ペットと飼い主が同じ病気にかかるリスクについての研究
ペットと飼い主が同じ病気にかかるリスクや関連についての研究結果が発表されました。この研究はスウェーデンのウプサラ大学や他の3つの大学の研究者らによって実施されたもので、犬とその飼い主、猫とその飼い主について、糖尿病の発症率に差があるかどうかが分析されました。
この研究でいう糖尿病とは、飼い主については2型糖尿病のみ、犬と猫については糖尿病という診断基準を満たした症例のことです。2型糖尿病とは人間で最も一般的なタイプの糖尿病で、生活習慣病の一つであり、40歳を過ぎるとそのリスクが高まります。原因は食生活や運動などの生活習慣や肥満であることの他に遺伝による体質も考えられています。
また、この研究では調査の対象となっていない1型糖尿病は、遺伝的な体質や何らかの原因によって膵臓が損傷されてインスリンが十分に作れなくなる糖尿病です。生活習慣は関係がありません。
犬と飼い主、猫と飼い主、糖尿病発症リスクは共通する?
この研究では、犬と猫の情報についてはスウェーデンで最大のペット保険会社のデータを用い、その飼い主についての情報は、全国民に与えられている個人番号を用いて政府機関である国民健康福祉委員会のデータから匿名で集められました。そして、2007年1月から2012年12月の6年間のペットの飼い主の糖尿病発症率と、その人たちが飼っている犬と猫の糖尿病の発症率が分析されました。
犬については約20万例、猫については約12万4千例の飼い主とペットの組み合わせが調査対象となりました。これには、同じ犬について「お父さんと犬」「お母さんと犬」などの複数の組み合わせが含まれます。また、調査対象は、調査開始時に2型糖尿病のリスクが高まる40代前半以上の年齢に達している飼い主のみとしました。
さて分析の結果ですが、飼っている犬が糖尿病を患っている場合に飼い主が2型糖尿病を発症した確率は、犬が糖尿病ではない場合に比べて高いことが分かりました。(ハザード比1.38)。両者の差は、糖尿病の発症率に影響を与える可能性のある要因(飼い主の年齢や教育歴、犬の年齢や性別、品種など)を考慮して調整した数値においても認められました。
猫の場合は、そのような差は検出されませんでした。
犬と飼い主はなぜ糖尿病のリスクを共有している?
なぜ犬が糖尿病だと飼い主も糖尿病のリスクが高いのでしょうか?糖尿病は感染症ではありませんから、もちろん犬から飼い主に伝染するというわけではありません。
この論文の研究者らは、犬と飼い主の間で見られる糖尿病発症の関連性は、両者に共通する食習慣、肥満、身体活動パターンによって説明できる可能性が高いとしています。犬の食事や間食、運動についての習慣は全て飼い主に依存しているため、過食や運動不足の傾向が犬と飼い主に共通したものとなり、糖尿病のリスクは犬でも人でも高くなるのだろうということです。
犬は食事も運動も飼い主が与えるものが全てなので「犬が糖尿病を発症する生活パターンを与えている飼い主は、自分自身も糖尿病になるリスクが高い」と言うことですね。
猫において、飼い主との間で糖尿病リスクの関連性が認められなかったのは、猫は身体活動のパターンを自分で決める傾向が強いから、だと考えられています。
まとめ
犬とその飼い主、猫とその飼い主それぞれの糖尿病発症率を6年間の調査期間で分析した結果、糖尿病の犬を飼っている飼い主は、自身の2型糖尿病発症のリスクが糖尿病ではない犬を飼っている人よりも高かった、という研究結果をご紹介しました。
犬の食事について内容や食べ方に注意を払うと自分自身の食生活も何となく気になり始めたという方は少なくないでしょう。また犬と暮らすことは毎日定期的に軽い運動をする絶好のチャンスです。こうして考えると、犬と飼い主の生活や健康は良くも悪くも鏡のような部分があると言えますね。
糖尿病に限定せず、愛犬と自分の生活を振り返ってみるきっかけになりそうな研究結果でした。
《紹介した論文》
Delicano RA, Hammar U, Egenvall A, Westgarth C, Mubanga M, Byberg L, Fall T, Kennedy B. The shared risk of diabetes between dog and cat owners and their pets: register based cohort study. BMJ. 2020 Dec 10;371:m4337.
https://doi.org/10.1136/bmj.m4337
過去に、体重過多について犬と飼い主の間に関連性が見られたという研究報告はありますが、この論文はある病気について犬や猫と飼い主における発症率の関連を調べた初めての研究となるそうです。なぜ犬が糖尿病だと飼い主も2型糖尿病になりやすいかについては、本記事で紹介されている犬の食習慣や運動習慣は飼い主に依存しているから、という理由の他に、飼い主が犬に与える生活環境や飼い主が与える食事によって変化する犬の腸内細菌叢による影響や、犬とその飼い主は騒音や空気中の汚染物質、内分泌かく乱物質へ同じように暴露されているから、などを考えられる可能性として挙げています。
飼い主ではなく犬の糖尿病の発症率については、飼い主が2型糖尿病であるかないかによって差は見られたものの、糖尿病の発症に影響する要因を考慮して調整すると有意差が認められるとは言えなかったそうです。
この論文では、飼い主の食生活を調査できていないこと、スウェーデンではアメリカやイギリスと違って病気になっていないのに雌犬を避妊することが一般的ではなく、発情が関係する糖尿病が含まれている可能性があることなどいくつかの問題点もあると研究者らは述べていますが、人の健康は動物の健康や環境とも関連しているというワンヘルスの考え方に基づいた、ペットと飼い主の糖尿病発症の関連性についての初めての研究だそうです。
ちなみに、犬では人間の1型糖尿病に似た糖尿病が、猫では人間の2型糖尿病に似た糖尿病が多く見られます。