はじめに
僕は現在、訪問型ドッグトレーナー兼ドッグリハビリストをしています。
犬のしつけはもちろんのこと、犬自身のサイコロジーリハビリテーション(※)や、飼い主さんに犬の本質や知識、犬との関わり方をレクチャーするのが主なお仕事です。
愛犬家の皆さんのお悩みにもそれぞれ様々なタイプがあり、緊急を要するものからそうでないものまで、様々なご依頼を賜ります。
その中から、特に印象に残ったエピソードをご紹介します。
このお話が、少しでもあなたの幸せなドッグライフのヒントになりますように。
※:サイコロジーリハビリテーション:犬が持つ本来の穏やかで安定した精神状態を取り戻す為のリハビリテーションのこと
家では優等生?のラム
ある日僕宛に一通のメールが寄せられました。
「わんぱぱさん初めまして。うちのトイプードルの女の子についてご相談があります。名前はラム。1歳半です。
ドッグランやドッグカフェによく行くのですが、他の犬と仲良く出来ません。
威嚇は当たり前、場合によっては攻撃します。何故だか全く解りません。週に一回しつけ教室にも通っています。教室のお友達とはある程度馴れていますが、スイッチが入ると攻撃するんです。
私は犬のしつけに一生懸命取り組んでいるのに、何故ラムには理解してもらえないのか解りません。家では凄くお利口で私の言う事をちゃんと聞きます。外に出るとまるで違う犬になってしまうので困っています。是非アドバイスをお願い致します」
「ふむふむ。家では凄くお利口?うーん」
とにかくお返事させて頂きました。
「わんぱぱです。ご相談ありがとうございます。症状は解りましたが、ラムちゃんと合わせて頂ければもっと深く原因が解ります。一度お伺いしてよろしいですか?」
するとその日の内にお返信を頂きました。
「是非お願いします。お待ちしてます」
(家では凄くお利口かぁ…。)
ここに何か違和感を感じました。犬の本質から言えば「内弁慶の外面良し」なんですがねぇ。
そして後日、ラムちゃんと飼い主のお宅に伺いました。
「初めまして!わんぱぱです♪」
奥でラムがワンワン吠えていますが直ぐに止みました。(ほう♪)
そしてラムが先に歓迎ムードで玄関にお迎えに来てくれて後に飼い主さんが。(なるほど。お行儀も良いし興奮もしてないな♪)
「こんにちは。ようこそ。ありがとうございます。どうぞお入りください」
リビングに通して頂き、早速カウンセリングの始まりです。
「本当にラムちゃんはお利口ですね♪お行儀も素晴らしいですし」
「そうなんです♪でもこれが外に…ダメ!ラム!…外に出ると変わるんです。先日もトレーナーさんに来て頂いて見て頂いたけど…ラーム!ジッとしなさい!…結局何が原因か解らないって仰って」
「そうなんですか。日常の散歩でも犬に合うと変身しますか?」
「はい。しますね。だから犬が…ラム!こっちに来なさい!…犬が少ない時間帯に行くようにしてます」
「お仕事をされていてはそれも困ったもんですねぇ」
「ええ。だから休みの日は出来るだけこの子と過ごそうとランやカフェに行くようにしているんです。でも…だ~からラム‼︎ダメ!こっちに来なさい!…。せっかく行っても気不味い思いばかりでこの子も楽しそうに見えないし。この子が喜ぶからと思ってしつけ教室にも通っているのに」
「…」僕は言葉に詰まりました。そして
「いつもそんな感じでラムちゃんを叱っておられるんですか?」
「はい。やはり厳しくしつけないといけないと思います。おかげでこんなにお利口さんなのに…。何故でしょうねぇ?」
僕はその会話中の端々に出る、飼い主さんのエネルギーに注目しました。まるでドラマでよく見る「教育ママ」が頭に浮かんできたのです。
その一言一言が凄くヒステリックエネルギーで、ラムがビクッとなるほどです。
「ラムちゃんを褒めてあげることはありますか?」
「勿論です!こんなに大切にしているんですから、当たり前じゃないですか!」
こりゃ飼い主さんは相当『神経質な性格』そうです。ラムが僕の方を見て「何とかしてよ~」と言っているようです。僕は意を決して
「ラムのことを大切に愛情を注いでおられるのはよく解ります。原因は解りました。はっきり言わせて頂きます。原因は全て飼い主さんですね」
「はぁ?何を言ってるんですか!私のどこが悪いんですか⁉︎」
「あなたの前にいるラムを見ていると、あなたの顔色ばかり伺っています。確かに言う事を聞いているように見えますが、僕の目にはあなたが言葉を発する度に、ラムは危険と感じて萎縮している様に映ります。つまり、この室内は危険な場所だと認識している訳です。先ずあなたが根本的に改善し、接し方を変えないとラムは元々持ち合わせた、穏やかな性格に戻りませんよ!」
驚いた表情で絶句する飼い主さん。
(あーちょっと厳しく言い過ぎたかなぁ)
「…。そんなつもりはありません。ラムの為なら…本当にそれでラムが治るのなら私が変わります」
(フゥー)
「解りました。では始めましょうね♪」
ラムへの愛は本物でした♪
でも抑圧や無理強いは犬が一番嫌うエネルギーなんです。
カウンセリングサマリー | |
症状 |
犬に対して攻撃的。人に対する不信感。(恐る恐る近づく、人の顔色を必要以上に伺う) |
原因 |
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対策 |
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さぁ!レスキューです!
