岐阜大学が新しい遺伝病を発見
岐阜大学の動物病院は、近年ジャックラッセルテリアの消化管腫瘍性ポリープの症例が増加している事に気付きました。そして2015年に研究に着手し、その成果を2020年5月23日に英国の国際誌Carcinogenesis誌オンライン版で発表しました。
https://academic.oup.com/carcin/advance-article-abstract/doi/10.1093/carcin/bgaa045/584346
岐阜大学からのプレスリリースによると、この研究発表のポイントは次の5点です。
- 新たな犬の遺伝病「遺伝性消化管ポリポーシス」を発見した
- 本疾患は胃および大腸における腫瘍性ポリープ(腺腫腺癌)の発生を特徴とする
- 本疾患はAPC遺伝子の生殖細胞系列変異を原因とする優勢遺伝病である
- 本疾患はヒトの家族性大腸腺腫症の類似疾患と考えられる
- 今後、遺伝子検査による確定診断や繁殖段階での発生制御が可能になる
遺伝病に関する基礎知識
この研究により今後何が期待できるのかについて紹介する前に、遺伝病について簡単に説明しておきましょう。
遺伝とは、繁殖を通して親から子へ形質が伝わる事です。人や犬の体を作っている細胞には核があり、核の中には染色体があります。染色体は母親と父親から1本ずつ受け継いだ2本で1組の構造をしていて、遺伝情報を発現したり伝達したりする役割を担っています。
ちなみに、人には23組46本の染色体が、犬には39組78本の染色体があります。
染色体は4種類の塩基が並んだDNAから成っていて、この塩基の並び順が遺伝子情報になっています。人や動物のDNAには、2万種以上の遺伝子があり、それぞれの遺伝子がタンパク質を作る設計図のような役割をしています。
しかし、遺伝子には時々変異と言って、DNAの配列異常が発生します。タンパク質の設計図が間違っている訳ですから、この遺伝子の変異が原因で様々な異常が起こります。これが遺伝病です。1つの遺伝子変異が原因で起こる病気もあれば、複数の遺伝子の変異が組み合わさることで起こる病気や、染色体の異常が原因で起こるものなどがあります。
遺伝性消化管ポリポーシスの発見で今後期待できる事
岐阜大学が発見したジャックラッセルテリアにのみ発症する遺伝性消化管ポリポーシスという病気は、APC遺伝子という特定の1つの遺伝子の変異が原因で起こる事が分かりました。そのため、犬の遺伝子検査でAPC遺伝子の状態を確認する事で、その犬がこの遺伝病を発症しているのかどうかを確定診断する事ができます。
つまり、遺伝子検査により遺伝性消化管ポリポーシスなのか、よく似ている一般的な犬にみられる非遺伝性の消化管腫瘍なのかが分かるので、獣医師は適切な治療法を選択できるようになるのです。
また、繁殖時に母犬と父犬の遺伝子検査をする事で、APC遺伝子変異を持っていない親を選ぶ事ができ、遺伝病の発症を抑制できるようになります。こうする事で、ジャックラッセルテリアの遺伝性消化管ポリポーシスを減少させ、最終的には撲滅を目指すこともできるのです。
飼い主さんは愛犬の遺伝病を意識しておくべき
犬の場合、基本的には同じ犬種同士を交配するので、遺伝病は犬種を超える事が少なくなり、特定の犬種に好発する病気という形で現れる事が多いです。そのため、愛犬の健康管理を行うためには、ご自身の愛犬の犬種が好発する病気を知っておく事が大切です。
Mix犬の場合は、どの品種が掛け合わされているのかを知っておき、その犬種が好発する病気に気をつけると良いでしょう。
遺伝病の場合、発症の原因が遺伝的なものなので予防が難しい事が多いですが、何に気をつけるべきなのか、定期的な健康診断で受けておくべき検査は何なのかといったことを決める際の参考になるはずです。
また、純血種を迎えたい飼い主さんは、繁殖の段階できちんと遺伝病を意識して対処しているブリーダーを選ぶ事も大切です。実際にブリーダーを訪ね、母犬や子犬たち、そして彼らの生活環境を確かめた上で、心配なことは遠慮せずにブリーダーに質問しましょう。
実際に、愛犬を入手したブリーダーとは長いお付き合いになりますので、後から確認してお互いに嫌な思いをするのではなく、最初によく話をして、疑問点や不安点をなくした状態でお付き合いできる所を選ぶ事が、後悔しないためのポイントです。
まとめ
どんな形であれ、縁があって一緒に暮らし始めた愛犬です。遺伝病を発症したからといって、それを理由に愛犬を手放す飼い主さんはいないと思います。しかし、病気の種類によっては医療費が高額になり、思うような治療を受けさせてあげられない場合もあるでしょう。
ですから、これから犬と一緒の暮らしを始めようとパートナー犬を探しておられる方は、ぜひ犬種に特有な遺伝病のことを事前に調べておきましょう。純血種を迎えたい方は、特に必要な事だと考えます。
決して、リスクがある犬種とは暮らさないことをおすすめしている訳ではありません。事前にリスクを知った上で、愛犬とより快適な暮らしを送れるように工夫していきましょう。