犬の「怖い」についての研究
犬が何かを「怖い」と感じることは自然な感情ですが、日常のごく普通の事柄にまで恐怖が及んだり、怖いと感じるものがあまりにも多かったりすると、犬にとっても不快で生き辛いことですし、一緒に暮らす人間にとっても負担となります。
きちんと対処しないと、犬の攻撃的な行動につながることもあるので、犬の「怖い」という感情にはしっかりと向き合う必要があります。
フィンランドのヘルシンキ大学では犬が感じる恐怖について、環境や遺伝など様々な角度から調査する研究プロジェクトが行われています。
今までにもいくつかその研究結果が発表されていますが、このたびは犬を取り巻く環境と「怖い」という感情との関連についての調査結果が発表されました。
犬が感じる「非社会的恐怖」と生活環境
犬が感じる恐怖にもいくつか種類がありますが、大きな音、新しい状況、滑りやすい床、高い所などの対人や対犬ではない物を怖がるのは「非社会的恐怖」と呼ばれます。
これら非社会的恐怖と生活環境の関連を調査するため、フィンランドの家庭犬13,700匹の飼い主を対象にした大規模なオンラインアンケートが実施されました。
アンケートの回答には「花火を怖がる犬9,613匹」「雷を怖がる犬9,513匹」「新しい状況を怖がる犬6,945匹」「慣れない床面と高さを怖がる犬2,932匹」が含まれました。これら恐怖の対象と、それぞれに犬の生活環境に関する回答を分析した結果、興味深い関連が見られました。
- 子犬時代に多様な社会化の機会を持っていた犬は、恐怖の対象が少ない
- 社会化の不足は「新しい状況」「大きな音」「滑りやすい床」「慣れない歩行面」との関連が強い
- 家庭に他の犬がいる場合、非社会的恐怖は減少した
- 散歩、スポーツなど活動的なライフスタイルの犬は、恐怖の対象が少ない
- 都市部の犬は農村部の犬よりも、怖がりの性質を示すことが多い
社会化の重要性は今までにも多く述べられていますが、ここでもまた子犬時代からの様々な環境や人、犬との接触を経験しておくことがどれほど大切であるかが明らかにされました。
犬種は怖がりな性格に関連する要素のひとつ
犬が非社会的恐怖を示すことについては、環境以外の要素についても述べられています。避妊手術済みのメス犬や小型犬では、非社会的恐怖を示すことがよく見られました。また、怖がりな性格が現れる割合は、犬種によって有意な差がありました。
- 怖がりな性格が最も多い犬種はケアンテリア
- 怖がりな性格が一番少ない犬種はチャイニーズクレステッドドッグ
- コーギーは大きな音を怖がることが多いが、床面への恐れはほとんど示さない
- 大きな音は平気だが床面を恐れる犬種は、ラブラドール、チワワ、ミニチュアシュナウザー、ラポニアンハーダー
ラポニアンハーダーはラップランドハーダーと呼ばれることもある、フィンランド原産のトナカイ牧畜犬です。フィンランドでの研究ならではですね。
犬種によって恐怖を示す個体の多さに違いがあることは、怖がりな性質には遺伝的な面があるということを裏付けています。遺伝病などと違って特別な検査をしなくても目で見て判別できる特性なので、怖がりの犬を繁殖から外すなどの選択が重要です。
また避妊手術済み、犬種などで怖がりの特性に当てはまる場合にも、多様な社会化の機会と活動的なライフスタイルを持つことで、社会的および非社会的な恐怖を大幅に減らすことができます。
まとめ
犬が恐怖を示す度合いには、子犬時代の社会化と活動的なライフスタイルが大きく関連していること、怖がりな性質には犬種も大きく関連しているという研究結果をご紹介しました。
犬が花火や雷を怖がることは「仕方のないこと」と対策をしなかったり、手間がかかりがちな怖がり犬のトレーニングを疎かにしたりすると、犬が怖いと感じるものが増え、恐怖の度合いも強くなります。それはもちろん犬の生活の質を低下させ健康に悪影響を及ぼします。
また怖がりの犬は恐怖を回避するために攻撃的になることもあり、周囲の人や動物の安全にも影響します。
犬の「怖い」に関する研究が進んで、怖いという感情との向き合い方が一般の飼い主さんたちにも浸透していってほしいと思います。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-020-70722-7
https://www.helsinki.fi/en/news/life-science-news/an-active-and-social-lifestyle-reduces-fearfulness-in-dogs-but-differences-between-breeds-are-great