保護団体Dogs Trustによるプロジェクト「ジェネレーションパップ」
イギリスで最大規模の犬保護団体Dogs Trustは犬の保護譲渡活動だけでなく、犬の健康/行動/福祉に関する研究やリサーチも行っています。それらリサーチの1つがブリストル大学獣医学部と共同で実施された、犬の断尾についてのものです。
犬の尻尾を短く切る断尾(ドッキング)はイギリスでは厳しく規制されています。尻尾を切ることが許されているのは、警察などの法執行機関、軍隊、緊急救助など尻尾が長いことで怪我をするおそれがある場合に限られます。また処置をすることができるのは獣医師に限られます。
このリサーチでは断尾をした犬に対する飼い主の考えや断尾に関するデータの統計が示されています。
子犬の飼い主へのアンケート調査
リサーチは16週齢未満の子犬の飼い主2,922人を対象にオンラインを使って実施されました。全回答者のうち、断尾した尻尾を持つ子犬は160匹で全体の5.5%でした。断尾された犬のうち141匹88.1%が本来の尻尾の3分の1〜半分の長さになっていました。
19匹11.9%は本来の長さの3分の1に満たない非常に短い尻尾になっていました。断尾された犬の飼い主のうち「断尾された犬が欲しかった」人は36.9%、「断尾した犬が欲しかったわけではない」という人は35%、「断尾されていると知らなかった又は気にしていなかった」という人は28.1%でした。
子犬を購入したり保護施設から譲渡された時にすでに断尾された状態で選択の余地がなかったり、元々そういう短い尻尾なのだと思っていたということでしょう。
断尾された犬の飼い主のうち「将来、働く犬として訓練しようと考えている」という人は52名32.5%でした。具体的には全員がガンドッグとしての訓練を考えているということでした。この32.5%のうち10名19.2%は「断尾した犬が欲しかったわけではない」と答えたグループでした。
このリサーチの意味や目指すところは何か?
研究の最終的な目的は必要のない断尾を減らすことです。見た目のためだけの不必要や断尾は動物福祉を損ねるためです。この研究は今後さらに続けられ、断尾が犬の健康や行動に与えた影響なども調査研究していく予定だそうです。断尾が犬に及ぼす影響を多くの人に知ってもらうことで、必要がないのに断尾された犬を欲しいという需要を減らすという狙いです。
まとめ
イギリスで実施された犬の断尾に関するアンケート調査についてご紹介しました。イギリスだけでなくヨーロッパのいくつかの国では見た目のためだけの犬の断尾や断耳が禁止されています。
断尾の元々の目的は作業をする犬の怪我を防止するためだったのですが、現在ではほとんどが見た目のためだけになっており、幼い子犬に本来不要な痛い思いをさせることになっています。国によっては獣医師ではなくブリーダーが尻尾や耳を切ることが一般的なこともあり、この点も動物福祉を大きく損ないます。
日本では断尾や断耳が当たり前に受け入れられている犬種がたくさんあります。「子犬のうちは神経も発達していないからそれほど痛くない」という言葉を見聞きすることも少なくありません。
けれど諸外国で厳しく規制されていることや、耳や尻尾を無麻酔で切って痛くないわけがないことなど、多くの方に落ち着いて考えてみていただきたいと思います。
《参考URL》
https://www.legislation.gov.uk/uksi/2007/1120/schedule/2/made
https://www.researchgate.net/publication/344173343_To_Cut_A_Long_Tail_Short_Owner_Reported_Tail_Docking_in_a_Cohort_of_English_Puppies