はじめに
僕は現在、訪問型ドッグトレーナー兼ドッグリハビリストをしています。
犬のしつけはもちろんのこと、犬自身のサイコロジーリハビリテーション(※)や、飼い主さんに犬の本質や知識、犬との関わり方をレクチャーするのが主なお仕事です。
愛犬家の方たちのお悩みにもそれぞれ様々なタイプがあり、緊急を要するものからそうでないものまで、様々なご依頼を賜ります。
その中から、特に印象に残ったエピソードをご紹介します。
このお話が、少しでもあなたの幸せなドッグライフのヒントになりますように。
※:サイコロジーリハビリテーション:犬が持つ本来の穏やかで安定した精神状態を取り戻す為のリハビリテーションのこと
仲間を信じられない?ジャックのルーク
ある日、いつもお世話になっている獣医さんから電話がありました。
「わんぱぱさん。今日うちに来た飼い主さんが犬の事で軽いノイローゼになってるんだよ。もうどうしていいか判らないんだって。話を聞いてあげて欲しいんだけど…」
「はい♪判りました!それはお気の毒ですねぇ。ご住所教えて下さい!お伺いしますよ♪」
犬の事が何も解らないままお伺いする事もたまにあるんですね。
これはこれでワクワクするもんです♪そして後日伺う事に。
ピンポーン♪ ワンワンワン!!
「こんにちは!わんぱぱと申します。」
「は〜い♪先生よりお聞きしています。どうぞお入り下さい」
「失礼致します!」
と、玄関ではご夫婦で出迎えて頂きました。
奥に通されるとサークルにジャックラッセルの成犬が入れられて、元気に吠えています。(ワォ♪)
「早速ですがどんなお悩みが?」
「はい!どうすればこの子が私達に懐いてくれるか教えて下さい!」
切実さが伝わってきます。手や指には絆創膏が。
「判りました♪先ずヒアリングさせて下さい。この子の事を教えて頂けますか?」
「はい。名前はルーク。1歳3ヵ月です。ペットショップで売れ残っていたのをうちで引き取りました。」
「売れ残ってた?成犬になるまで?」
「はい。1年2ヶ月狭いケージの中に入れられていたそうで。可哀想だから主人が連れて帰るって言い出して…」
「そうですか♪それは素晴らしい!で、その手の絆創膏はルークに噛まれたんですか?」
「はい…。先日ランに行った時に他の犬のおもちゃを咥えて遊び始めたので、取り上げようとしたらガブリッ!って…。それ以来噛まれるかもしれないと思うと触るのも恐くて…」
「お気持ちは判ります!」
「あまり私達がこの子に好かれてないような気がして…。どう接してあげれば良いのか…」
「大丈夫ですよ♪僕の見る限りルークはペットショップに1年以上居て人間は敵じゃ無いことは理解しています。ただ育てられていただけなので、いざという時どうしていいか解らないだけです。先ず確固たる信頼関係を作りましょう。あなた方が最良の群れの仲間だと言う事を教えてあげるんですよ♪」
「はい♪お願いします!」
ジャックラッセルテリアという犬種は猟犬で『軽自動車のボディーにF1のエンジン』を積んだと言われるぐらい、タフでラフでエネルギッシュな行動を取ります。
それこそ、信頼関係が無ければ暴走してしまう所があるのです。
しかし信頼関係が築ければ、こんなに楽しい相棒はいません。せっかくなのでご夫婦には犬と暮らす醍醐味を味わって頂きましょうか♪
カウンセリングサマリー | |
症状 |
飼い主さんの言う事を無視する。物への執着心が強く取り上げようとすると本気噛みする。 |
原因 |
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対策 |
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さぁ!レスキューです!
