北米先住民が大切に育種したウールドッグ
何千年も前の人々が飼育していた犬というと、多くの人が想像するのは中型〜大型で狩猟や警備を手伝う犬というイメージだと思います。
しかし新しく考古学の専門誌に発表された研究では、アメリカ〜カナダにかけての北西部沿岸地方の先住民の中には、毛織物を作るための毛を取る長毛の小型犬を選択育種していた部族がいたと報告されたそうです。
犬の毛で毛布など織物を作っていた人々がいるというのは地元に伝わる伝説のようなものだと言われていたそうです。しかし2011年にスミソニアン自然史博物館と国立アメリカインディアン博物館に保管されていた毛布に犬の毛が使用されていたことが発見され、考古学者による研究が始まったそうです。
この研究はヨーロッパの探検家が残した記録とウールドッグの歴史を裏付け、犬がこの地の文化においてどれほど重要であったかを明らかにしました。
集落跡から発掘された骨を再検証
研究チームは、アメリカ〜カナダの北西部海岸沿いの330の遺跡に関する過去50年に渡る研究を再検証しました。
遺跡から発掘された17万4千組以上の哺乳類の骨について再調査が行われました。これらの骨はほとんどが過去2500年以内のものでしたが、一部8千年前のものも含まれていました。
骨はイヌ科の動物が多く、ほとんど全てのイヌ科の骨は飼い犬のものでした。オオカミなど野生種のものは約1%に過ぎませんでした。
飼い犬には小型犬と大型犬の2つのタイプがありました。小型犬は毛のために育種されたウールドッグで、大型犬は狩猟や番犬に使用されていたと考えられます。
これら犬の骨が特に豊富に発掘されたのは、アメリカのワシントン州からカナダのブリティッシュコロンビア州とバンクーバー島の間の海域であるサリッシュ海の海岸沿いの地方でした。
骨の大部分は小型犬で、民族史に小型犬が毛のために飼育されていたと記述されることと一致します。
サリッシュ地方のウールドッグ
犬の毛織物が作られていたサリッシュ地方で材料となる毛を取るための犬はサリッシュウールドッグと呼ばれています。上の図はサリッシュウールドッグの復元図で、スピッツタイプのストレートな長毛の小型犬だったそうです。
冬の寒さの厳しいこの地方では、犬毛で作った毛布や上着などは非常に価値のあるものでした。繊維は彼らの財産であり、毛布は通貨として他の物品と交換されました。
一部のコミュニティでは野生のヤギの毛を入手し、犬の毛と混ぜて織物を作る地域もありました。
サリッシュ地方にはヤギはおらず、代わりに年に数回毛を刈ることが出来る毛の長い犬を選択繁殖しました。ウールドッグはとても注意深く大切に育てられ、違う毛質の犬と交雑することを防止していました。
犬の毛を紡いで毛糸にするための道具も多く発見されているそうです。
その後19世紀にヨーロッパから繊維製品が多く輸入されるようになり、犬毛の織物は時代遅れになり、サリッシュウールドッグは絶滅したと言われています。
しかしサリッシュウールドッグの痕跡は、この地域の先住民族のコミュニティにいる長毛種の犬に受け継がれていることが分かっているそうです。
まとめ
アメリカ〜カナダの北西部海岸沿いの地方の先住民の中には、長毛の犬を選択育種して織物に使う毛を取っていた部族がいたという研究結果をご紹介しました。
人間は特定の目的のために犬の選択育種を行ってきましたが、羊毛のように毛を取るためというのは他にあまり聞かないですね。それらの犬の毛を使った織物というのは見てみたいものだと思います。
絶滅したと考えられるウールドッグも地域のコミュニティに末裔たちが残っているというのも、連綿と続く犬の血筋のロマンを感じるお話ですね。
《参考URL》
https://www.insidescience.org/news/study-shows-ancient-americans-bred-dogs-their-wool
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0278416520300726?dgcid=rss_sd_all