特定の毛色を決定する遺伝子と先天性障害
犬の毛色は犬種は個体を識別する大きな要素で、人間の好みが大きく関わる部分でもあります。そのため、その時々で人気の毛色というものもあります。
マール(大理石のように薄い地色に同じ色調で濃いトーンの斑)パイボールド(白地に1色または2色の斑)アイリッシュスポット(四肢先端、首、頭部に白い部分がある)は人気の毛色パターンですが、これらの毛色を決定する遺伝子の突然変異の結果として先天的に障害を持って生まれて来る犬がいます。
毛色に関連する遺伝子の変異によって生じる障害は色素欠乏症とそれに関連する聴覚および視覚が主なものです。
耳が聞こえない、目が見えないなど先天性感覚障害を持って生まれてきた犬の将来は一般的には悲しいものとして捉えられます。生まれてすぐに安楽死処分となる例も少なくありません。
フランスのエクス・マルセイユ大学の研究者は、先天性感覚障害を持つ犬に関していくつかの仮説を立て、それを検証するためのリサーチを行いました。
検証されたのは次の3つの仮説です。
- 先天性感覚障害のある犬は、心臓、骨格、神経などにも深刻な問題がある例が多い?
- 先天性感覚障害のある犬は、攻撃性や分離不安など行動障害がある例が多い?
- 先天性感覚障害のある犬は、訓練や使役に必要なコミュニケーション能力が低い?
障害のある犬と健常な犬の比較調査
上記のようなことを検証するための科学的なテストというものは今のところ無いそうです。このリサーチが初めてのものとなります。
リサーチは犬の飼い主を対象にしたオンラインアンケートという形で実施されました。
複数の国の、先天性感覚障害がある犬の飼い主と、健常な感覚の犬の飼い主が参加しました。内訳は、障害のある犬223匹(視覚障害23匹、聴覚障害63匹、視覚および聴覚障害137匹)健常な犬217匹でした。
2つのグループの犬たちは、犬種、性別、年齢、飼い主との生活年数の分布がほぼ一致するよう選ばれています。健常な犬のリサーチ結果は比較のためのベースラインとなります。
アンケートの質問内容は、毛色など形態上の特徴、感覚障害の詳細、健康と行動上の問題、犬の普段の活動、飼い主とのコミュニケーションで、回答は詳細に分析されました。
視覚や聴覚に障害がある犬にも明るい可能性が
先天性感覚障害のある犬のほとんどは、被毛と眼の虹彩に色素欠乏を示していました。視覚障害のある犬の多くはマール遺伝子に関連する眼の異常を示していました。
先天性感覚障害のある犬では神経学的な障害が多く報告されました。この点は3つの仮説の一部と一致しましたが、心臓や骨格に関する障害はありませんでした。
他の2つの仮説に関しては当てはまらず、先天性感覚障害があることが行動障害につながるわけではなく、コミュニケーションや普段の活動についても問題がないことが分かりました。
研究者は、視覚や聴覚に障害のある犬に嗅覚を使ったスポーツや場合によっては職業を訓練することで、先天性感覚障害がある犬の生活の質や福祉の向上につながる可能性を示唆しています。
まとめ
毛色に関連する遺伝子の突然変異が引き起こす視覚や聴覚の障害を持って生まれてきた犬の健康や生活全般に関する初めてのリサーチの結果をご紹介しました。
先天的に耳が聞こえなかったり目が見えない犬も、活動やコミュニケーションに問題がなく、楽観的な可能性を持つことが示されました。
このリサーチに参加した犬たちのような先天性の障害は、無責任や無知な繁殖の結果として起こることがほとんどです。
言うまでもなく、この研究はそのような繁殖を肯定するためのものではありません。しかし繁殖者の意図とは別に、生まれて来た犬の福祉が無視されることがあってはならないことです。
研究者は今後さらに詳しいリサーチが必要だと述べていますが、先天性障害を持っている犬の明るい可能性を一般の人に知ってもらうためにも大きな意味のある研究だと言えます。
《参考URL》
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0230651