家庭内のペットの立場とペット墓地
現代に生きる私たちにとって愛犬や愛猫は家族の一員だというのは一般的な感覚になっています。しかしそれは比較的新しい考え方で、イギリスにおいても19世紀後半あたりから少しずつ定着して来たもののようです。
ペットを人間の家族と同じように扱うことの歴史について、イギリスのニューカッスル大学の動物考古学者が、犬の墓石に刻まれた言葉の変遷を辿ることで調査した結果を発表しました。
研究者はイギリスのニューカッスルとロンドンにある4つのペット墓地にある1881年から1991年までの1169の墓石に関するデータを収集しました。
ペットへの愛情表現が一般的になった背景とペット墓地
イギリスにペットのための墓地が出現したのはビクトリア女王が統治するビクトリア朝時代でした。
この時代にはダーウィンが進化論を説いた『種の起源』が出版されるなど、動物の立場を以前よりも人間に近いものとする意識が生まれたと研究者は述べています。
また産業革命が起こり経済が発展し文化も成熟したおかげで、人々の暮らしや精神にゆとりが生まれたこともペットへの愛情表現が受け入れらるようになった土壌かもしれません。
1881年にはハイドパークにイギリスで最初のペットのための墓地が設けられました。それまでは飼い犬が亡くなった時には、余裕のある層は庭などに埋葬し、そうでない層は川やゴミ捨て場に捨てるのが一般的だったそうです。
ペットの墓石に刻まれた言葉の変遷
研究者は1881年から墓地の埋葬エリアがいっぱいになって新しい受付を終了した1991年までの墓石に刻まれたペットの名前や、亡くなったペットに捧げられた言葉を調査しました。
初期の墓石の言葉はとてもシンプルで、ペットの名前と日付だけというのが一般的でした。1910年以前の墓石でペットを家族の一員と呼んでいたのは3つだけで、これは調査対象の1%未満でした。またペットの名前に家族の姓が付けられていたのは6つだけでした。はっきりと数値には表せないものの、この頃の墓石のほとんどは犬のものでした。
第二次世界大戦後、墓石の言葉に大きな変化が現れ始めました。飼い主は自分自身のことをペットのママやパパと呼び、ペットを「私たちの可愛い天使」など人間の子供のように表現するものが増えました。
戦後は墓石の約20%にペットを家族と表現した言葉が刻まれ、11%がペットの名前に家族の姓を使用しています。また猫のお墓が増えて来たことも特徴の1つでした。
19世紀にはペットの墓石に十字架やユダヤ教のダビデの星のような宗教的シンボルが見られることは滅多にありませんでした。1910年以前に宗教的なシンボルまたは天国という言葉が示されていたのは6つ(約1%)のみでした。キリスト教は伝統的に動物には天国など来世がないと考えて来たので、19世紀の飼い主は天国での再会などに言及することが滅多になかったと思われます。
第二次大戦後は宗教的な言及は104(約20%)に増えています。ペットとの結びつきが強くなるほど、来世での再会を望む気持ちも強くなり、墓石に神の祝福や天国での再会という言葉を刻む人が増えたようです。
まとめ
19世紀末から約100年間のイギリスのペット墓地の墓石に刻まれた言葉から、飼い主とペット(とりわけ犬)との関係がどのように変遷して来たのかを調査した結果をご紹介しました。
日本でもペットのお葬式やお墓は一般的に受け入れられるようになり、宗教的な違いはあれどイギリスの墓石に表れた飼い主の気持ちに共感する人は多いと思います。
現在、アメリカやイギリスのいくつかの地域ではペットと人間が同じお墓に一緒に入ることが法的に認められているそうです。ペットとの心のつながりはますます強くなっていると言えそうですね。
《参考URL》
https://doi.org/10.15184/aqy.2020.191
https://www.sciencemag.org/news/2020/10/dogs-and-cats-became-family-and-got-their-shot-heaven-after-world-war-ii