飼い主が留守中の犬の分離不安行動
犬がお留守番をしている間に、トイレの粗相が増えたり、家具などを破壊したり、過剰に吠えるなどの行動は、分離不安行動と呼ばれ多くの人が悩んでいる問題でもあります。
人間にとって望ましくない犬の行動の中でも一般的なものとして知られていますが、なぜそのような行動が起きるのかという要因についてはまだあまり知られていません。
飼い主との結びつきがとても強い場合に起こるのでは?と思われがちですが、新しく家庭に迎えられたばかりの犬にも分離不安行動は多く見られることから、そうとも言えません。
アメリカのテキサス工科大学の研究チームが、飼い主が犬の元を離れる時の挨拶の仕方は、その後の犬の分離不安行動に影響を与えるかどうかについてのリサーチを行いました。どのような結果が出たのでしょうか。
出がけの挨拶や声かけは犬の分離不安に影響を与えるだろうか?
留守番中に不安行動を見せる犬への対策として昔から良く言われているのは、出かける前には犬をかまわないで静かに外に出ることが望ましいというものです。「行ってきます」「すぐ帰るからね」などの声かけをするのは犬を興奮させてしまい、1匹になった時との落差が犬を不安にして分離不安をひどくすると言われてきました。
研究者は一般から募集した犬を2つのグループに分けて実験を行いました。犬たちは新しく家庭に迎えられたばかりの者が選ばれました。
1つのグループの犬たちには実験者が高いテンションで話しかけたり遊びに誘ったりして関わりました。もう1つのグループの犬たちには実験者が一緒にいるけれど犬にはあまりかまわず静かに過ごすという対照的な関わり方をしました。
どちらのグループも10回のセッションを行って、その後の犬の行動、吠え行動、ドアの近くで過ごす時間の長さを観察して分離不安に関連する行動が測定されました。
またこの実験とは別に飼い主への聞き取り調査も行われました。
質問の内容は、犬の分離不安行動の有無に関わらず、飼い主が家を出る時と帰宅した時の、犬に対する態度のテンションの高さや声かけの有無についてでした。
テンションの高い挨拶と分離不安にはあまり関係がなかった!
実験と聞き取り調査の結果は「出かける前に犬に対してテンションの高い態度で関わると不安行動を増加させる」という仮説をくつがえすものでした。
実験においては、実験者が静かに犬に接したグループの方が分離不安行動がわずかながら多く見られました。2つのグループの差は小さいものでしたが、仮説とは反対の結果となりました。
飼い主への聞き取り調査の結果も、犬の分離不安行動と外出時および帰宅時の飼い主の興奮レベルには関連が見られませんでした。
研究者はこの結果に対して「外出時や帰宅時に静かで落ち着いた態度で犬に接することは分離不安に対して実績のある治療法であることは認識しておかなくてはいけない」と述べており、高い興奮レベルで犬に接することを推奨しているわけではないようです。
まとめ
飼い主が外出する際や帰宅した時に、犬に対してテンションの高いはしゃいだ感じで挨拶をしたり構ったりすることは、従来の説とは違って犬の分離不安行動にあまり影響を与えないという研究結果をご紹介しました。
過去の別の研究では、外出前に犬を撫でることで犬が落ち着き留守番中も静かに過ごすことができたという結果を示したものもあります。
また別の研究では、犬の分離不安は行動ではなくその背後にある欲求不満を理解することが治療につながるとしているものもあります。
留守番の前にわざわざ興奮レベルを高める必要はないものの、無視したり冷たい態度を取る必要もないと考えて良さそうですね。
犬の分離不安行動の治療方法はまだ開発段階です。今後の新しい研究にも注目しておきたいと思います。
《参考URL》
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1558787820300460?via%3Dihub