ラブラドールに多い関節の問題
大型犬に多く見られる関節の障害は、近年様々な研究が行われており遺伝的な要素が強いということが判り始めています。そのような関節障害のひとつに前十字靭帯断裂があります。前十字靭帯は大腿骨と下腿骨をつないでいる太い靭帯のひとつです。膝の関節の中で、関節の動きを制御して安定させる役目を持っています。
前十字靭帯断裂はその太い靭帯が何らかの原因で断裂してしまい、足が体重を支えられなくなった状態です。痛みや違和感から歩行異常が起こって発見されることが多いようです。
ラブラドールでは約6%がこの障害に悩まされているそうですが、世界中で人気犬種であるだけに多くの数の症例が報告されています。この度アメリカのパーデュー大学とミネソタ大学の獣医学研究者が共同で、ラブラドールレトリーバーにおける前十字靭帯断裂の遺伝率を決定するための研究をスタートさせました。
前十字靭帯断裂が遺伝の影響を受けると考えられる理由とは
前十字靭帯断裂は犬の他には人間や馬でも多く見られます。以前の研究からは、犬の前十字靭帯断裂が発症する要因には、犬種、性別、年齢、避妊去勢の状態、避妊去勢処置をした時の年齢などがあることが判っています。
犬種では主に大型犬種と超大型犬種に見られますが、大型犬であるグレイハウンドでは発生率が低いことなどから、この疾患の発生には遺伝的影響があると考えられています。
また犬の前十字靭帯断裂の多くは、接触による負傷や外傷によるものではなく慢性的に少しずつ進行していくものが多いことから「靭帯内で変性プロセスが発生している可能性」「損傷した組織を通常の速度で修復することができない障害がある可能性」などが推測されており、遺伝的影響の可能性が考えられます。
犬のDNAサンプルから遺伝率を決定
この研究で使用された方法は、馬の前十字靭帯断裂の研究において有効であることが証明されており、犬では最初の研究になるそうです。研究者は前十字靭帯断裂を患っているラブラドール190匹と、8歳以上で前十字靭帯断裂に罹患していない犬143匹からDNAサンプルを収集しました。
これらのサンプルから犬の遺伝子型(生物が持っている遺伝子の基本構成)が判定され、そこから複数の方法論を使用して遺伝率が計算されました。その結果、ラブラドールにおける前十字靭帯断裂の遺伝率は0.55〜0.886の範囲という高いものであることが判りました。
今回の研究では遺伝率は判りましたが、関与する遺伝子は正確には示されていません。研究者たちは、今後の研究では前十字靭帯断裂のリスクを高くする遺伝子の特定に焦点を合わせて行くと述べています。
まとめ
ラブラドールの前十字靭帯断裂の発症には遺伝的影響が強いこと、遺伝率を決定するための研究が行われ高い遺伝率が明らかになったことをご紹介しました。今後はさらに発症に関与する遺伝子の特定が研究され、予防や治療のための遺伝子検査に貢献していくことが期待されています。
関節の障害は、犬の運動能力を大きく低下させるため生活の質も下がってしまいます。さらに大型犬に多いことから飼い主の生活の質にも大きく影響します。
現在はまだ遺伝子の特定は出来ていませんが、遺伝が大きく影響しているということは自家繁殖やパピーミルに見られるようないい加減な繁殖を避けることが重要です。一般の飼い主も強く心に留めておきたい点です。
《参考URL》
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/age.12978