研究によると、飼い主がそばにいて犬に注目している時には、犬同士が遊ぶ可能性が高くなり遊び行動も多く見られるということです。
犬同士で遊ぶというのは、犬という種の生き物の典型的な行動の1つです。以前の研究では他の犬がそばにいると犬同士の遊び行動が促されることが示されていますが、他の種である人間の存在が遊び行動に影響を与えることを示した研究は今までありませんでした。
なぜ犬は人間に見られているとよく遊ぶのでしょうか?
2匹の犬のペア10組を観察
研究者は同じ家庭で飼われている2匹の犬のペア10組について遊びの行動を観察する実験を行いました。2匹の犬は最低6ヶ月以上一緒に暮らしていることが参加の条件です。全てのペアは少なくとも1日に1回は遊びの時間を持っていました。
研究者は次の3つのパターンで犬のペアの行動をビデオ撮影しました。
- 飼い主が不在のパターン
- 飼い主はいるが、犬たちに注目していないパターン
- 飼い主がいて、犬たちに注目し撫でたり褒めたりしたパターン
10組の犬たちの遊び行動は、数日間かけて各パターンをそれぞれ3回ずつ撮影されました。ビデオを分析した結果、犬たちはそばにいる飼い主の注目を集めている時は飼い主不在パターンや注目無しパターンに比べて遊び行動が優位に増えていました。具体的にはプレーバウ、レスリング、追いかけっこ、甘噛みなどの行動です。
なぜ見られていると良く遊ぶのかについての考察
それぞれのペアの犬たちはいっしょに暮らしているので、いつでも遊びたい時に遊べるのに何故飼い主が見ていると遊び行動が増えるのか。研究者たちはいくつかの可能性を考察してみました。
まず考えられるのは、飼い主の注目を集めることそのものが犬にとっての報酬になっているというものです。
もう少し考えを進めると、犬同士で遊ぶことは「飼い主がそこに参加してさらに楽しさが増す」「飼い主が外に連れて行ってくれる」など、より嬉しい報酬につながると学習したのかもしれません。
また、遊んでいる時にちょっとしたきっかけで犬たちの間に緊張が走ることがありますが、そばに飼い主がいることで緊張が和らぎ安心感が生まれることから遊びの行動が増えるのかもしれません。
飼い主が犬に声をかけたり撫でたりすることで「愛情ホルモン」とも呼ばれるオキシトシンの分泌が起こり、それが遊びというポジティブな行動につながっていることも考えられます。
研究者はさらに研究を行い、ヒトとイヌという違う種の間での注目と遊びという社会的行動との関係につながるメカニズムを明らかにし、動物の遊び行動についての理解を確立したいと述べています。
まとめ
2匹の犬がいっしょにいる時、飼い主が犬たちに注目していると遊びの行動が有意に増加したという観察の結果をご紹介しました。遊び行動が増える理由については未だ考察しているだけでメカニズムは分かっていません。
この研究は注目されるというオーディエンス効果が、遊ぶという犬の社会的行動を促すという実験的な証拠の初めてのものだそうです。
このメカニズムが分かれば、犬の社会的行動を効果的に促進するために人間はどのような行動を取れば良いのかが明確になり、咬傷事故の予防や犬の福祉の向上に役立てられるかもしれません。
《参考URL》
https://link.springer.com/article/10.1007/s10071-021-01481-9