先ずルークの行動観察をしたいので、「サークルから出しますね♪」と告げてルークを室内に放ちました。
すると嬉しそうに勢いよく飛び出したルークはソファーの上に乗り、置いてあったハンカチを咥えて走り回りだしました。
(おっ!これはチャンスだ♪)さぁ、飼い主さんがどんな対応を取るかお手並み拝見です♪
「コラ〜!ルーク!!ダメ!離しなさい!コラ〜!!」
と追いかけながら大きな声を出している割には、腰が引けて手を出せません。
ルークにしてみれば、怒られているどころか楽しく遊んでいるとしか思っていませんねぇ。
「あちゃ~(汗)」全くドタバタは止みません。
「僕がやりますから見てて下さい♪」
ルークに穏やかに近づきながら、ゆっくりハンカチを掴みます。
数回噛みに来ましたが『君には屈しないよ♪』という態度でルークを静かにエネルギーで押します。
低い声で、
「よし!離せ!」
と言うとパッっとハンカチを離しました。
「えっ!?そんなに簡単に?」
「はい♪大きな声で伝えようとしても伝わりません。穏やかで毅然とした態度の方が、犬には確実に伝わりますよ♪」
「はぁ〜…」
「ルークは覚える気満々ですよ♪素直ないい子です!この続きでゲームをしましょう。尊敬と信頼関係を作るゲームです♪」
これは僕がリハビリテーションでよくやる『セントトレーニング(セントゲーム)』といって犬の嗅覚を利用し探索本能を刺激し満足感を与え、脳の活性化にも繋がり心地よい疲労感を与える事が出来る、ナイスなトレーニングなんですよ♪
原則として人間主導で行うことにより、犬との距離をグッと縮める事が出来るのです。
おまけに尊敬を得ることも楽勝なんです!
ここで詳しい説明は割愛させて頂きますが興味のある方は”セントトレーニング”でググってみてください♪室内でも外でも楽しめますよ♪
予想通りルークははしゃぎ、楽しそうに取り組んでくれました。
飼い主さんにも加わって頂き、「わ〜♪こんなに楽しそうに♪」と嬉しげに目を細めておられます。
「楽しく遊んで楽しく学ぶことでご夫婦をどんどん注目しだします♪そして絆が生まれるのです」
「はい♪何か今までとルークの雰囲気が全く違います!」
犬の本質が解れば後は簡単なんですねぇ。
何故って?犬は至ってシンプルだからですよ♪
僕が飼い主さんにお願いしたこと
「売残犬でも保護犬でも、可哀想な過去を持った犬でも決して憐れんではいけません。
この子達は今を精一杯生きているんです。
憐れみや同情のエネルギーは犬がとても嫌うんです。ルークは僕にこう言っています。
『僕はどうしたらいいの?ここは僕の群れなの?信じていいの?』って。
ペットショップに居て店員さんやお客さん、たくさんの人間を見てきたから敵じゃ無いことは解ってます。
でも信じられる仲間を知らなかったんです。
ルークに限らず犬との距離を縮めたいなら群れの絆と信頼関係を築くことです。細かいしつけはそれからで充分です。
そして先ずご夫婦がルークを信頼してあげること。
犬から先に信頼する事は本質的に出来ないからです。
信じさせてあげて下さい。そして今からでも遅くないです。様々な楽しい経験をさせてあげて下さい」
「はい!なるほどと思うことばかりで、目からウロコが落ちた気分です。ルークと最高の群れを作ります!」
「そうです♪とにかくルークと楽しんで下さい♪悩んではいけません。何でもご相談下さいね」
その後数回お伺いさせて頂きましたが、嘘のようにルークとのコミニケーションがスムーズになっていて、びっくりしました♬
もう飼い主さんが噛まれることも無くなりました。
さいごに
こんなことを言うと語弊があるかも知れませんが、僕はあまり犬のしつけに拘りません。
それぞれの飼い主さんが犬と幸せに暮らす形が出来ていればそれでいいかな♪と思うのです。
昔は「こうあるべきなんだ!」と熱く思っていましたが今は「お互いが楽しけりゃいいやん♪」てな感じです。
飼い主さんと犬が幸せを感じ、穏やかに暮せるということはお互いが信頼し合っているということなんですね。
それが例え主従関係が逆でも、それに喜びを感じる飼い主さんもおられる訳で。
それも一つのドッグライフの形かなと考えるのです。
しかし飼い主さんが『犬の悩み』を抱えている場合は話は別です。
何故ならそれはお互いが不幸になるきっかけになるからです。
小さな事ならまだしも精神的ストレスが溜まり、ノイローゼ気味になったりでもしたら、悲しい結末を迎える可能性もゼロでは無くなるんです。
どうか悩みを抱えないで下さい。
お近くの専門家にご相談下さい。
何のためにその子を迎えたのか考えて下さい。
犬を人間扱いせず、犬として本質を尊重してあげる事で解決する事が多いのです。
そして犬と共に歩んで下さいね♪
わんぱぱ《今日の格言》
本質欲求を満たしてあげて下さい。要求は満たす必要がありません発散、ルール、Love。どれ一つ欠けてもいけません。穏やかに毅然とした振舞いが犬から尊敬を得ます。