犬はマスクを着けた人を怖がったり警戒するだろうか?
ウイルス対策としてマスクを着用することが広まり、新型コロナウイルス感染症のパンデミック以前にはマスクが一般的でなかった国でも多くの人が日常的にマスクを着けるようになりました。
散歩の時に行き交う人が顔を半分隠していることについて、犬たちは戸惑ったり怖がったりしていないのでしょうか?
コロラド大学の生態学および進化生物学の名誉教授であるマーク・ベコフ博士が、犬のマスクに対する反応についてちょっとした調査を行って考察しています。
ベコフ博士は、コロラド州ボルダーの街をサイクリングしながら、カフェやドッグパークで犬を連れた人に話しかけて、マスクをしている人に犬がどんな反応をするか尋ねたり、マスク(フェイスカバー)を着用しているベコフ博士自身にその犬がどんな反応をしたかなどを観察して情報を集めました。
マスクを着けた人が犬にとって知っている人かどうかがポイント
ベコフ博士は100人の飼い主と犬から情報を得た結果をまとめました。
マスクをした人を見た時に犬がなんらかの反応をしたと答えた人は74人でした。反応は非常にわずかなものから明らかな変化まで様々で「マスクをした人に近づくのをためらう」「相手をいつもよりもじっと見つめて観察する」「周囲の空気の匂いを嗅ぐ」などが挙げられました。
17人は犬の反応に気づかなかったと答え、9人は分からないと答えました。
分からないと答えた人以外の91人に、マスクを着けた人が知り合いか知らない人かで犬の反応が違っていたか尋ねたところ、91人中77人が「相手が知っている人だというのは犬にとって重要なポイントに見える」と答えたそうです。
相手が知っている人だと分かるとマスクを着けていてもいつもと変わらない反応をする犬が大多数でした。最初は警戒した様子でも相手の声を聞いて知っている人だと分かったり、近くに来て匂いを嗅ぐと普段の打ち解けた反応になったということです。
声も聞かず匂いを嗅ぐには遠い距離でも、歩き方によって相手が知っている人だと認識しているようだと答える飼い主さんもいました。
また、ベコフ博士が別に行った実験でも、「知らない人がマスクをしていると警戒する」という犬の飼い主さんに、マスク無しの知らない人にはどんな反応をするか聞いてみると、全員が「マスク無しでも知らない人には同じように警戒する」という回答だったそうです。
結局のところ、マスクの有る無しは犬の対人間の反応に影響していないのでは?という考察に行き着いた、ということです。
過去の別の研究からも考察してみると
犬は人間の顔の中でも目の領域を良く見ていると、これまでも複数の研究で示されています。
自身の経験と周囲の反応から、一般的に犬はマスクを着けている人に対しても特に変化を見せないことを体感しているあるドッグトレーナーも、「顔が隠されていなくても、犬は人間の顔を見る時に目の領域を最も多く見ている」ことを示す研究の一つとして、2017年にハンガリー科学アカデミーの研究者が犬に視線追跡カメラを装着して行ったリサーチを挙げています。
つまりマスクをしていても目の周辺が見えていれば、犬にとっては大きな違いはないのかもしれません。
また犬たちは人間社会の中で生活しているため、人間が帽子、サングラス、マフラーなど様々な種類のアクセサリーを身につけることを見慣れています。これは「見慣れない物、新しい物も怖くない」と学習する犬の社会化の一環でもある、とそのトレーナーは言っています。人間の外観について社会化ができている犬にとってはマスクも単にそのバリエーションの1つに過ぎないのかもしれませんね。
もちろん犬によって個体差があることは考慮しなくてはなりません。見慣れないものに対して極端な反応をする犬には適切な対応が必要です。
そのドッグトレーナーは街中など騒音の多い環境で散歩をする場合、マスクのせいで飼い主の声が犬に届きにくい場合があることを指摘しています。
このような場合、犬にコマンドを出す時ハンドサインをセットにしておくことが推奨されています。犬はもともと、声によるコマンドよりもハンドサインによく反応することが知られていますし、コマンドとしてハンドサインを使えるようにしておくことは、犬が年をとって耳が遠くなった時のコミュニケーションにも役立ちます。
まとめ
「犬はマスクを着けた人を警戒したり気にしたりするだろうか?」という疑問について、コロラド大学の教授が独自に行った簡単な調査や複数のトレーナーの経験、過去の別の研究結果などから、マスクは犬にとってたいした問題ではなさそうだと考えられている、とご紹介しました。マスクをした人を警戒する犬は、もともと見知らぬ人や見慣れない物に対して強い警戒心を抱く犬であることが多い、ということです。
今のところ、マスクに対する犬の反応を調査した正式な研究というのは無いそうですが、身近なものについての犬の反応を観察したり考察してみると、犬のコミュニケーション能力の高さを改めて思い知りますね。
《参考URL》
https://fearfreehappyhomes.com/how-dogs-react-to-masks/
https://www.psychologytoday.com/us/blog/animal-emotions/202010/dogs-vs-masked-faces-what-are-they-thinking-and-feeling
《参考記事》
上記の参考記事中にあるリンクでも紹介されていますが、マスクを着用した人を警戒する犬に対しては、徐々に慣れさせた後、マスクを良いことと結びつけるトレーニングを行うことができます。まずは、マスクを犬の食器のそばにおいたり壁に貼ったりしておいて犬に食事をさせます。それに慣れたら、飼い主さんが片耳のみにマスクをかけたり、おでこやあごなどの隠れても犬が人間の表情を読み取るのに邪魔にならない部位にマスクをつけたりして過ごします。次のステップとして、マスクを口を隠すように着用して犬のおやつを取りに行き犬に与えます。他にも犬と遊ぶ時、一緒にくつろぐ時など、犬が楽しいと感じている時にマスクを着用します。そうして、マスクは新しい生活の一部に過ぎないと犬に理解させることができるでしょう。