保護団体とペットショップが協力して証明したこと
「そのコは無料です」
街のペットショップに、あなたは新しい家族を求めに行きました。
一目で何かを感じた、ある1匹のわんこ。その犬もあなたをジッと見つめ返してきます。
「いやいや、長い月日を一緒に暮らすのだからもっと慎重に」
と、他の犬も見ようとするかもしれません。
でも、やっぱり最初の犬に引きつけられる。
もうそのコの前から離れられません。
そして、あなたは心を決めて、店員にこう言います。
「このコ、このコをください」
すると店員は
「その犬は無料です。どうぞ連れ帰って家族の一員にしてください」。
そんな返事が返ってきたら、きっとあなたの頭の中は、一瞬、真っ白になるはず。
これ、実話なんです。
ペットショップで知らずに選んだのは保護犬だった
ペットショップでは純血種が売られているものと、みんな思っている。でもその中に保護犬や保護猫がまぎれこんでいたらどうしますか?
これはブラジルの動物保護団体「フォーパウズ(4つのあんよ)」が、「アメリカンペット」というショップの協力のもとおこなった実験です。
何も知らずにペットを買い求めにきたお客さん、果たして選ぶのはどっち?
結果は、多くの人が保護犬を選びました。
店内にこっそりセットされたカメラには、「無料です」と言われたお客さん達の「本当?!」「どういうコト?!」といった、サプライズの様子が記録されています。
その動画がこちら↓
フォーパウズでは、今後も同じ実験を41のペットショップで行う予定だとか。動画をご覧になるとお分かりのように、主に選ばれているのは子犬。成犬での試みも期待したいですね。
逆転の発想が教えてくれたこと
犬を選ぶ基準は“愛情”
さて、ブラジルで行われたこの実験は、私たちに何を教えてくれたでしょう?
もうお分かりですよね?
犬を飼いたいと思って選ぶ時に、純血種であろうが保護犬の雑種であろうが、なーんにも関係ないってこと。
大切なのは、その犬と出会った時に双方に生まれる、目には見えない“何か”。
フォーパウズの人はこう言っています。
「純血種かどうかなんて関係ない。大切なのは、その動物と飼い主との間に生まれる絆。純血種でも保護動物でも、結局は同じ動物。ガラスの中にいる動物と、ガラスの外から見ている人間の間にどれだけの愛情が生まれるか、それが大切」と。
命ってブランドのバッグと同じもの? じゃないよね?
そして、もう一つの大切なポイント。
「うそでしょ?!」と驚いたお客さん達の反応は、何を物語っているでしょう?
お客さんは、自分が選んだ犬は、当然それなりの値段がついているだろうと思っているからこそ、ビックリするわけですよね。
ということは、その犬には、『それなりの価値がある』と信じて疑ってもいないわけです。
命の価値は、犬種=ブランドで決まるわけじゃないってことを証明していると思いませんか?
お店にタダのものなんてない。ペットショップにいるのだから、この犬は当然、金銭的価値があるに違いない。
それは単に常識だからかもしれないけれど、私たちはいかに既成概念に縛られて生きているかを、教えてくれているとは思いませんか?
これまで繰り返されてきた日本のペットブームを思い出してみてください。
CMで特定の犬が「カワイイ!」と話題になれば、人々はその犬種を目指してペットショップを訪れる。
頭の中は「あのCMに出てるのと同じ犬種のコが欲しい」という思いで占められている。
世の中にはたくさんの犬がいて、たくさんの選択肢があるというのに、他の犬達はすでに閉め出されている・・・。
それって、ブランド物の流行に、とっても似てると思いませんか?
フォーパウズの人はこうも言っています。
「人々は高いお金を払って、ペットショップでペットを飼うけれど、人間に愛情を与えてくれるのは純血種だけではない。お金を払わなくても最高の家族となる子を見つけるのは可能」
アイデアひとつで広がるチャンス!保護犬は救える!
このフォーパウズが行った実験はさらに、とってもシンプルなことを証明してもくれました。
まさに、逆転の発想の勝利!
