短頭種の犬の健康問題についてのリサーチ結果と高まる危機感

短頭種の犬の健康問題についてのリサーチ結果と高まる危機感

パグやブルドッグなどの短頭種の犬の健康上の問題について、近年さらに危機感が高まり様々な研究が発表されています。英国で発表された新しいリサーチ結果をご紹介します。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

マズルの短い犬種で高い健康リスク

伏せの姿勢の黒いパグ

パグやフレンチブルドッグに代表される短頭種の犬の人気は、過去10年ほどの間に劇的に上昇を続け、現在もその人気が翳る気配はありません。

その人気と同時に、短頭種の犬の健康上の問題についても再三取り上げられ問題視されています。

ヨーロッパでは問題視する傾向が特に顕著で、オランダのように獣医師、ブリーダー、犬種クラブ、行政が連携して規制につながった国も出てきています。

イギリスでも大企業や広告業界に対してパグやブルドッグを広告に使うことを止めるよう呼びかける運動が行われたり、消費者(飼い主)向けの啓蒙活動も数多く行われています。

先ごろイギリスの王立獣医科大学から、短頭種の犬と他の犬種を比較した時、短頭種にどのくらい健康上の問題が多く発生しているか具体的な数字を示したリサーチ結果が発表されました。

コンパニオンアニマル獣医療監視システムによる調査

目薬の点眼を受けるフレンチブル

王立獣医科大学ではVeterinary Companion Animal Surveillance System(直訳すると、獣医学的コンパニオンアニマル監視システム)という非営利研究プロジェクトを運営しています。システムはプロジェクトの頭文字を取って、VetCompassという名で呼ばれています。

犬や猫などコンパニオンアニマルに起きる健康問題について調査し、よく見られる病気について重要な危険因子を特定することを目的としています。

調査のための獣医療データは、コンパニオンアニマルが一般の動物病院で診療を受けた際の臨床データがコンピューターに記録されたもので、研究のために匿名化された形式になっています。

このVetCompassによる調査で、イギリスで獣医療の診察を受けた短頭種ではない犬18,079匹と、短頭種の犬4,169匹の全般的な健康状態が詳細に比較分析されました。

その結果は以下の通りです。

1年間に少なくとも1つの疾患と診断されるリスクは、ミックスの犬(先祖の分からない犬や一代ミックス)に比べ短頭種では1.3倍高かった

以下の疾患や状態については、短頭種では以下の倍率で短頭種以外の犬よりも多かった。

  • 角膜潰瘍(角膜の重度の損傷)は8.4倍
  • 心雑音は3.5倍
  • 臍ヘルニア(へその部分の筋膜が閉じておらずお腹の脂肪や腸などの一部が皮下にはみ出ている状態)では3.2倍
  • 指間皮膚炎は1.7倍
  • 皮膚嚢胞は1.5倍
  • 膝蓋骨の脱臼は1.4倍
  • 耳の感染症は1.3倍
  • 肛門嚢閉塞は1.2倍

短頭種に多い健康問題と言えば、マズルの短さのせいで起こる呼吸障害や熱中症のリスクの高さがよく知られていますが、大きくて飛び出した目や上記のような疾患も無視できない大きな問題です。

犬の購入者への呼びかけ、犬種クラブや動物福祉団体との協力

診察中のフレンチブル

研究者は、疾患を引き起こしやすい大きな目やコロンとした体型、そしてマズルの短さこそが、過去10年間イギリスでパグやフレンチブルが人気を博して来た理由の一部かもしれないと述べています。

また短頭種の犬は、そうでない犬種のグループに比べて問題行動と呼ばれるものが少ないことも分かっています。この点についても、呼吸や体型のせいで運動能力が低いことが関連している可能性があります。

愛らしい顔かたちや性格に魅了される人々が多いのは自然なことですが、人間の好みのために犬の健康や生活の質が低下することについて真剣に考えなくてはなりません。

研究者はパグやブルドッグの購入を考えている人に「購入の前にケネルクラブ、動物福祉団体、獣医師などが発表しているメッセージに耳を傾け、立ち止まってよく考えてみてください」と呼びかけています。

英国ケネルクラブの健康福祉責任者は、ケネルクラブのチャリティ財団を通じてこの研究を支援し、犬種特有の疾患や障害に対する効果的な治療法の開発や、今後より健康な犬を生み出すための繁殖などに科学的データを用いていくと述べています。

短頭種の健康問題を軽減し、将来的には完全に無くしていくために、ケネルクラブと獣医師、動物福祉団体は協力しあって取り組む必要があります。

これはイギリスでの事例ですが、短頭種の健康障害は日本の犬と飼い主にとっても同じく深刻な問題です。

残念ながら日本ではまだヨーロッパのいくつかの国で始まっているような団体間の協力などはありません。ですから犬を飼おうと思っている人、特に短頭種を飼おうと思っている人やすでに短頭種を飼っている人が問題の存在を知ることがスタートです。

まとめ

パグと子猫

イギリスで短頭種の犬と他の犬種との間で疾患データを比較したリサーチ結果が発表され、短頭種の犬の疾患リスクの高さが改めて明らかになったという報告をご紹介しました。

マズルの短さを可愛いとする風潮は、短頭種だけでなくチワワやポメラニアンにも波及しています。見た目の愛らしさのためだけの特定の容姿の改変や強調は犬の健康と福祉を損ないます。

犬だけでなく、猫のスコティッシュフォールドの折れ耳やマンチカンの短い足を作るために選択育種を行い、その結果として遺伝的な要因のある様々な疾患リスクが高くなっていると考えられている例もあります。

このような猫や短頭種の犬のように、人間が「可愛い」と感じるためだけに動物の健康を害するような繁殖は「虐待繁殖」とも呼ばれます。

生まれながらに苦痛を強いられている犬や猫のことについて、知識を持ち真剣に考える人が増えていくことを心から願います。

《参考URL》
https://www.rvc.ac.uk/vetcompass/news/study-reveals-flat-faced-dogs-really-are-less-healthy-than-other-dogs

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