セラピードッグの可能性を探る研究
病院や高齢者の施設を訪問するセラピードッグが、人々にポジティブな効果をもたらす事は多くの研究が行われてよく知られています。またペットを飼う事でストレス、不安、孤独などが軽減されることも判っています。
アメリカの大手総合病院メイヨークリニックでは、セラピードッグを使った療法が身体的な痛みのある病気に対しても効果があるかどうかについての研究を発表しました。
研究の狙いはペット療法の生理学的および感情的な利点をよりよく理解することです。具体的にどのような成果があったのかをご紹介していきます。
線維筋痛症の患者を対象にセラピードッグ療法をリサーチ
メイヨークリニックの研究者は同病院で線維筋痛症の治療プログラムに参加している221人を対象としてセラピードッグ療法に関するリサーチを実施しました。
線維筋痛症は全身的慢性疼痛疾患、つまり全身に慢性的な痛みが持続的に起こる病気です。痛みは軽度から激痛まであり、多くは堪え難い痛みであると言われています。原因は未だ判っておらず、決定的な治療法や特効薬はまだ無い状態です。
リサーチでは221人の患者をランダムに2つのグループに分け、1つのグループの人たちはセラピードッグとハンドラーとの20分間のセッションを行いました。
もう1つのグループの人たちは比較対象のためにハンドラーのみと20分間のセッションを持ちました。全ての患者のホルモン値、心拍数、体温、痛みのレベルが研究者によってモニタリングされました。
セラピードッグがもたらした効果とは
セッションによって2つのグループの患者にどのような変化があったのでしょうか。痛みのレベルは両方のグループで低下しました。これは「動物と触れ合うこと」「人間同士で会話をすること」の両方が患者の感情的な面と生理学的な状態を改善できることを示しています。
しかしセラピードッグとのセッションを持った人は、より大きな改善を示しました。数値の面では、セラピードッグのグループの人々は唾液中のオキシトシンレベルが有意に増加しました。オキシトシンは「愛情ホルモン」とも呼ばれ、分泌されるとストレスレベルを低下させ痛みを緩和させることが知られています。
またセラピードッグのグループは、心拍数が減少し、ポジティブな感情が増えてネガティブな感情が少なくなったと報告しています。
80%以上の人がセラピードッグ療法が役立つことに同意しました。またこのリサーチのためのセッションには19匹の犬が参加したのですが、研究者はセッションの後の犬の唾液を採取してホルモン値を測定しました。
測定の結果はストレスの兆候を示しておらず、セッションの後の犬たちはよりリラックスした様子で心拍数は大幅に低下していたと報告されています。つまり犬たちも患者との交流を楽しんだことが伺われたようです。嬉しい結果ですね。
まとめ
慢性的な痛みに悩まされる線維筋痛症の患者が、セラピードッグとのセッションの後にホルモン値や心拍数が落ち着き、痛みのレベルが低下したというリサーチ結果をご紹介しました。
この病気は痛みの他にも疲労や睡眠不足、不安やうつ状態と広い範囲に及び、決定的な治療法がないのですが、動物との触れ合いがストレスと症状の軽減に役立つという調査結果は朗報です。
セラピードッグとしての訓練を受けていないペットの犬や猫と過ごすことでもメリットが得られます。またどうしても動物がダメだという人にも、人間同士の適切な会話などが痛みの軽減に役立つと判ったこともリサーチの成果です。犬に負担をかけない形で、犬からの恩恵を受けられるというのは嬉しい報告ですね。
《参考URL》
https://www.mayoclinicproceedings.org/article/S0025-6196(20)30519-X/fulltext