クリッカートレーニングの際の報酬
犬のトレーニングにクリッカーを使う方法は一般的にもよく知られるようになって来ました。犬が指示された行動を取るとカチッとクリッカーを鳴らして同時に報酬のオヤツを与えるという方法です。
「音がするとオヤツ」という反射的な条件付けと「指示された行動をとるとオヤツ」という行動の条件付けを組み合わせた、動物福祉に優しいトレーニング法だと考えられています。
原則としてクリッカーを鳴らすことと報酬のオヤツはセットになっていて、カチッと音がするたびにオヤツを与えるのですが。トレーナーによっては時々報酬を省略した方が犬のモチベーションと注意力が高まり学習スピードが上がると主張する人もいます。
一方で、指示された通りに行動してカチッという音も聞こえたのに報酬がもらえないことに犬が不満を感じ、感情への悪影響を及ぼすという説もあります。
オーストリアのウィーン獣医科大学の研究チームが、クリッカートレーニングの際の報酬を与える頻度について学習スピードと犬の感情状態を比較する実験を行い、その結果が発表されました。
2グループの犬にクリッカートレーニングと認知バイアステスト
実験に参加した犬は一般から募集された30匹の家庭犬です。全員が過去にクリッカートレーニングを受けたことがありません。
犬たちは2つのグループに分けられました。グループの犬の性別と年齢は釣り合いが取れるよう調整されています。
2つのグループのうち1つはクリッカートレーニングの際にクリッカーを鳴らすたび毎回報酬のオヤツを与えられました。もう1つのグループはクリッカーを鳴らした時60%の確率で報酬のオヤツを与えられました。
クリッカートレーニングでは、犬たちが指示された木の板に前足を2秒以上置くという行動が教えられました。
犬たちはもう1つ、感情状態を測定する認知バイアステストのためのトレーニングも受けました。これは部屋のAB2つの場所にボウルを置き、Aには常にオヤツが入っている、Bは常に空っぽという状態を学習させるというものです。
認知バイアステストでは、AとBの中間地点にボウルを置いて犬がボウルに近寄る速度や動作を分析することで、犬の思考が楽観的な傾向が強いか、悲観的な傾向が強いかを測定します。
犬の学習速度と感情に違いはあったか?
さて2つのグループの間にトレーニングを習得する速度と、感情の状態に違いはあったのでしょうか?
学習速度については、100%報酬をもらえるグループと60%の確率で報酬をもらえるグループの間に違いは見られませんでした。
対照的に認知バイアステストでは両グループの間にはっきりとした違いが観察されました。クリッカートレーニング中に60%の確率でしか報酬をもらえなかったグループの犬は、悲観的な傾向を示していました。
実験の結果は、トレーニングの際に時々報酬を省略することは学習速度の向上にはつながらず、犬の感情状態をネガティブにする可能性を示しています。これは犬の福祉に悪影響を与えると考えられます。
まとめ
クリッカートレーニングの際クリックのたびにオヤツを与える方法と、60%の確率でオヤツを与える方法を比較すると、学習速度に違いはないが毎回オヤツを与えられない犬は悲観的な傾向が強くなり、犬の福祉に悪影響であるという研究の結果をご紹介しました。
言われた通りの行動をしたのに10回のうち4回は報われないとしたら悲観的になる犬の気持ちは「それはそうだろう」と思いますよね。人と犬の信頼関係にも影響があると思われるので、この研究結果は広く知られて欲しいと思います。
SNSなどには犬にイタズラを仕掛けてガッカリする様子を面白がる動画などが多くアップされています。そのような行動がどのくらい犬の感情や人間との関係に悪影響を及ぼすかが、この研究から伺えるかと思います。
人間は犬にとっては食事や生活の場を提供するという、言わば絶対的な権力を握っている存在です。そのような立場の者からイタズラやからかいを受けるとどのような感じるのか、自分に置き換えて考えると分かりやすく胸が痛むのではないでしょうか。
《参考URL》
https://link.springer.com/article/10.1007/s10071-020-01425-9#article-info