共同で子育てをするイヌ科の動物
オオカミやジャッカルなど群れで暮らすイヌ科の野生動物は、血縁関係にあるメス同士が互いに子育てに協力し合う行動が見られるそうです。
では路上で暮らしている野良犬にも同じような共同で子育てをする行動があるのでしょうか。インドで長年に渡って路上の犬の観察研究をしている動物学の研究者が、同じ犬の群れを4年間観察して子育て行動についてリサーチした結果を発表しました。
上記で野良犬という言葉を使っていますが、インドでは路上で暮らしている犬たちは人間から食べ物を与えられ、可愛がられて平和に共存しています。
ですから日本語で野良犬という言葉で受けるイメージとはだいぶ違っていて、どちらかと言うと地域犬という性格が強いようです。便宜上「野良犬」という表現をしますが、この点をお含み置きください。
路上で暮らす犬たちの子育て
子を産んだ遺伝学的な母親以外が子育てをすることをアロ・マターナル・ケア=代理子育てと言うそうです。動物の代理子育てでは授乳の他に子供たちを一箇所に集めて複数の成体の動物が見守ったり、体温を保つためにくっつけ合ったり、必要があれば運搬したりすることを含みます。
研究者は路上で暮らす犬たちにこのような行動が見られるかどうかを確認するため、2015年3月〜2019年5月の期間19匹の成犬からなる8つのグループの子育て行動(子犬が生まれた時の生後13週までの行動)を観察しました。19匹の犬は母系の親戚で、母方の祖母、叔母、娘である姉妹が含まれます。
子犬が産まれて最初の2週間は母犬は自分の子犬と最も多くの時間を過ごし、この期間のほぼ全てを自分だけで授乳していました。母犬は子犬が1週齢の時点で食べ物を得るために出かけ始め、3週齢でより頻繁に出かけるようになりました。その間は母犬の親や姉妹が子犬を見ていました。
子犬の生後3週目から母犬が離乳するのが観察され、他の親戚のメスが授乳したり食べ物を吐き戻して与える姿が見られようになりました。このように路上で暮らす犬たちにも野生動物と同じような代理子育ての行動が見られることが示されました。
子犬への接触、授乳、吐き戻しによる給餌、保護など、全ての子育て行動は代理母よりも実の母犬で多く見られました。面白いことに実の母犬では子犬が成長するにつれて子育て行動は減少し、反対にその時期から祖母世代の代理母による子育て行動が6週齢になるまで増加しました。
血縁関係にある犬たちが助け合う理由
路上で暮らす犬たちが血縁関係にあるメス同士で協力し合って子育てをする理由について、研究者は次のような考察をしています。
- 子犬の死亡率が高いため母乳が余りがちになり、お互いに補い合い易い
- 子犬の生存率向上、免疫物質の交換など生き残り戦略として有効
- 協力し合うことで群れ内の良好な関係を保つことができる
動物ですから全ての行動は生き残るため、子孫を残すための戦略なのですが、人間の家族との共通点がたくさん伺えるところが興味深いですね。
今回のリサーチはサンプル数が少ないので、生きる環境が違う犬たちではどうなのかなど、さらに調査が必要だと研究者は述べています。
まとめ
インドの路上で暮らしている犬たちが、母犬の留守中に親戚のメス犬が子犬を集めて子守りをしたり授乳をしたりと、共同で子育てをする行動が見られたというリサーチ結果をご紹介しました。
インドなどの野良犬研究では、私たちが知っている家庭犬では見られない犬の行動が観察されます。そのような行動に犬の本来の姿が伺え愛犬との関係の見直しにつながることもあります。
野良犬と聞いて良くない印象だけでなく、ちょっと興味を持っていただけたら幸いです。
《参考URL》
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0168159120302690