今回は僕の相棒、スタッフ犬のシーズーコンビGODYとCOCOに出動要請です。これは、先ずラムがどのタイミングで反応するか確認する為です。車の中に待機させ、ラムを連れて行きます。すると匂いと気配を感じた途端ざわつき始めました。
(なるほど!これかぁ!)
ドアを開けて対面させるとグルルと威嚇音を発しCOCOに飛びかかって来ました!
寸前の所で回避させ、飼い主さんに、
「家の中に入っていて下さい」と告げ、再度チャレンジします。
ラム自身が神経質になっている為、普通の犬族のコミニケーションもイライラしてしまう様なので、先にリラックスさせるリハビリテーションをする事にしました。
飼い主さんに許可を得てラムと二人で散歩に出ました。
すると全く違う顔のラムが現れたのです。凄く穏やかで柔和な表情を見せ始めたのです。川のほとりで二人で座りぼーっとしたり、歩いたり。
途中犬にも遭遇しましたが殆ど反応しませんでした。その間、飼い主さんに確認してもらうためにビデオを回していました。40分ぐらいマッタリと散歩してご自宅に戻り飼い主さんに映像を見てもらいました。
「…。これ本当ですか?」
「そうです。これが本来のラムです。穏やかでしょ♪散歩中はヒールに付けてとかウォーキングはこうするとか、犬が来たら暴れない様にピリピリしたムードで行っていましたね。」
「…。はい」
「確かに散歩中、人間主導は原則です。しかし大切なのは空気感であり飼い主さんのエネルギーなんですね。これからラムよりあなたにトレーニングしますからそのおつもりで♪」
その後、カフェやランにも同行させて頂き数ヶ月間ラムと関わらせて頂きました。うちのスタッフ犬とも一緒に過ごせる様になりました♪
飼い主さんは本当に頑張られました。
僕もそうですが、人間の性格ってなかなか判っていても治せませんよね。飼い主さんが穏やかになるにつれ、ラムも安心したのかどんどん変わって行ってくれましたよ♪
僕が飼い主さんにお願いしたこと
「犬を教育する姿勢から言えば、非の打ち所がない愛犬家だと尊敬します。しかしやり方がマズかったですね。ラムに要求ばかりしてはいけません。ラムの求めることも理解してあげる心の余裕が必要ですね。
不安や心配は勿論ですが、犬と暮らす上で『神経質になる』ことはなるべく避けないといけません。
『こうあるべき!』という考え方は大切ですが『臨機応変』もそれ以上に大切なのです。相手は自然の生き物なのです。
人間の子供でもガンガン詰め込もうとすれば反抗心が芽生えるでしょう。ラムは解っています。認めてあげて下さい♪
本当にラムと楽しみたいのなら犬の本質に則って穏やかに過ごすことです。毅然とした態度だけでは息が詰まります」
「はい。とにかくお利口に振舞って欲しいという一心から厳しく無理強いしていたのがよく解りました。反省です」
「でもラムに申し訳ないとか思ってもラムに伝わらない様にして下さいね。またややこしくやりますから(笑)」
今でも定期的に飼い主さんにラムの様子などご連絡して頂いています。もちろん飼い主さんのメンタルチェックのためですが♪
さいごに
犬と暮らす上で「犬のしつけ」に関心のない方は居ないと思います。あなたもネットを見たり本を読んだりされますよね?
ただ、やり方が判らず遠回りをしてしまったり、諦めの境地に辿り着く方も多く見てきました。
最悪の場合、先日の紀州犬発砲事件の様な痛ましい惨劇を生んでしまいます。日本の愛犬家の意識改革が急務だと強く感じました。方法論に囚われず犬との信頼関係を重視し犬の本質を知る事が解決への近道だと僕は考えます。
当たり前の事を敢えて言わせて頂くと、犬と暮らすという事は日々の積み重ねです。コツコツ積み上げていく事が楽しいドッグライフへの近道です。犬に過度の期待をするから焦る気持ちが芽生えてしまうのです。我々の人生と同じ。おおらかな犬族に見習って急がば回れで行きましょうよ♪
わんぱぱ《今日の格言》
犬のフリ見て我がフリ直せ!愛犬はあなたを映す鏡です!
犬の価値観はあなたで決まります。だからたくさんいい経験をさせてあげて下さいね。