犬の視線と予測能力についての研究
物の動きを目で追うこと、次にどんなことが起きるだろうかと予測することは人間を含めた全ての生き物にとって生きるための重要なスキルです。
では自然界には存在しない、目の前のスクリーンに映し出されたフリスビーが自然ではあり得ない動きを見せた時、犬はその動きを目で追って最終的にフリスビーが行き着く地点を予想することができるでしょうか?
このような課題を、犬の認知に関する研究としてオーストリアのウィーン獣医大学の研究チームが実験を行いその結果を発表しました。
犬にビデオを見せて視線を観察する実験
実験に参加したのは14匹の家庭犬で、ボーダーコリー10匹、オーストラリアンシェパード1匹、ミックス3匹と、牧畜犬がメインでした。
実験は2種類行われ、どちらも白い壁を背景にして2人の人物が向き合って立ち、フリスビーを投げ合うビデオを犬に見せて、犬の視線の動きを精密なカメラで撮影し観察分析するというものです。
実験1のビデオではフリスビーが10回投げられ、そのうち4回にわたって受け手の動きをフリスビーを受ける前にフリーズして静止させました。画面上の右側の人物が受ける時に2回、左側の人物が受ける時に2回静止しました。
フリスビーそのものの動きは、ほとんどの犬が目を水平に動かして視線で追っていることが確認されました。
受け手の動きがビデオ上で静止した時、犬はフリスビーが受け手のところに到着していなくても受け手に視線を移しました。また投げた回数が増えるにつれ、受け手に視線を送るスピードが速くなりました。セッション後半になると受けての動きが静止しているかどうかに関わらず、犬は同じくらいのスピードで受け手の方に視線を動かしました。
実験2では、同じビデオを犬に見せ実験1と同じように途中で4回の静止を挟みました。今回はビデオ全体を静止し、さらにその時点でビデオを逆方向に再生しました。つまりフリスビーが空中で静止した後に投げた人のところに逆戻りするという、自然の法則ではあり得ない動きを見せたわけです。
実験2の中で初めてビデオが静止した時には、多くの犬がフリスビーの受け手の方に視線を移していました。しかしフリスビーが投げ手のところに戻ったのを見た後は、次の静止ではフリスビーそのものに視線を向けました。
実験結果から読み取れる犬の認知能力
実験の結果から、たとえビデオの中であっても犬は物体の動きを正確に追跡したことが示されました。
実験1で経験が増えるにつれてフリスビーの到着地点を見るスピードが速くなったこと、また実験2でビデオが静止した時に現実の世界では当然到着するであろう地点を素早く見る犬がいたことから、犬は単に動く物体を追いかけているのではなく、その動きを予測していることも示されました。
また実験2でビデオを逆戻し再生してフリスビーが投げてのところに戻るという不自然な動きをした場合にも、物体の動きを正確に目で追うこともできました。
これらの結果は今後の犬の認知研究に役立つと考えられます。
まとめ
犬がスクリーンの映像上の物体の動きを視線で正確に追跡できること、物体の動きを予測して視線を動かせること、物体が予測に反した動きをした時にも経験から学んで次の機会に生かすことができるという実験の結果をご紹介しました。
ボールやフリスビーを投げて犬と遊んでいると、これらを犬が行なっていることは何となく感じられ、ごく普通のこととして受け止めている場合が多いかと思います。
しかしこうして実際にデータを取って確認することで、犬の認知の範囲を正確に知ることができるのは一般の飼い主にとっても興味深いことだと思います。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-020-72506-5