はじめに
僕は現在、訪問型ドッグトレーナー兼ドッグリハビリストをしています。
犬のしつけはもちろんのこと、犬自身のサイコロジーリハビリテーション(※)や、飼い主さんに犬の本質や知識、犬との関わり方をレクチャーするのがお仕事です。
愛犬家の皆さんのお悩みにもそれぞれ様々なタイプがあり、緊急を要するものからそうでないものまで、様々なご依頼を賜ります。
その中から、特に印象に残ったエピソードをご紹介します。
このお話が、少しでもあなたの、幸せなドッグライフのヒントになりますように。
※:サイコロジーリハビリテーション:犬が持つ本来の穏やかで安定した精神状態を取り戻す為のリハビリテーションのこと
音に異常な反応をするチワワ姫ラン
その日もまた一本の電話から始まりました。
「お電話ありがとうございます!わんぱぱです♪」
「あの~。お聞きしたいのですがチワワの無駄吠えって治りますか?」
「はい!もちろん治りますよ。そんなに吠えるんですか?」
「はい…。それはもう、何か物音がしたら途端にキャンキャン始まるんです。」
「それじゃあ来客や宅配の人もですね?」
「はい…。散歩中も犬には吠えるし向かって行くしで連れていけない状態です」
「そうですか。まぁチワワ特有の部分ですねぇ。何歳ですか?」
「先日1歳になったばかりです。」
「どんどん警戒心が強くなる頃ですね。1度伺ってワンちゃんを見せて頂けますか?」
「はい。よろしくお願いします」
チワワのご相談でよくあるのが、いろんなものに警戒心を示し過剰反応する、俗に言う「ビビリ」ですね。
これはある意味小型犬全般、特にチワワによくみられるもので、小さいが故の性質なのです。
そして後日、訪問させて頂くことに。
先ずは玄関の前に立ちチェックを始めます。ピンポーン!
「キャンキャン!キャンキャン!」
この時の鳴き方に耳を済まします。
ただ「誰?誰?誰か来たよ!何しに来たの?」
レベルの吠えと、
「誰だ?侵入者か?ここは私の縄張りだ!入ることは許さない!入るな!」
とでは全然興奮度合いが違うんですよ。
幸いランは前者でした。飼い主さんが迎えて下さり室内に通されます。ランは途切れ途切れに吠え、様子を伺っています。
こういう時僕はいくら吠えようが威嚇しようが犬を無視します。「今君は眼中にないよ」と告げる訳です。ランは距離を取りながら必死で情報収集するためクンクン匂いを嗅いでいます。(よし!行ける♪)
そしてカウンセリングを始めました。
「初めまして。わんぱぱです。ランちゃんはいつもこんな感じですか?」
「そうなんですよ。でもわんぱぱさんにはあまり吠えなかったですねぇ。先日も電気工事の方が来てくれたのですがずっと吠えてましたし。家の裏に路地があって人が通る度に吠え出します」
「なるほど。それで飼い主さんは吠えを止めようとどういう行動を取られますか?」
「とにかく、うるさい!静かにしなさい!って怒鳴るぐらいですねぇ。でもなかなか止みません」
「それはいけませんねぇ。怒鳴るのは逆効果です。ではそんな時の対処についてもやりましょうね!その他に何か気になることはありますか?」
「電話では言わなかったんですが、ランはつい先日まで警察犬訓練所に預けて訓練してもらってたんです。」
「えっ?訓練所?大型犬とですか?ひょっとして長期間ですか?」
「はい。2カ月間です。あちらではおとなしくていい子にしていたらしいです」
「らしいって。その間ランとは会ってないんですか?」
「いえ。月に1回は見に行ってましまたよ」
「はぁ…」
「8ヶ月齢ぐらいから急に吠え出して。手に負えないので知り合いの訓練所に預けたら治るかなと思いまして」
「うーん…大体の原因が分かりました!ランちゃんにはリハビリテーションから始めますね。同時に飼い主さんもしっかり学んで下さい!」
「はい。よろしくお願いします」
ラン!よく頑張ったんやなぁ~!もう大丈夫だよ~!
