動物の赤ちゃんが保護者を呼ぶ声
人間の赤ちゃんをはじめとして、さまざまな種の乳児は母親(または保護者)の姿が見えなくなると呼びかけの泣き声を出します。
この泣き声は特別なもので、このタイプの声を聞くと保護者は即座に赤ちゃんのところにやって来ます。さまざまな種の成体は、この乳児の特別な呼び声に対する感受性を進化させて来ました。
この泣き声の発声の機能は哺乳類全体に共通しているため、大人の動物は他の種の乳児の呼び声に反応する可能性があります。
中でも犬は家畜化された動物の中でも特別に人間に近い位置で進化して来たため「動物の成体が他の種の乳児が泣く呼び声に反応するか?」という研究をする際、優れたモデルになると考えられます。
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学の研究チームが、いくつかの種の動物の乳児の泣き声に対する犬の反応を調査し、その結果を発表しました。
ヒト、犬、猫、人工合成の泣き声を比較
実験に参加したのは一般の家庭犬120匹です。オスとメスの割合は半々、どちらも約60%強が避妊去勢済み、年齢は1〜11歳という構成です。
以前の研究で、別の犬のグループを使って大人の犬が子犬が保護者を呼ぶ泣き声を聞いた時の反応を調査したデータがあるため、この実験ではヒトと猫の乳児が保護者を呼ぶ泣き声が調査されました。さらに人工的に合成して作られた泣き声も調査対象としました。
実験に参加する犬の飼い主には、犬が家庭の中で人間の赤ちゃんや子猫と暮らした経験があるかどうかも確認されています。
実験室には犬と飼い主が通され、犬は部屋の中を自由に歩き回ることができます。部屋の中には向こうが見えない壁で作られた小部屋が設置され、スピーカーを使ってその小部屋の中から泣き声が聞こえるよう設定されています。
犬たちはそれぞれ、ヒトの乳児の声、子猫の声、人工音声を聞く3つのグループに分けられており、7秒間の泣き声を30秒間隔で4回聞かされました。
それぞれの泣き声に対する犬の反応は?
大人の犬が動物の乳児の泣き声を聞いた時の反応の速さが分析されました。
犬たちが最も早く反応したのは、子犬の声と人工音声でした。子犬の声に反応するのは納得ですが、人工音声への反応は少し意外な感じがしますね。
子猫の呼び出し泣き声に対する反応は中程度で、最も反応が遅かったのがヒトの乳児の泣き声に対してでした。
家庭内に乳児がいた経験のある犬でも赤ちゃんの泣き声に対する反応の速さには差が見られませんでした。経験のある犬だけが泣き声を聞くうちに刺激に対して馴れていく様子が見られました。
泣き声に対する犬の反応に関して犬の性別の影響は見られなかったそうです。対照的に犬の年齢は反応に違いを生みました。若い犬はより反応が強い一方で聞こえる泣き声に対してストレスを示す行動を見せ、飼い主に近寄ってコミュニケーションを取ろうとしました。
今後さらにリサーチを続けて動物の種を増やして行くことで、反応の違いを生む理由が明らかになる可能性があると研究者は述べています。
まとめ
動物の乳児が保護者から離れた時に呼び出しのためにあげる泣き声を犬に聞かせたところ、反応の速さは、子犬、人工音声、子猫、人間の赤ちゃんの順番だったというリサーチ結果をご紹介しました。
犬は疑いなく人間と特別な関係にある動物ですが、人間の赤ちゃんからの呼び出し泣き声に対する反応は家畜化を経ても変化することはなかったようです。
《参考URL》
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0003347220302505