犬は『見慣れない生き物』を見た時に視線をどこに向ける?【研究結果】

犬は『見慣れない生き物』を見た時に視線をどこに向ける?【研究結果】

犬の日常生活では見ないような生き物を見た時、彼らの視線はどんな風に動いてどこを見るのでしょうか?これをリサーチした結果をご紹介します。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

生き物の画像を見た時の犬の視線を追跡

PC画面を見る犬たち

皆さんの愛犬は見慣れない生き物を目にした時にどんな反応を示しますか?マジマジと凝視するでしょうか?それとも目をそらすでしょうか?凝視する時にはその生き物のどこを見ているのでしょうか?

自分とは違う動物に出会った時に、その動物のどこを見て危険を察知するかは野生動物にとっては生死にかかわることであり、本能として持っている能力だと考えられます。また一方で、それまでの経験(その動物を見たことがあるか、その動物についてどのくらい知っているかなど)によって、自分とは違う動物に出会った時にその動物のどこを見るかが変わってくるという研究結果もあります。

フィンランドのヘルシンキ大学などの研究者が、犬に犬と人、野生動物といったいろいろな生き物の画像を見せて、その時の視線の動きを赤外線視線トラッカーで追跡するという実験を行いました。

犬の視線はどのように動いて何を見ていたのでしょうか?

生活環境の違う犬たちで反応を比較

ホームオフィスに座る犬と男性

実験に参加したのは個人所有の家庭犬16匹(9犬種と2匹のミックス犬)と、ヘルシンキ大学の研究施設で飼育されている8匹の犬(全てビーグル)でした。

家庭犬は庭に出たり1日に何回も散歩に出たりする生活環境の中で、猫や鳥など他の種の動物を目にする機会を多く持っています。また当然ながら常に人間の家族と交流していました。

研究施設の犬は大学内の犬舎で集団生活をしています。散歩はしておらず、1日1回2時間屋外の運動エリアに連れ出されます。一緒に生活している犬たちとは顔を合わせますが、他の犬種の犬や他の動物を見る機会はほとんどありません。人間との交流は世話をする係の人と研究者に限定されています。

今回の実験では、家庭犬は社会性に富んでいる生活を送っている犬の例として、研究施設の犬は社会経験に乏しい犬の例として考えられました。

犬たちが見せられた画像には3つのカテゴリーがありました。「自然の風景の中に単一の人間または動物が居る」「単一の人間または動物の全身画像」「人間または動物のペアの全身画像」です。

動物の画像には犬以外にも、キリンやパンダなど犬が普段見ることのない目新しいものも含まれています。実験の予備段階として全ての犬は、動かずに台に顎をのせて過ごすことを報酬ベースの方法でトレーニングされました。視線追跡システムは赤外線を使って犬の目の動きを追い、体に器具などを装着する必要はありません。

犬が画像を見た時の行動は社会性の表れかも

ケージの中のビーグル

犬たちが画像を見た時の行動は次のようなものでした。

  • ①風景の中に生き物がいる画像では、背景の領域よりも生き物を長い時間見た
  • ②生き物の体の領域よりも頭部を長く見た
  • ③どちらのグループの犬も、人間や犬よりも見慣れない野生動物の頭部を長い時間見た
  • ④単一の動物または人間の全身画像では、家庭犬ははっきりと頭部に視線を向けた
  • ⑤ペアの動物または人間の全身画像では、家庭犬は頭部よりも体に視線を多く向けた
  • ⑥3単一でもペアの全身画像でも、研究施設の犬は頭と体の領域を見ている時間は大きく変わらなかった

頭部つまり顔は、その動物の社会的な情報が集まっている領域(表情や視線など)で、①~③の結果は犬がこの領域を長く見ることを示しており、顔が社会的に重要な部位であるためにそこを長く見るという考えと一致しています。これは、これまでにサルやヒトなど霊長類などで報告されている研究結果と同じです。

野生動物の種の違いによって犬がその画像のどこを見る時間が長いかに大きな違いはありませんでしたが、家庭犬では④と⑤の結果に示されたように、画像中の動物が単独なのかペアなのかによって頭部と体のどちらを見るかに違いが見られました。しかし研究施設の犬

では、結果⑥の通り、その2つに明らかな差は見られませんでした。 社会的に豊かで刺激の多い家庭環境でさまざまな経験をしている家庭犬は、より制限された環境の犬舎に住む犬より、動物同士の社会的関係性を目にする機会が多くあり、画像中の動物は中立的な関係性を示していたものであったものの、動物同士の関係性を示すことがある画像中の動物の体(位置関係やボディランゲージなど)に目がいったのはないか、と研究者らは推測しています。

まとめ

見上げるビーグルの目

違う環境で暮らしている犬たちに、生き物の画像を見せた時に彼らの視線がどのように動くかを調査した実験をご紹介しました。

犬は人間と同じように社会的な情報が多く集まる顔を長く見つめること、目新しい生き物には視線が長く留まることなどは、なるほどそうだろうなと感じられます。

また今回の実験では、風景の中に小さく動物がいる場合には、動物の全身が大きく映った画像に比べて犬が動物を見る時間が短かったそうですが、これは画像中の動物が画像全体に対して小さかったことやカラー画像であったことから、犬の視覚的特徴に関係しているかもしれないと研究者らは考えているそうです。

また社会的な経験の違いが「見る」という行動に違いを生むことも心に留めておきたい点です。何かを見るというのは、それに慣れる、目新しさがなくなるということである一方、それについて多くを知る、見て学べることが多くなる、ということにもなると考えられます。

犬にとっていろいろな種類の刺激を見ることが社会化において重要であることが改めて分かる結果と言えると思います。

《紹介した論文》
Törnqvist, H., Somppi, S., Kujala, M. V., & Vainio, O. (2020). Observing animals and humans: dogs target their gaze to the biological information in natural scenes. PeerJ, 8, e10341.
https://doi.org/10.7717/peerj.10341

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