カウンセリングサマリー | |
症状 |
いろんなものに警戒心が強くよく吠える。 |
原因 |
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対策 |
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さぁレスキューです!
数ヶ月行っていないとの事なので、先ずは散歩でランの様子を確認します。
ランは思ったよりサクサク歩くんですよ。脚側歩行も出来ています。
「さすがに訓練所に居ただけの事はあるな♪」
他の犬のと遭遇もありましたがそれも無難にクリアです。やはり一番の問題は飼い主さんとの関係性です。
家に戻り吠えの止め方をレクチャーしていると2階からニャンコが降りてきました♪
「あれ?猫もいるんですか?」
「はい♪そうなんです♪」
「ランと仲が良いですね♪」
「はい♪」
しばらく様子を見ているとある事が解ったんです!飼い主さんはランも猫も同じ接し方をしてるんですね。
これはいけません!
実際に猫と犬と同じ接し方をする方はたくさん居ますけどね。ここにも原因がありましたよ。そりゃランは不満タラタラです!
僕が飼い主さんにお願いしたこと
「チワワというのは身体が小さい分、自己顕示欲が強い特性があります。これは元々は大きいのに人間に小さくされた為の弊害です。
周りが自分より大きい生物ばかりになって虚勢をはったり警戒心が強くなったり縄張り意識が他の犬より強くなるのは当然のことですね。
先ずここを理解して下さい。ランがよく吠える一番の原因はランとのコミニケーション不足です。つまりランはあなたを信頼していません。
何故なら猫と同じ接し方をしているからです。犬と猫は根本的に違います。
ランには穏やかにそれでいて毅然とした態度が必要です。猫には赤ちゃん言葉を使っても構いませんが犬にはダメなんですね。」
「そうなんですか?」
「そこで訓練所に預けられたり戻されたりしたらランはどうしていいか解らなくて困っています。
こんなに小さくてもランは『犬』なんですね。犬との接し方を覚えて下さい。
猫とは今のままで全然良いですよ♪今度の訪問の時、ランとドッグランでも一緒に行きましょうか♪
信頼関係を作りに♪」
「はい!ぜひ行きたいです♪」
その後、散歩に行かれたり定期的にランを連れてドッグランやドッグカフェにお出掛けされています。
えっ?ランはどうなったかって?
もちろん飼い主さんの努力で淑女に変身しましたよ~(笑)
さいごに
あなたは『犬とのコミニケーション』と聞くとどんなイメージを持たれますか?
「ちゃんととってますよ♪」と仰る方は結構多いのですが、信頼関係を構築する上で大切なのは、量より質が重要になるのです。
僕は犬を「構う」とか「世話をする」のは余り関係ないと思います。重要視するのは如何に『犬と一緒に楽しむか!楽しませるか!』ということです。
それが出来て犬との心の距離がグッと縮まるんですよ。ただ本質上、犬からはなかなか来てくれないので人間側から歩み寄る必要があるんですよねぇ。
犬との関係性って本質を知ればちょっとしたことで変わるんですね。犬は寛容なので解ってくれるんですよ。だからいくら腕のいいトレーナーや方法論に頼ってばかりいると核心が見えないことがあるのです!
犬にも喜怒哀楽の感情はある訳で、こちらの感情を見透かす能力は人間は犬に敵いません。そこはやはりどんなに小さくても犬の本質が色濃く残っているのです。
我々にも犬にも言えることですがお互いが認め合い、信じ合える関係ほど充実感や安心感、幸福感を味わえますもんねぇ♪
ほんと犬って最高のパートナーですよ♪
わんぱぱ《今日の格言》
犬に小細工は通用しません。何故なら犬に建前はなくいつも本音だから。(建前はありませんが忍耐強いのです。でも犬にも堪忍袋があるんですよぉ♪)