犬と犬以外の家畜動物の人間との関わり方
一般に家庭犬として飼育されている犬は、自分の世話をしてくれる飼い主を他の人間と識別することができ、他の人よりも飼い主の側にいることを好みます。では他の家畜哺乳類を犬と同じように人間の家庭で飼育した場合、彼らも犬と同じような行動を見せるでしょうか?
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学の研究チームが、犬のようにペットとして飼育されているブタとペットの犬の行動を比較するリサーチを行いました。ブタは犬と同様に飼い主との親密な接近を好むのかなど、ブタと犬が参加した実験が行われました。
ブタと犬が参加した実験
実験に参加するブタと犬は一般から募集されました。ブタが9頭と犬が12頭で、全てがペットとして飼われている個体でした。ブタは4ヶ月齢前後の子ブタたちで、犬は3〜4歳の若い犬たちでした。種の違い以外の条件をできるだけ近いものにするために、ブタも犬も社会化の経験が似ているものが選ばれました。
実験は2パターンが実施されました。どちらのパターンも動物たちにとって馴染みのない初めての場所で同じ部屋を使って行われ、実験中の様子を録画して分析しました。
パターン1は部屋の床の上に飼い主と見知らぬ人が2メートルの距離をおいて胡座座りをしているところにブタまたは犬を招き入れて5分間自由に過ごします。パターン2は床の上に飼い主だけが胡座座りをして、2メートルの距離をおいていつも遊んでいるオモチャを置き、ブタまたは犬を招き入れて5分間自由に過ごします。
上記のように「未知の場所で、よく知っている飼い主、未知の人、よく知っているオモチャ(物体)」が存在しているという状況で、ブタと犬が何に近づいていく行動を取ったのかが観察分析されました。
ブタと犬の共通点と相違点
録画された映像を分析すると、ブタも犬も知らない人や馴染みのオモチャよりも飼い主の側に来ることを好むことが分かりました。これは容易に想像できる結果ですね。
しかし、飼い主と知らない人がいる場合、犬は飼い主寄りではあるものの両方の人間への接近を好んだのに対し、ブタは飼い主寄りではあるものの両方の人間から離れて過ごす時間が長くなりました。
この違いは動物の種固有の要因によるという可能性があります。一方で社会化の経験が似ている個体を選んだとは言っても、一般的に犬の方が外に出て見知らぬ人と接触する機会が多いと考えられるため、経験の差が相違点を生んだ可能性もあります。
ペットの子ブタは家庭犬と同じように飼い主に対して接近を好むことが判りましたが、生後8週齢までの社会化が、人間に対する全般的な好みを促進するかどうかはさらに調査が必要だと研究者は述べています。さらに上記のことに加えて、比較行動学の研究にブタを参加させる可能性を見いだせたことについても有益であったとしています。
ペットのブタの飼い主や知らない人に対する行動について観察した研究はこれが初めてで、今回のリサーチ結果は家畜のブタの福祉や社会化に役立つ可能性もあるということです。
まとめ
ペットとして飼育されている子ブタと若い犬が、飼い主や見知らぬ人に対してどのような接近行動を取るか比較した実験とリサーチ結果をご紹介しました。
ブタも犬も飼い主の側に来ることを好むというのは「なるほど、そうだろうな」と思いますが、見知らぬ人がいると犬はどちらにも近付こうとするのに、ブタはどちらからも距離を取ろうとするという違いは興味深いですね。少ないサンプル数とはいえ、犬と人間の距離の近さが表れているように思います。
このような研究が進むことで、人間とともに生きる動物の福祉がそれぞれの種に適切な方法で向上していく助けになればいいなと思います。
《参考URL》
https://doi.org/10.1038/s41598-020-77643-5