診断が難しい犬のクッシング症候群
クッシング症候群は内分泌系疾患のひとつです。副腎から分泌されるコルチゾールというホルモンが何らかの原因で過剰になり、様々な症状を引き起こします。
報告の多い症状は、多飲多尿、過度の食欲、膨らんだ腹部、筋力低下、体の左右対称の脱毛、激しいパンティング、気力の低下などがあります。
しかしこれらの症状は他の疾患でも多く見られるものであるためクッシング症候群の診断は簡単ではありません。さらに単一でクッシング症候群を確定する検査がないことも診断を難しくしています。
イギリスの王立獣医科大学では、獣医師によるクッシング症候群の診断をサポートするために、種々の検査の前に患者のクッシング症候群リスクを評価するためのツールを開発しました。
臨床データから割り出したクッシング症候群リスクの予測
王立獣医科大学では、一般の動物病院で診療を受けたコンパニオンアニマルの臨床データをコンピュータに記録して匿名化したものを利用して様々な疾患に関する調査を行うプロジェクトを運営しています。
この度発表されたクッシング症候群診断ツールも、このプロジェクトから作り出されたものです。
使用されたデータはクッシング症候群と診断された398匹の犬と、検査を受けたがクッシング症候群と診断されなかった541匹の犬のものでした。
これらのデータを高度な統計手法で分析して、詳細な問診票形式のツールが作成されました。
クッシング症候群の予測要因で構成されたツール
このツールは犬がクッシング症候群であるかどうか予測する10の要因で構成された問診票です。示された項目に選択形式で回答し、回答ごとに設定されているスコアを足し算していくことで、クッシング症候群である確率を算出します。
項目は次のようなものがあります。
- 性別と避妊去勢の状態
- 年齢
- 犬種(特定の5犬種かそれ以外か)
- 現れている症状
- 尿と血液検査の数値
例えば、避妊手術済みの9歳の雑種メス犬で観察される症状は多飲のみ、尿比重は正常範囲内で血液のALP値が上昇していない場合、スコアを計算するとクッシング症候群の可能性は15%となります。
このようにクッシング症候群が疑われる患者の可能性を査定してから各種検査を行うことで、不必要な検査を減らすことができます。可能性が数値で算出されるため、獣医師の意思決定をサポートするツールになると研究者は述べています。
まとめ
内分泌系疾患のひとつであるクッシング症候群の診断をサポートするためのツールが開発されたという報告をご紹介しました。
治療のためには的確な診断が必要で、そのためには複数の検査が必要になります。しかし検査は動物の負担になることも少なくありませんので、あらかじめ可能性が査定されて不必要な検査を省けるならありがたいことです。
イギリスからの報告ですが、ツールの使用実績が増えて日本や他の国でも利用できるようになっていくと良いですね。
《参考URL》
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jvim.15851
https://www.rvc.ac.uk/Media/Default/VetCompass/Documents/cushings-prediction-tool.pdf