ちょっと頭をひねれば、保護犬達の未来は一気に開けるっていうこと。
アイデアしだいっていうことですね。
世の中では、今も「保護犬って?」と聞き返す人は少なくありませんし、「次に飼うなら保護犬って思っていたけど、どこでどうやって見つければいいか分らない」「だから、ペットショップで買っちゃったんです」と申し訳なさそうに口にする人もいる。
保護犬の話題を「かわいそうだから見るのもつらい」と避けていた人が、たまたま行ったペットショップの売れ残り純血種犬を「かわいそうだから」と購入したケースもある・・・。
でも、そんな人たちが、もしフォーパウズの“実験台”となったら?
街中のペットショップのガラスケージの中に、おすまし顔の保護犬が混ざっていたら?
保護犬の何たるかを知らなくても、「目が合っちゃった」「このコをください」って人、たくさん現れるのではないでしょうか(もちろん、この場合だって衝動買いは禁物。やっぱりちゃんと、犬を飼う責任を自覚した上で、という前提です)。
生かされる命、生かされるお金
1匹の犬の行き先が決まれば、シェルターには1匹分の居場所ができ、失われるはずだった命がまたひとつ生かされることになります。
日本では、保護犬の里親になる場合、多くは譲渡費用がかかるので、ブラジルのケースと違ってタダではありません。
でも、譲渡費用は、ペットショップで買うよりずっと低い金額。そして、そのお金は、その犬の保護にかかった経費が含まれると同時に、一部は、また別の犬を助けるためにも使われます。
お金に命が吹き込まれ、生きたお金として循環していくわけです。
まとめ
ペットショップに保護犬が、こっそりまぎれこんでいたら?
- 純血種かどうかではなく、純粋な愛情による縁が生まれる
- 保護犬について知らない人も、保護犬と出会うチャンスが広がる
- 1匹の犬がもらわれれば、また1匹の保護犬の居場所ができる
- 過密のシェルター環境に、余裕が生まれ、世話も行き届く
- その犬に支払われるお金が、他の犬の命を助けることにつながる
- 飼い主は、その犬に支払うつもりだった高額なお金を、自分の犬のしつけや良質なフード、治療費に回すことができる
そのコがそのコだから可愛い
保護犬の世話をしていたある夜、隣りの塾に通っていた小学生の女の子が訪れました。いつもガラス越しに見ていたと言います。
中に招き入れ、「どの子が気に入ったの?」と聞くと、「このコ」と、1匹のチワワを指差しました。
内心、「ウソでしょ?!」と思いました。そのチワワ、いわゆるペットショップにいるチワワとは、かけ離れた容姿。里親探しは難航するだろうな~と懸念していました。
でも、その子は「かわいい、かわいい」とずっと撫でていました。
最終的に、その犬は別のご家庭に迎えられましたが、あの女の子が愛おしそうに撫でていた様子が忘れられません。
人によって「可愛い」と感じるツボは本当はみんな違う、チワワだから可愛いのではなくて、そのコがそのコだからこそ可愛い、他の犬にはない何かを感じたから愛おしい・・・そう感じる心の働きこそが貴いのだと、教えられた気がしました。
そして、どんな犬にも、人目につくチャンスさえあれば、未来につながる可能性があることも。
日本でも、一部のペットショップが保護犬を店頭に置いて里親募集を始めました。すでに犬を飼っている我々も、大切な愛犬のためのお買い物をするなら、あえてそういうショップを選ぶことも、ひとつの応援のかたちと言えるかもしれませんね。
そして、ジョン・レノンの歌ではないけれど、想像してみましょう。
おしゃれな街のど真ん中に、ガラス張りの素敵なお店。中では保護犬達が自由に遊んでいる。その様子を、出勤する人や、買い物客たちがいっとき足を止めてのぞき込む・・・・。ある人は、昔、飼っていたコによく似た1匹を見つけるかもしれない、またある人は、どうしても目が離せない1匹を見いだすかもしれない・・・。
たくさんの素敵なドラマが生まれそうです。