犬の家畜化の次に起こったこと
野生のオオカミは、どのようにして「人間の最良の友=犬」になったのかという疑問は、現在も数多くの研究が行われており、いくつもの可能性が発表されています。
この度、イギリスのダラム大学の研究者を筆頭にした数カ国の考古学や生物学のチームによる、「ヒトと犬の歴史についての研究」が発表されました。
研究者によると、犬の家畜化は2万3千年以上前にシベリア周辺で始まった可能性が高いとされています。
家畜化は、オオカミが人間の食べ残した肉に集まり、オオカミが攻撃的でない場合に、人間がそれを許可したことから始まった可能性が述べられています。
オオカミが家畜化してイヌとなった後、人間は、現在のロシアとアラスカを結ぶ陸路を超えて南北アメリカへと移動したと考えられています。
これは、各地の考古学的な証拠によって裏付けられています。(この陸路は現在はもう存在しません)
犬の家畜化の次に起こったヒトの集団移動、これが犬とどのように関連しているのでしょうか。
「犬の家畜化についての新理論、決め手になったのは食料の肉」
https://wanchan.jp/column/detail/24928
犬の移動を裏付けるためのDNA分析
研究者たちは、各地で発見された考古学的な証拠に、人間と犬に共通する同様のパターンがあることに気づきました。
研究チームは、主にアメリカ大陸近辺の200頭の古代犬のゲノムを分析した結果、これらの犬に共通する特定の遺伝子があることを発見しました。
そして、この遺伝子を持つ犬たちは、約1万5千年前にアメリカ大陸で4つの地域グループに分散しました。
研究チームは、この犬の分散が約2万1千年前に始まった北シベリアからアメリカ大陸へのヒトの移動パターンと一致することを発見しました。
さらに詳しく犬のゲノム分析をした結果、犬たちは全て、約2万3千年前の同じシベリア犬の子孫であることも判りました。
ヒトと犬の移動パターンとタイムラインから推測して、人間は約1万5千年前に、犬と共にアメリカ大陸に急速に拡散したと結論付けられました。
ヒトのDNA分析から推測される犬の歴史
犬だけでなく古代のヒトの遺伝的な証拠を辿ると、北シベリアから南下して来た人間たちは、アメリカ大陸に入る以前に、ネイティブアメリカンの祖先と混じり合っていることが判りました。
それはつまり、2つの違う土地のヒト同士が情報を交換し、人間の行き来が有り、おそらく家畜としての犬のやり取りがあったことが推測されます。
アメリカ大陸にやって来た人間は、高度な狩猟技術や石器を作る知識や技術を持っていたことが考古学によって知られているそうです。
この時に同行して来た犬たちは、完全に彼らの文化の一部であったのかもしれないと研究者は述べています。
この研究は、人間と犬の関係がどのように始まったのか、それがどのように世界の他の地域にも分散して行ったのかを明らかにしています。
北シベリアの気候の厳しい土地から、人間たちは狩猟の相棒として犬を従えてアメリカ大陸にたどり着き、先住民と犬を含めた交流をしながら、新しい土地に拡散して行ったということでしょう。
研究チームは、より古い犬の化石を分析して、さらに研究を進めることを計画しているそうです。
アメリカ大陸以外の土地の犬の歴史も明らかになっていくといいですね。
まとめ
シベリアからアメリカ大陸にかけて発見された古代の犬のゲノム分析をした結果、時間の流れに沿って、これらの犬が移動した軌跡が人間のものと一致していたという研究結果をご紹介しました。
人間の行く所には常に犬が共にいて、人間と共に新しい土地へと拡がって行ったのだと思うと、改めて犬と人間の結びつきの歴史に感嘆する思いです。
また、考古学とDNA分析を結びつけることで、人類とその親友の歴史をさらに深く知ることができるというのも魅力的で興味深いですね。
《参考URL》
https://www.pnas.org/content/118/6/e2010083118